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危うい日中関係「新時代」、米中の対立激化の巻き添えに

更新日時
  • 香港情勢や新型コロナの発生源を巡り米中が応酬
  • 尖閣諸島の周辺海域で緊張高まる、日本でくすぶる対中不信感

日中関係にとって今年は歴史的に重要な年になるはずだった。米国と中国の対立が激しさを増す中で、安倍晋三首相は最大の貿易相手国である中国と、安全保障上の唯一の同盟国である米国との争いに巻き込まれ、それが日中関係にも影を落としている。

  全てが計画通りに進んでいれば、習近平中国国家主席は5月に、この10年では初の国賓として訪日する予定だった。安倍首相が日中関係の「新時代」の象徴になると語った一大イベントは、両国の新型コロナウイルス感染症対応のため延期となり、新たな日程も未定だ。

  新型コロナのパンデミック(世界的大流行)に加え、香港を巡る問題が米中対立の新たな火種となる中、安倍首相は国内でも逆風にさらされている。外出自粛の影響で落ち込んだ経済のてこ入れに取り組むが、エコノミスト予想では4-6月期国内総生産(GDP)は約22%のマイナス成長と、1955年以降で最大の落ち込みになる見通しだ。

  米中対立では、トランプ米大統領と個人的な信頼関係を築いている安倍首相が米国寄りの姿勢を強めれば、日本の投資・資産や企業のサプライチェーンなど中国における日本の経済的基盤を危険にさらしかねない。

Bilateral Meetings Ahead of the G-20 Summit

安倍晋三首相と習近平中国国家主席(2019年)

Photographer: Kimimasa Mayama/Pool via Bloomberg

  安倍首相は5月25日の記者会見で、米中間で新型コロナウイルスの発生源を巡る議論があることについて、「中国から世界に広がったというのは事実である」と指摘。日本は同盟国である「米国と協力をしながら、さまざまな国際的な課題に取り組んでいきたい」との立場を示した。中国に対しては、「世界の中において極めて経済的にも重要な国であり、またプレーヤーでもある」とした上で、「それにふさわしい責任も果たしてほしい」とした。

  中国外交官として日本駐在の経験がある中国国際問題研究所の時永明副研究員は、「中国との関係が完全に冷え切ってしまうと、国内外で安倍首相に悪影響が出てくるだろう」と予想する。

  尖閣諸島周辺で中国公船が活発に行動する中、中国が香港の高度な自治を脅かしかねない香港国家安全法を採択したことは、中国に対する日本の警戒心を呼び覚ますことにつながった。野党だけでなく与党・自民党の一部からも習主席の来日計画の再考を求める声が上がっているからだ。

  自民党の外交部会と外交調査会は5月29日、「香港国家安全法」の制定方針を採択した中国を非難する決議文をまとめ、習主席の国賓訪日を再検討するよう政府に求めた。中山泰秀外交部会長は2日ブルームバーグに対して、尖閣諸島周辺の領海侵入や日本漁船の追尾事案も重なり、「中国に対する危機感がある意味でのピークに達した」と説明。政府が進める国賓訪日を与党が再検討すべきと決議するのは「異例中の異例、今までではあり得ない」と述べた。

  中山氏はコロナで世界中が苦労し、多くの命が失われている中で、「軍備拡大、尖閣諸島、南シナ海の人工島、そして香港という人権問題」が進められていることに懸念を表明。中国による「力でねじ伏せるような行為を厳に慎んでほしいと思うのは当然のことだ」と指摘した。

  尖閣諸島を巡る日中間の対立が最高潮に達した2012年に第2次政権をスタートし、中国との関係改善に力を注いできた安倍首相にとって、こうした状況は打撃になりかねない。安倍首相は中国への公式訪問を実現し、新型コロナの感染拡大前は中国からの訪日客も増加したが、国内での対中不信感はくすぶり続けたままだ。

Source: Genron Japan-China Public Opinion Survey 2019

  

  政治的な課題を抱える中にあっても、これまでのところ日中経済は強い関係を維持している。財務省の統計によると、日本の対中直接投資は16年から19年に37%増加した。日中の良好な経済関係を背景に、中国は日本に対して米国とは異なる対応をしてきた。

  西村康稔経済再生担当相は5月28日の記者会見で、コロナ禍で落ち込んだ中国向け輸出について「全体として底を打った感じがしている」との見方を示し、「中国経済が回復基調にあることは、日本経済にとってもプラス」と強調した。国内の各自動車メーカーも現地生産再開の動きがあることに触れ、「中国の景気回復を期待したい」とも語った。

  もっとも、日中関係が悪化しかねない兆候がある。政府は4月の緊急経済対策で、生産拠点が集中する中国などからの移転を支援するため、総額2435億円を20年度第1次補正予算に盛り込んだ。5月には国の安全保障に関わる産業への外国投資家による直接投資の監視を強化する改正外為法が成立した。

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  日本が中国製テクノロジーに制約を課せば2国間関係が損なわれる恐れがあるとの中国政府の警告にもかかわらず、こうした措置は中国の華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)を標的にしているようだ。米政府は安全保障上の脅威があるとしてファーウェイの製品を排除するよう同盟国に促した。ファーウェイは米国の主張を否定している。

  日本政府は全ての独立行政法人と個人情報を扱う政府指定の法人に対し、重要な通信機器を調達する際に安全保障上のリスクを考慮するよう求めることになった、とNHKが報じた。これによりファーウェイなどの排除が一層進む見通しとしている。

  駐中国防衛駐在官を務めた笹川平和財団の小原凡司上席研究員は、「中国への警戒感は常にある」と述べた上で、「米国が強く中国に当たってくれることで、実は日本はその動ける範囲が広がっているという側面もある」と語った。

コロナ発生源巡る応酬

  互いの応酬が続く中でも中国は日本には米国ほど強い姿勢は取らず、日米と同時に敵対することを回避している。新型コロナの影響で景気が落ち込む日本は、重要なビジネスパートナーと一層の関係悪化を避けることに神経を注ぐ。

  一方で安倍首相は、米国で6月に開催予定だった主要7カ国(G7)首脳会議について、帰国後に2週間の隔離が求められる可能性をメディアが報じる中でも、訪米に前向きな姿勢を示した。トランプ大統領はその後、G7首脳会議の9月延期を発表した。

  香港問題を巡ってトランプ大統領は、中国に対し強力で実効性のある行動を取る考えを示し、日本政府も深い憂慮の念を中国側に伝えた。安倍首相はその数日前、新型コロナは中国から世界に広がったと記者団に語り、トランプ氏を支持する立場を明らかにしていた。この発言に対し中国側は、新型コロナの発生源は不明であり、科学的な調査が必要だと反発した。

  日本は中国が経済を政治利用することを経験済みだ。10年ほど前、中国は日本のテクノロジー産業に欠かせないレアアース(希土類)の輸出を制限した。

  小原氏は「中国は経済的に影響力を高めるとそれを利用し、相手に自分の要求を飲ませようとする」と指摘。中国は将来のコロナワクチンも、政治的に利用する可能性があるとの見方も示した。

原題:‘New Era’ for China-Japan Ties Dissipates Over Trump-Xi Fight(抜粋)

(自民党外交部会長のコメントなどを追加して更新しました)
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