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東京五輪延期で苦境に立たされるホテル業界、国内経済は青息吐息

  • 大手ホテルチェーンの多くが新規ホテルの開業を延期、一部は倒産
  • 国内旅行も「GoTo」対象からの東京除外で需要刺激効果限定的に

7月24日、無人の新国立競技場で五輪の聖火がともることはなかった。本来なら東京五輪・パラリンピックはこの日開会式を迎えるはずだったが、新型コロナウイルスの感染拡大により開催が1年延期され、がっかりしたファンは入手したチケットを持ち続けるべきかどうか迷い、ホテル業者は何千もの空室に頭を抱えている。

  24日は祝日だったが、来年に再設定された五輪の実施可能性を巡る不透明感がくすぶっているため、祝う雰囲気ではなかっただろう。

OLY-2020-2021-TOKYO

新国立競技場


  開会式のチケットを持っていた米フロリダ州タンパ在住のダイラン・クレインさんは、21年7月23日に再設定された五輪の開会式を見に行く気持ちは薄れるだろうと語った。

  「細心の注意を払って予定を組み、全てお膳立てをして、宿泊も楽しみだった」と話したクレインさんは、12人のグループの予定作りを手助けした。「計画を全て作り直すのは、多くの人がタイトなスケジュールを再調整するのは難しい。みんなが安全だと感じるかどうかも分からない」と語った。

コロナで外国人訪日客が蒸発

  政府は今年の外国人訪日客4000万人の目標に向け、五輪が起爆剤になることを期待していた。ただ、今や500万人にも届かないかもしれない状況だ。訪日外国人の旅行消費額は過去最高となった2019年の4兆8000億円から急減し、盛り上がりに欠ける五輪需要は日本企業の保守的な投資スタンスを再び招来する可能性がある。

東京五輪に向けて準備

国内ホテルの投資額は数兆円規模に

出所:財務省

  日本ホテル協会の福内直之専務理事は、「本来なら今が一番盛り上がり、大変な時期であるはずだった」が、それどころかホテル業は今や「未曽有の厳しい状況にある」と語った。

  今月公表された日本銀行の企業短期経済観測調査(短観)にその実態が如実に示された。大企業の宿泊・飲食サービス業の業況判断指数(DI)はマイナス91と過去最低に急低下し、全業種で最悪の結果となった。

かつてない悲観

宿泊・飲食サービスの景況感は急低下

出所:日本銀行

  プリンスホテルを含む大手ホテルチェーンの多くが新規ホテルの開業を延期した。総務省によれば、5月時点でホテル業界の就労者62万人のうち3分の1が休業状態にある。従業員を自宅待機させても、一部のホテルはこの困難な状況を乗り越えるだけの資金がなかった。

  6月にはホテル事業や旅行事業を営むホワイト・ベアファミリーとグループ会社が民事再生法の適用を申請した。帝国データバンクによると、負債総額は351億円で、国内の旅行業者の倒産としては過去最大。

Olympics Displays Ahead of IOC Committee Meeting

五輪マーク(東京・お台場)


  これより先に同法の適用申請に踏み切ったグループ会社WBFホテル&リゾーツの申請代理人を務めたきっかわ法律事務所(大阪市)の森拓也氏は、関西に「インバウンドを見込んで」ホテルを建設していたが、過当競争で事業が厳しくなったと指摘。さらに外交関係の悪化などもあって「中国や韓国の人たちが来なくなり、コロナがきた。そういう状況になって資金をつなげていくことが難しくなった」と語った。

  帝国ホテル広報課支配人の山田純平氏は、ホテルにとって従業員はサービスの質そのものであり、人員削減などに踏み切るのは容易ではないと語った。帝国ホテルでは、「サービスは連続的体験で成り立っており、一つのサービスでも欠落すれば全ては台無し。100引く1はゼロ」と教えられるという。

GoToトラベル

  国内総生産(GDP)の4割超に相当する新型コロナ対応の経済対策の一環として、政府は苦境に立たされている観光業の支援に焦点を絞ろうとしている。22日開始の「GoToトラベル」キャンペーンでは、厳しい観光業への支援や景気刺激のため、国内の居住者が国内旅行をする際に補助が適用される。19年の旅行消費額の約82%は国内旅行者が占めた。

  GoToキャンペーンを巡っては、全国への感染症拡散を助長しかねないと懸念する人々がいるため、国民の広い支持は得られていない。東京都の感染者数が再び拡大傾向にある中、都民はキャンペーンの対象から外され、開始前から修正を余儀なくされた。ゴールドマン・サックスでは、都民の除外によりキャンペーンの需要刺激効果は20%程度低下すると試算している。

Olympics Displays Ahead of IOC Committee Meeting

東京五輪のシンボルマーク


  今夏以降を見通しても、新型コロナ感染への警戒感から観光業の回復は緩やかなペースにとどまるとアナリストはみている。五輪観戦を予定する人にとって、完全な形で開催された場合と同じ感動を得られないかもしれない簡素化された来年の五輪のためにチケットを持ち続けるかどうかは難しい判断だ。

  商業不動産サービス会社CBREホテル部門ディレクター 土屋潔氏は「数週間のイベントとはいえオリンピックの影響はホテル産業にとって非常に大きい」とし、「さらに大きいのは東京、日本が改めて観光地として世界中の人たちに再認識される効果だ」と述べた。

人生を変える経験

  1964年の東京五輪でホッケーのカナダ代表だったビクター・ウォーレンさん(82)は、ホッケーのオーストラリア代表で銅メダルに輝いた五輪仲間であるジョン・マクブライトさんと今回の五輪を東京で観戦することを楽しみにしていた。

  コロナの収束に不透明感が残る中でもウォーレンさんは、来年東京で観戦すると言い切る。「五輪は人生を変える経験であり、一生忘れられないものになる」と言う。

  一方で全ての計画をキャンセルした人もいる。シドニー在住の市場調査担当者、エマ・チャーンサイドさん(29)は、ボーイフレンドと別のカップルと一緒にオーストラリアの女子水球チームの応援に駆け付ける予定だった。

  「シドニーもロックダウン(都市封鎖)されてしまい、もうこれは無理だと思った」とチャーンサイドさんは語った。

原題:Delayed Olympics Leaves Hotels Deserted and the Economy in Limbo(抜粋)

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