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ゴーン被告の司法制度攻撃、専門家に改善必要の意見も世論冷ややか

  • 検察が間違うこともあるとの前提で司法判断必要-元裁判官の木谷氏
  • ゴーン被告の主張、約9割の人は「納得できない」-世論調査

日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告がレバノンに逃亡し、日本の刑事司法制度への攻撃を開始するかなり前にも、強力な権力を握る検察によって人生を翻弄(ほんろう)された外国人ビジネスマンがいた。

Japan Justice Minister Masako Mori Briefs Media On Carlos Ghosn's Escape

法務省

  スティーブン・ギャン氏は日本で10年以上にわたって債権回収を手掛けていた米国人で、東京地検から2004年に法的に資格がないという疑いをかけられた。同氏によると、検察官から1年以上身柄拘束する可能性があると脅され、自白調書に署名した。

  「有罪か無罪かの問題ではなく、99%の有罪率を維持するために検察は自白を強要する」。執行猶予付き有罪判決後に帰国したギャン氏は、米国の自宅からの電話インタビューで語った。ギャン氏の事件について東京地検に問い合わせたが、個別案件にはコメントしないとの返答だった。

  ゴーン被告は逃走先のレバノンで8日に行った記者会見やメディアへの一連のインタビューで、高い有罪率や長期にわたる身柄拘束、取り調べに弁護士が同席できないことなどを挙げ、日本の司法制度は「人道の原則に反する」と批判を続けている。日本国内では同被告の指摘に理解を示す専門家も出てきているが、各種世論調査では約9割がゴーン被告の主張に納得していない。

Japan Justice Minister Masako Mori Briefs Media On Carlos Ghosn's Escape

森雅子法相

  森雅子法相は9日発表のコメントで、ゴーン氏による日本の刑事司法制度への批判は「多くが抽象的なものや、趣旨が判然としないもの、根拠を伴わないものにすぎない」と反論。有罪率が高い背景として、「無実の人が訴訟負担の不利益を被ることなどを避けるため、的確な証拠によって有罪判決が得られる高度の見込みのある場合に初めて起訴するという運用が定着している」ことを挙げた。

公正な裁判

  ゴーン被告は21日に発表されたフィナンシャル・タイムズへの寄稿で、「日本では決して公正な裁判を受けることはないと確信していたし、日本でこのまま人生を終えることが恐ろしかった」と告白した。

  元裁判官の木谷明氏はゴーン被告が国外に逃走したこと自体は「非常に非難されるべきだ」としながらも、日本の司法制度は改善が必要との認識を示す。特に公判開始前の検事から弁護人への証拠開示や、密室で行われると批判を受けている取り調べの在り方などを見直さないと「世界的に非難されても仕方ない」と述べた。

  裁判官在職中、約30件の無罪判決を言い渡した木谷氏は、公判では「検事が間違いをすることがあるという前提で判断しなければいけない」と指摘する。日本の裁判官は検事が起訴した以上、有罪は間違いないという予断を持つ傾向があり、1件も無罪判決を言い渡さずに退官する裁判官も相当いるという。

「最強の捜査機関」  

  元検事の郷原信郎弁護士は22日の記者会見で、「最大の問題は検察にあまりに権限が集中していること。検察官が強い権力を持ち過ぎること」と述べ、今回の事件を契機に権限が集中しすぎる司法制度を見直す必要あるし、そうでなければ海外から日本の司法制度は信頼されないと指摘した。

Ghosn Stays in Jail as Prosecutors Re-Arrest Him

カルロス・ゴーン被告が拘禁された東京拘置所

  ゴーン被告の逮捕に踏み切った東京地検特捜部は日本のメディアから「最強の捜査機関」と呼ばれている。古くは田中角栄元首相を逮捕したロッキード事件、最近では現職国会議員の秋元司被告を逮捕したカジノを含む統合型リゾート(IR)を巡る汚職事件を手掛けた。

  一方で1998年に破たんした日本長期信用銀行(現新生銀行)の粉飾決算事件では、最高裁が執行猶予付き有罪とした二審判決を破棄して元頭取らに無罪を言い渡した。東京地検と並んで独自に大型事件を捜査する大阪地検特捜部も2009年、村木厚子氏(後の厚生労働事務次官)を起訴するえん罪事件を起こした。

  米国の弁護士資格を持ち、日本に40年以上在住経験のある内藤慧人氏は、長期にわたる拘束をやめるための早期の保釈手続きや、取り調べでの弁護士立ち会いが認められるべきだと提唱する。「多くの官僚機構と同様に法務省も変化に抵抗する傾向がある」ものの、「もし日本がこうした欠点の改善に取り組めば、司法制度は他国よりも素晴らしいものになるだろう」という。

  ただ、日本の世論はゴーン被告の主張には冷ややかだ。NHKが1月11ー13日に行った世論調査でゴーン被告の説明に「あまり納得できない」「まったく納得できない」とした人は合わせて85%。産経新聞とFNN(フジニュースネットワーク)が11、12両日に行った合同世論調査でも、ゴーン被告がレバノンで日本の司法制度を批判し、自身の出国の正当性を訴えたことについて、91%が納得できないと回答した。

  弁護士出身で自民党の柴山昌彦政調会長代理はゴーン被告の逃走について「お金さえあれば法律を逃れることができるという形で日本の悪評が広がることは極めて大きな国益の損失だ」と指摘。日本の司法制度は改善の余地がないとは言えないが、ゴーン被告が「そこを何か過度に強調するのはゆがんだ物言いではないか」とも語った。

  「カルロス・ゴーン被告人が不法に出国した事態は誠に遺憾だ」。安倍晋三首相は23日の参院本会議でゴーン被告の国外逃亡について初めてコメントした。自民党の岡田広氏への答弁。同氏は出国管理の厳格化を求めたが、ゴーン被告が指摘する日本の司法制度の問題点に関しては触れなかった。

英語記事はこちらをご覧ください。

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