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長官にも直言、若手育成の取り組みで見えた光ー金融庁改革待ったなし

  • 「政策オープンラボ」は「若手が物を言えず萎縮している」現状打破
  • 有志で立ち上げた「ちいきん会」からは地域課題解決支援室が誕生

「素晴らしい」、「本当にすごい」。金融庁で6月に開かれた職員による研究報告会で、遠藤俊英長官は幾度もつぶやいた。若手による政策立案を促すこのプログラムは、参加者が業務の2割程度まで研究に時間を割くことを可能にした。

  このプログラムは、金融庁改革を象徴するものだ。遠藤氏は2018年7月、スルガ銀行の不正融資問題を巡る監督方針の是非が問われる中、長官に就任。当初から「深度ある対話」という言葉を多用し、定期的な検査で締め付けるより、金融機関との対話を通じてリスクや必要な対応策を探ることの重要性を強調した。

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金融庁(2018年撮影)

Photographer: Akio Kon/Bloomberg

  しかし、就任後に感じたのは「若手が物を言えず萎縮している」現状だった。記者との懇談会では、「ベテラン幹部はつい若者に意見を押し付けてしまう」と冗談交じりに語ったこともある。金融機関との対話で異変やリスクを察知し、必要な政策を提案できる人材の育成を目指して18年に立ち上げたのが、このプログラム「政策オープンラボ」だった。前事務年度(19年7月ー20年6月)には14チーム約120人が参加した。

  研究報告の中で、「僕らロートル幹部が考えもしなかった」と遠藤氏が注目したのは、地方銀行の経営環境についての日米比較。これまで米国と言えば、JPモルガン・チェースやシティグループなど大手を引き合いに出していたが、米国の地域銀行を比較対象にすると、取引先との関係構築に「担保」法制の違いがあることが分かった。

  米企業がメインバンク1社に取引を集中する背景には、事業性を評価し、経営を包括的に担保とする考え方がある。日本では不動産など現物が担保対象のため複数の銀行が貸し付けをし、銀行単独では取引先企業の経営改善に踏み出しにくい。遠藤氏は、法体系を検証し、「法務省に働き掛ける」ことも課題と、研究報告を通じて教えられたという。

  低金利環境と少子高齢化が進む中、金融システムの維持は難しくなっている。1998年に不良債権問題の解決を最優先課題として発足した金融庁(当時は金融監督庁)も変革を迫られており、2017年には、従来の検査・監督では「重箱の隅をつつきがち」であり、「形式・過去・部分」にとどまっていた視野を「実質・未来・全体」に広げるべきとの見解を公表していた。

心理的安全性

  金融庁職員の菅野大志氏は2年前、地域課題を解決したいと政策オープンラボに参加。有志を募ると14人が集まった。人材育成の枠組みでもあるため、「トライアンドエラー」が許される安心感があり、他省庁に話を聞くなど行動を起こすことから始めた。

  地方創生に関心のある公務員と銀行員が交流する「ちいきん会」を立ち上げると、専門人材の不足などの課題が浮き彫りになり、総務省や環境省、内閣官房など省庁を超えた制度利用や人材マッチング制度の構築が進んだ。熊本県では県が起業支援を予算化するなど、各地で実績を積んでいる。

  活動を支えたのは、遠藤長官が唱える「心理的安全性」だ。1999年にハーバードビジネススクールのエイミー・エドモンドソン教授が提唱した概念で、上司や同僚の評価を恐れず発言や行動ができる環境を指す。庁内で自由な発言や提案がしやすくなったと感じた菅野氏は、ちいきん会の参加者にも肩書を外して私服で出席するよう要請した。金融庁は昨年7月、チームをサポートするため地域課題解決支援室を設置した。

課題山積

  この取り組みでボトムアップのアプローチは実現したが、金融機関の抱える構造的な問題は山積している。新型コロナウイルス発生前の2019年3月期は上場地銀79行のうち40行の本業利益が赤字。新型コロナ禍にあえぐ企業に経営アドバイスを含めた十分な支援ができるかは不透明だ。

  遠藤氏は最近、一般職員がオンラインでモニターできる幹部会議の後、「幹部の発言があまりにも無難で、より根本的なダイバーシティが必要」と指摘するメールを職員から受け取った。改革をさらに進め、「議論の過程も対外的に発信する」ことが必要だと考えている。都合の悪いことを内輪にとどめてしまうのを回避する狙いだ。

  就任後、地方銀行の検査と監督体制を統合し、不良債権対応に活用された検査マニュアルを廃止すると同時に、経営の実効性向上に向けた対話の主要論点「コア・イシュー」を公表した。決済や送金など機能ごとの法制を再編し、フィンテック事業者を含めた新たな金融制度への移行も進めた。

  足元では銀行規制の緩和も検討されているが、遠藤氏が求める「金融規制のあるべき姿の抜本的議論」ができるまで「心理的安全性」は高められたのか。改革は、20日付で新長官に就任する氷見野良三氏に引き継がれる。

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