コンテンツにスキップする
cojp

中国の攻撃でナンバーワン企業破綻か、トップ継いだのはファーウェイ

  • 無線技術で世界トップ級のノーテル、長期のハッカー攻撃後に破綻
  • 技術者得たファーウェイは5G開発の中心に-攻撃への関与否定

2004年当時、世界有数の大企業でカナダを代表する通信機器メーカーだったノーテル・ネットワークスから大量の書類がインターネット経由で中国に届き始めた。4月のある土曜日、午前8時48分のことだった。流出した800近い文書には顧客との会合での説明資料や米通信ネットワーク設計の詳細などに加え、最も厳重な扱いを要する情報であるソースコードも含まれていた。

2920P_HEIST_HUAWEI_05-CMS

ノーテルのオタワ本社(2001年)

写真:カナダ航空

  急成長を遂げ光ファイバーデータ伝送システム市場で圧倒的な存在感を示していたノーテルは人材や話題を集める一方、ハッカーの標的にもなっていた。米中央情報局(CIA)のカナダ版、カナダ安全情報局(CSIS)は1990年代後半から「異常なトラフィック」を認識。中国を拠点とするハッカーがデータと文書を盗み出していると警戒を促していた。CSISのアジア太平洋部門を当時率いていたミシェル・ジュノーカツヤ氏は「オタワのノーテルを訪れハッカーたちが『知的財産を抜き取っている』と伝えたが、幹部らは何もしなかった」と語る。

  2004年までにハッカーはノーテル最上級幹部のアカウントに侵入。当時の最高経営責任者(CEO)、フランク・ダン氏が中国に約800もの文書を送信した張本人に見えたが、犯人はもちろん同氏ではない。財務諸表の修正を余儀なくされた同社の会計不祥事でダン氏が解雇される4日前、何者かが同氏のログインで、上海ファシエン社(Shanghai Faxian Corp.)に登録されているIPアドレスにパワーポイントや機密性の高いファイルを転送した。同社はノーテルとの取引実態不明のダミー会社のようだった。

2920P_HEIST_HUAWEI_01-CMS

フランク・ダン氏(2003年)

写真家:ジム・ヤング/ロイター

  ハッカーはダン氏に加え、ノーテルが巨額投資を行っていた光学部門の6人のパスワードを盗んだ。「Il.browse」というスクリプトを用いて、製品・研究開発から設計文書・議事録に至る全てをノーテルのシステムから吸い取った。当時のシステムセキュリティー上級顧問でハッキングを調査した5人チームの1人だったブライアン・シールズ氏は、「掃除機のように、フォルダーのコンテンツ全体が吸い取られた」と振り返る。だがノーテルは適切な対策を怠り、単にパスワードを変更しただけだった。09年までに同社は破綻した。

  誰がノーテルをハッキングしたのか、盗まれたデータが中国のどこに流れたかは誰にも分からない。だがシールズ氏やこの事件を調査した多くの関係者が、華為技術(ファーウェイ)を含む国内テクノロジー企業の育成を後押ししていた中国政府の関与を強く疑っている。ファーウェイは当時のノーテルに対するハッキングは知らなかったし、関与もしていないと説明。ノーテルから一切情報は受け取っていないとしている。 「ファーウェイにスパイ活動への認識ないし関与があったとの疑惑は完全に間違いだ」と同社はコメント。 不適切または不正な手段によって開発されたファーウェイの製品やテクノロジーは一切ない」と主張した。

  確かなのは、衰退するノーテルからファーウェイが大口顧客を奪い、第5世代(5G)移動通信ネットワークでのリードをもたらした人材も引き抜いたということだ。 「明白で簡単なことだ。ノーテルで経済スパイ活動が行われたのだ」とシールズ氏は言う。 「世界のどの事業体がナンバーワンを引き継いだか、どれだけ急激にそうなったかを見たらよい」と話す。

2920P_HEIST_HUAWEI_02

中国広東省深圳にあるファーウェイ本社

写真:Imaginechina / Alamy

  日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査によれば、中国の政策銀行、 国家開発銀行は05年、移動通信ネットワーク向けにファーウェイの設備を購入するナイジェリア政府に2億ドル(現在のレートで約215億円)を融資する際、1%という極めて低い金利を提示した(当時の指標金利は6%を超えていた)。1999年の国外売上高が5000万ドルだったファーウェイだが、2005年末までにはその100倍の50億ドルに急増。11年には当時のフレッド・ホックバーグ米国輸出入銀行総裁が主要7カ国(G7)の「どの国も国家開発銀行に近い水準の資金提供はしていない」と述べるなど、中国政府の支援を背景にファーウェイが世界中の重要な通信インフラの大半をいずれ保有するのではないかとの懸念が米国を中心に強まっていった。

relates to 中国の攻撃でナンバーワン企業破綻か、トップ継いだのはファーウェイ

イラスト:ブルームバーグビジネスウィークのジョーダンモス

  サイバー攻撃は他にもよく知られたケースがあるものの、ノーテルへの攻撃は特にひどい部類に入るだろう。少なくとも2000年から09年まで長期間続き、シールズ氏によれば、その洗練された手口には民間企業ではなく国家の関与が明らかに認められた。

  だが業績立て直しに精一杯だったノーテル幹部はほぼ無策だった。ハッキング発覚前に解雇されたダン氏には知らされず、後任CEOに就いたビル・オーウェンズ氏らノーテル側が行ったのはパスワード更新。そして、ファーウェイへの提案だった。オーウェンズ氏はファーウェイを創業した同社CEOの任正非氏と合併の可能性を巡って繰り返し会談。ノーテルのCEOをオーウェンズ氏から05年11月に引き継いだマイク・ザフィロフスキ氏は米モトローラ最高執行責任者(COO)時代、ファーウェイ買収合意に近づいた経緯もあり、同氏の下でノーテルとファーウェイはルーター・スイッチの合弁やイーサネット部門売却、さらには救済策の可能性さえ協議した。

2920P_HEIST_HUAWEI_03

ビル・オーウェンズ氏(2005年)

Photographer: Adrian Wyld/CP/AP Photo

  これらはどれも実現しなかったが、ファーウェイにとって大した問題ではなかっただろう。破綻しつつあるノーテルで5Gテクノロジーの基盤を開発していた約20人をひっそりと採用したからだ。現在ファーウェイのワイヤレス事業最高技術責任者となっているウェン・トン氏もノーテルに14年間在籍。モントリールにあるコンコルディア大学で学んだ同氏はワイヤレス調査で100を超える特許に関与し、ノーテルの最も価値ある知財の幾つかを生み出した。

  ファーウェイのリサーチ戦略・パートナーシップ担当幹部ソン・チャン氏はノーテル破綻までファーウェイは新たな技術を生み出す企業ではなく、改良と低価格を提供できる追随型の企業だったとの認識を示す。同氏もまた1990年代後半、ノーテルで働いていた。

  次世代無線インフラの標準を定める2016年の業界会議では、ファーウェイが取り組んできた「ポーラ符号」が他のプロトコルと共に選ばれた。それまでこうした会議は欧米勢が牛耳っていたが、この時は全ての中国企業が米クアルコム開発の既存アプローチを支持する陣営に対抗。中国のレノボ・グループ(聯想集団)は当初、欧米案を支持していたが、最終的にファーウェイ側に回った。

  この会議に参加していたシグナルズ・リサーチ・グループの創業者マイク・ザランダー氏は中国政府がファーウェイと足並みを乱さないよう自国企業に圧力をかけたのは明らかなようだったと指摘する。こうして、ファーウェイは5G開発の中心企業となった。

Annual Revenue

Data: Company filings, Bloomberg

 

2920P_HEIST_HUAWEI_04

ファーウェイの孟晩舟CFO

Photographer: Darryl Dyck/The Canadian Press/AP Photo

  カナダでは18年12月、ファーウェイの孟晩舟最高財務責任者(CFO)が対イラン制裁違反に関係した銀行詐欺容疑を主張する米国の要請で逮捕された。創業者の長女である孟CFOの逮捕後すぐに中国でカナダ人2人が拘束されたが、これは中国による報復だと広く考えられている。カナダで保釈中の孟CFOは無実を主張。中国政府は企業のためにサイバースパイ活動を行っているとの疑惑を否定し続けている。ファーウェイは元中国人民解放軍エンジニアの任氏が香港に隣接する広東省深圳で1987年に設立した。

原題:Did a Chinese Hack Kill Canada’s Greatest Tech Company?(抜粋)

(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)
    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中 LEARN MORE