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世界に広がる「コロナデフレ」の暗雲、鍵握る賃金と金融システム

  • 日本の物価はすでに水面下、所得減で不安は短期から将来に拡大へ
  • 信用コスト増が金融機関を圧迫、長期化なら融資慎重化の懸念

新型コロナウイルス感染症拡大の収束後、世界経済にはインフレとデフレのどちらへの圧力が強まるのか。各国が相次ぎ打ち出した大規模な財政・金融政策はインフレをもたらすとの見方もあるが、低インフレからの脱却をさらに難しくすると分析するエコノミストが多い。

  「1997年ごろまでは、皆が以前の好景気に戻れると期待していたが、金融危機や増税などが続いたことで、希望は打ち砕かれてしまった」-。経済企画庁(現内閣府)で調査局長などを歴任した小峰隆夫大正大教授は、バブル崩壊後の日本経済について「そこから先行きに対する見方が変わった」と振り返る。
  
  資産価格の下落に端を発したバブル経済の崩壊と、感染症のパンデミック(世界的大流行)というコロナショックを同一に論じることはできないが、今回も経済成長の急劇な落ち込みが人々のデフレ意識を再燃させる危険性をはらんでいる。

日米欧中銀が注目のインフレ指標はいずれも下向き

  アセットマネジメントOneの村上尚己シニアエコノミストは「コロナショックはデフレ的なインパクトの方が、インフレ的なインパクトよりも断然大きい」とし、「コロナの影響で世界的にデフレ圧力が強まる中で、消費者物価でみれば日本は最もデフレ的であり、そうした環境に一番弱い国と位置付けられる」と分析する。

  日本の消費者物価(除く生鮮食品)は、4月に前年比0.2%の下落となり、3年4カ月ぶりのマイナスに転じた。原油安によるエネルギー価格の下落が主因だが、宿泊料や外国パック旅行費の下落などコロナの影響も次第に顕在化している。日本のインフレ期待は実際の物価動向に左右されやすく、失速が避けられそうにない状況だ。

弱いインフレ圧力

日本の物価上昇率はG7で最低

出所:OECD

  もっとも、デフレの影におびえているのは日本だけではない。コロナ以前から低成長・低インフレの長期化が先進国の共通課題になっていたが、各国の中央銀行が量的緩和やマイナス金利政策など非伝統的な金融政策を駆使しても、十分な成果は得られなかった。

  「ジャパニフィケーション(日本化)」にあえぐ先進国経済に追い打ちを掛けるように発生したコロナ問題。今後も制約的な経済活動が続くことによる需要の低迷や、原油価格の下落などを通じ、多くの経済圏でインフレを一段と抑制する要因となる可能性が大きい。

Japan Ends Virus Emergency In Most Prefectures

ドラッグストアの商品を眺める買い物客(仙台市、15日)

Photographer: Soichiro Koriyama/Bloomberg

  過去の日本の教訓からは、賃金の減少による将来不安の高まりや、実体経済の悪化が金融システムに波及するリスクを未然に食い止めることの重要性が浮かび上がる。

  現在はコロナの影響で需要、供給とも減少しているが、収束により工場の稼働などで供給が増えても、感染を恐れて人々の慎重な行動が続けば、需給バランスは崩れる恐れがある。企業収益の減少を背景に雇用や賃金を削減する動きが広がれば、将来への不安が強まり、消費が一段と抑制されるのは確実。バブル崩壊後の日本では、企業が人件費抑制のために非正規雇用の割合を高めたこともデフレの一因となった。

米企業の間に広がる賃下げの動きに関する記事はこちらをご覧ください

伸び悩む賃金

デフレ回避へ鍵握る

出所:厚生労働省

  抑制的な経済・社会活動が続く中で、特に懸念されるのがサービス消費の動向だ。日本銀行元理事の門間一夫みずほ総合研究所エグゼクティブエコノミストは「デフレマインドを示す証拠の一つ」としてサービス価格の動向に注目している。

  サービス価格は賃金との連動性が高いとされる。米欧に比べて日本のサービス価格の動きは鈍いが、門間氏は「何年もインフレを経験していないことで、日本人の中に物価はそんなに変化しないとの見方が深く根付いてしまった」とし、「それを変えることは不可能に近い」と断言する。

デフレマインドを後押し

サービス価格は長期停滞

出所:総務省


  金融システムの安定維持も不可欠となる。バブル崩壊後は、金融機関が地価の下落を主因とした膨大な不良債権の処理を進めた結果、企業の倒産や人員の整理などが相次ぎ、デフレ圧力が一気に強まった。

  政府や日銀の支援を受けて、金融機関はコロナの影響に苦しむ企業の資金繰りを支えるための貸し出しを積極化している。ただ、人口減少に加え、長引く低金利環境を背景に金融機関の収益力は低下傾向が続いている。コロナ問題が一段と長期化すれば、信用コストの増大が金融機関経営に重くのしかかり、慎重な融資姿勢に転じる可能性も否定できない。

  政府は27日、事業者の店舗賃料の軽減や雇用調整助成金の拡充、企業の資金繰り支援の強化などを柱とした過去最大となる歳出総額32兆円の2020年度第2次補正予算案を閣議決定し、再デフレ阻止の姿勢を鮮明にした。

  もっとも、「日本の新型コロナウイルス感染症自体は順調に収束したとしても、世界各国でまだ残っていれば、必ずしもV字型回復にならない可能性がある」(黒田東彦日銀総裁、25日の麻生太郎財務相との共同記者会見で)のも事実。政府は25日、緊急事態宣言を全国で解除したが、デフレリスクとの闘いはこれから正念場を迎える。

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