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宇宙飛行士の作業をアバターロボがこなす未来-費用減で探査支援

更新日時
  • GITAIは宇宙飛行士のコストを100分の1とすることを目指す
  • 国際賞金レース「ANAアバターXプライズ」では22年まで技術競う

宇宙ステーションで人間が科学実験や映画撮影に集中できるよう、アバターロボットが掃除や機器のメンテナンスをしてくれる。そんな未来が近づいている。

  国内を開発拠点とするロボットベンチャーとしては唯一、宇宙用ロボットを専門とするGITAI(本社サンフランシスコ)は、宇宙飛行士の作業を代替するアバターロボットを都内の日本支社で開発している。

Gitai robot prototype

宇宙飛行士の作業を代替するGITAIのアバターロボット

Source: Gitai Inc.


  国際宇宙ステーション(ISS)を模した空間でロボットが行う動作の指示は、10メートルほど離れた場所に座るオペレーターが出している。手元の装置で操作し、ロボットからは触覚が伝わって正確な動作が可能になっている。オペレーターのVR(仮想現実)ゴーグルに連動したロボットの目に相当するカメラは180度の視野を持ち、高解像度の現場映像のほか温度や赤外線を可視化した映像を伝送する。


  ISSにアバターロボットを送り込み、地上の管制室にいるオペレーターが遠隔操作することで、自律型ロボットでは困難なきめ細かい動作が可能になるほか安全性も発揮され、宇宙開発のコストやリスクの低減につながると期待されている。

  2010年にスペースシャトルのディスカバリー号に搭乗し、ISSの組み立て・補給ミッションに携わった宇宙飛行士の山崎直子氏によると、物品の管理や実験機器の入れ替え、エアコンのフィルターにたまるほこりの除去や掃除などメンテナンスに多くの時間を費やす必要がある。「感覚的には4分の1くらいメンテナンス作業に使っていると思う」と話す。

  メンテナンス作業をロボットが支援するようになれば、科学実験のほか、一般から募集したアイデアの実験や映画・コマーシャルの撮影など、より創造的な活動に時間を活用できると山崎氏は指摘する。

将来大きなマーケットに


  GITAIは、18年12月に宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同研究契約を締結し、ISSきぼう日本実験棟模擬フィールドで作業代替実験を実施。来年5月に予定している米ナノラックスとのISSでの実証実験に向け準備を進めている。自律動作も組み合わせ、23年には宇宙飛行士のほとんどの作業を引き継げるようにするのが目標だ。

  海外では米航空宇宙局(NASA)が11年に、ロシア国営ロスコスモスが昨年8月に、それぞれISSに宇宙での作業を目的とするロボットを打ち上げた実績があるが、GITAIによる打ち上げが実現すれば、民間企業としては初となる。

宇宙飛行士の作業をアバターロボがこなす未来


  ISSが25年までに民営化されることが決定し、民間宇宙ステーションの建設計画も相次いでいる。NASAは昨年、宇宙飛行士の月面着陸を目指す「アルテミス計画」を発表。日本も10月に参加を表明した。

  宇宙探査が新たな段階に入り、宇宙飛行士の作業を代替するロボットの需要は拡大すると予想されている。調査会社マーケッツアンドマーケッツによれば、宇宙用ロボットの世界市場は23年までに43億6000万ドル(約4700億円)と、17年の約1.7倍となる見通しだ。

  宇宙飛行士の派遣・滞在費用は1時間当たり約500万円かかり、大部分をロケット打ち上げなどの交通費が占める。また、宇宙は放射線の強さが地上に比べて100倍以上であるため連続して滞在できる上限は半年間、1人当たりの生涯滞在可能期間は2年とされている。

  GITAIは、ロボットの製造原価が3000万-5000万円になると想定。宇宙飛行士の代わりにアバターロボットをISSに送り込むことで、安全面の審査や訓練が不要となり、1回当たりのロケット打ち上げコストが大幅に低下するほか、回数は5分の1に減らすことができるという。最終的にコストを全体で100分の1に下げることを目指している。

  同社の中ノ瀬翔最高経営責任者(CEO)は連続起業家で1社目を売却後に趣味でロボットを作っていた。あと数年で人の代わりに仕事をできるようなロボットが量産され人件費の削減につながるとは思えなかったが、宇宙のような超遠隔地にロボットを送り込み、交通費などのコストを大幅に減らすことができればビジネスとして成り立つと考え16年に創業。

  アバターロボットは宇宙で利用されれば、いずれ遠隔医療や災害救助などにも使われ、将来的に大きなマーケットになる可能性を感じたという。遠隔操作による遅延の短縮や、無重力状態でロボットをどうやって固定するか、耐久性やメンテナンスなどが課題だが、「自律化も進めながら、徹底的に地上で対策をした上で宇宙に持って行き実験を積み重ねるしかない」と中ノ瀬氏は語る。

  GITAIにはスパイラル・ベンチャーズ・ジャパンや日本政策投資銀行傘下のDBJキャピタル、Jパワーなどが出資している。


知性と好奇心を拡張


  「アバター」をビジネスやイノベーションにつなげようとしているのがANAホールディングス(HD)だ。4月1日にはアバターの社会インフラ化を目指し同社発で初のスタートアップ企業、アバターインを設立。独自開発した普及型アバター「ニューミー」を、新型コロナウイルス感染拡大で遠隔コミュニケーションが必要な医療施設に提供する取り組みなどを開始している。

  ANAHDは、世界的な課題の解決を目指す国際賞金レースを運営する米非営利財団Xプライズ財団とともにアバターシステムの開発を支援するコンテスト「ANAアバターXプライズ」を22年までの4年間にわたり開催。

  賞金総額1000万ドルに上る同コンテストでは、宇宙のほか介護や災害救助など幅広い分野でのアバター技術の活用を目指し、19カ国から77チームが予選を通過したと1月に発表された。日本からはGITAIなど14チームが含まれる。


  アバターインのCEO、深堀昂氏は「移動の距離や時間など身体的制約をなくすのがアバターの考え方のポイント。人類は必ず生まれた場所や年齢などに制約されているが、アバターなら制約はなくなる」と語る。

  アバターの活用は、日本発の破壊的イノベーションの創出を目指し、大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発を推進する内閣府主導のムーンショット型研究開発制度で六つの目標の一つとして設定されている。

Astronaut Naoko Yamazaki

山崎直子氏

Photographer: Miwa Katoh


  Xプライズ財団のCEOで、宇宙旅行の経験もあるアニューシャ・アンサリ氏は、アバターは宇宙開発の分野で「特に素晴らしい可能性を秘めている」と指摘。「今のロボットの能力は限定的だが、人間が操作するアバターなら予測できない事態が起こった際に瞬時に反応できたり、肉眼では見えないものが見えたりして人間の好奇心と知性の拡張につながる」と語った。

  約38万キロメートル離れた月の探査計画が発表された今、地上から約400キロの低軌道を周回するISSは、効率化や商業化が一層進み、単純作業については遠隔操作や自動化が大きな流れになると、山崎氏はみている。

  「細かな作業をロボットに代替させるのは実は難しい。ようやく人間の基本動作が実証できそうなところまで来た」と説明。「アルテミス計画で示された月を周回する宇宙ステーション『ゲートウエー』は、宇宙飛行士がロボットと一緒に働くことが前提として構築され、充電ステーションを設置するなどロボットも働きやすい環境を作っていくことになるだろう」との見方を示した。

(宇宙用ロボットの市場予測などの情報を追加して更新します)
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