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ソフバンクGの会計に注目集まる-投資先の新興企業価値が急変動

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人工知能(AI)を手掛ける中国の新興企業、センスタイム・グループの創業者らは2018年前半、ソフトバンクグループを率いる孫正義氏に会いに東京に飛んだ。徐立最高経営責任者(CEO)の願いは、設立後3年のセンスタイムに2億ドル(現在のレートで220億円)の投資の約束を取り付けることだった。

  プレゼンテーションが3分の1程度進んだころ、孫氏は話に割って入り10億ドル出資したいと言い出した。数分後には20億ドルの出資を示唆し、同席するソフトバンクG幹部らに孫氏は、これまで探していたタイプのAI企業なのに、なぜ今ごろやっと自分に知らせてきたのかと質問したと、同じ部屋にいた人物1人が明らかにした。

  最終的にソフトバンクGはセンスタイムに12億ドル投資し、同社は世界で最も価値あるAIスタートアップ企業となった。評価額は今年75億ドルを記録した。

Softbank Group Corp. CEO Masayoshi Son Announces Third-quarter Earnings

孫正義氏

  こうした投資スタイルが今、批判の対象となっている。孫氏が出資したシェアオフィス展開の米新興企業ウィーワークは新規株式公開(IPO)頓挫で投資家に莫大な損失をもたらし、ガバナンス(企業統治)問題も明るみに出た。

  ブルームバーグ・ニュースの算出によれば、ソフトバンクGが他の投資家と共に資金調達に応じた数多くの未公開企業の価値は計1500億ドル余り増えた。投資先には動画共有アプリ「ティックトック」を運営する中国のバイトダンス(字節跳動)や配車サービスの滴滴出行が含まれる。評価額はそれぞれ750億ドルと560億ドル前後。幾つかのケースでは、こうした評価額の押し上げがソフトバンクGに含み益をもたらした。

  しかし、ウィーワークの失敗でこうした評価額に疑問符が付いた。同社の価値は今年、ソフトバンクGの投資を受けて470億ドルのピークに達したが、孫氏の救済策では78億ドルとの見積もりに急減した。今は人員削減と事業縮小を進めている。  

  ニューヨーク大学スターン経営大学院のアスワス・ダモダラン教授(金融)は「ウィーワークは単なる失敗ではない。投資モデル全体の弱さの印だ」と指摘。「評価をあれだけひどく間違えているなら、ポートフォリオにある他の企業全てはどうなっているだろうか」と疑問を呈した。

  ソフトバンクGはウィーワークについて、幅広い問題を示す例というより、特殊事例だとし、この経験から学んだとコメントしている。

  孫氏は1000億ドル規模のビジョンファンドを16年に発表以降、世界で最も積極的にテクノロジー分野に投資し、出資先は80を上回る企業に及んでいる。これを背景に、企業価値が10億ドルを超える有望な未公開企業を指す「ユニコーン」が300社余り誕生したと、CBインサイツは試算する。

  あまり理解されていないのは、孫氏にとって企業価値を高めるインセンティブだ。ソフトバンクGが新興企業の株を取得し、評価が高くなって再投資すると、利益が出るという。会計上は合法だが、ソフトバンクGには一銭も入らない。価値が高まって変わるのは、例えば10億ドルの元々の持ち分の評価額が20億ドルに増える点だけだ。この差の10億ドルの少なくとも一部がソフトバンクの損益計算書やリターン計算で利益と見なされ得る。

  プライベート・エクイティー(PE、未公開株投資)のファンド、パトリアーク・オーガニゼーションのエリック・シファーCEOは「リターンを高くして投資家への見栄えを良くしようと、企業価値を押し上げている」と指摘した。  

  ソフトバンクGは同社の会計はあらゆる基準を順守しており、一般的に認められる会計実務に沿っていると説明。新興企業の評価は自社で決めず、セコイア・キャピタルやテマセク・ホールディングスなど経験豊かな企業と共に投資するほか、評価を決める厳密な内部プロセスがあるなどとし、監査法人が計算をチェックするとも付け加えた。

  ユニコーンの価値を巡り従来はなかった臆測が浮上する時代に、現在の会計規則はそぐわなくなってきたかもしれない。ソフトバンクGが従う国際会計基準(IFRS)では、ポートフォリオ上の企業の価値決定に大きな自由裁量が与えられる。明確でないのは、同社ほどの規模でテクノロジー新興企業投資に伴う含み益を決定しようとする企業があったかどうかだ。

  ニューヨークの税専門家、ロバート・ウィレンス氏は「未上場株投資に関し、これほどの規模の収益を記録する試みが見られたことはこれまでなかったと思う」と語った。

  孫氏は他の投資家と比べ、自身の投資の内部収益率(IRR)は平均してはるかに高いとし、その手法を擁護する。同氏はウィーワークによる打撃を受けた今月、世界のベンチャーキャピタル5000社の平均IRRは13%だとした上で、自社のリターンはその倍程度だと説明した。

Softbank Chief Executive Officer Masayoshi Son News Conference

孫氏(右)とロボット「ペッパー」

  ソフトバンクGはビジョンファンドの業績を18年3月期から財務諸表に含め始めたが、その利益はほとんど含み益だ。直近の会計年度では、投資先企業評価に伴う含み益は1兆円相当だったが、実現利益は3000億円未満にとどまった。

  ウィーワークはこのアプローチのリスクを浮き彫りにした。同社にソフトバンクGが初出資したのは17年8月で、当時の評価額は210億ドル。その後、18年11月に30億ドル追加出資し、その際は450億ドル。その後15億ドルのワラントで合意した際は470億ドルだった。この470億ドルまでのプロセスで利益確定はないとビジョンファンドは説明。ウィーワークでの株式評価損発生で、今期の個別決算で特別損失4977億円を計上する見込みとしている。

  スターン経営大学院のダモダラン氏は「もし私が投資家なら、これら評価額をどう出しているのか知りたい。そうでなければ、これらの価値のどれも信じられない。会計について言われれば言われるほど、数字が信頼できなくなる」と語った。

  ソフトバンクはIFRSの規則の下、ビジョンファンドは主たる事業が投資であるため、ポートフォリオ企業に評価額変更があれば損益と捉えねばならないと結論付けたほか、同ファンドが連結対象であるため、ソフトバンクGの財務諸表に反映させねばならない。事情に詳しい関係者1人は、その結果の収益の数字に実質的な意味はないが、現行規則の下では他に良い会計手法がないとしている。

Inside A WeWork Space Ahead Of Planned IPO

ウィーワークのNYオフィス

  ウィーワークの顛末(てんまつ)後、他の投資先についても厳しい視線が向けられている。中国の滴滴の評価額はソフトバンクGが出資を始めた15年は約60億ドルだったが、その後1年に1回程度のペースで追加出資がある中で560億ドルまで上昇した。

  しかし、過去2年は規制当局の取り締まりや運転手による乗客殺害を受けた営業停止など、問題に見舞われた。米同業ウーバー・テクノロジーズの株価がIPO以降に約35%下落し、配車サービス業への投資家疑念も膨らんだ。

  ソフトバンクGは恐らく、滴滴の持ち分について少なくともウーバー株と同様の下落率で評価額を引き下げなければならないだろうと、投資案件に関わった関係者が述べた。東南アジアのグラブ・ホールディングスなど他の同業企業の評価額も見直しが必要だと指摘した。滴滴はコメントを控え、グラブの広報担当者は同社の価値に変化はないほか、事業を多角化していると述べた。

SoftBank Portfolio Companies

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  ソフトバンクGは最新の決算で、ウーバー株については公正価値を引き下げたが、他の出資先の配車アプリ企業には触れなかった。直近の四半期では滴滴などの評価額も引き下げたと、ソフトバンクGに近い関係者は述べた。同社はポートフォリオ上の全ての企業について、四半期ごとに損益を公表することはできないとしている。

  ソフトバンクGはスタートアップ企業の価値押し上げで同社に責任がない好例として、滴滴を挙げる。シリコンバレーの投資会社シルバー・レーク・マネジメントもソフトバンクGと同じ価格で投資したほか、トヨタ自動車などもその後に一段と高い評価額で出資したためだ。

  一方、フードデリバリーの米ドアダッシュは、ソフトバンクGから昨年に出資があるまで、ユニコーンの域に達していなかった。しかし今年5月には企業価値が126億ドルに達した。ソフトバンクGはその後の決算で、ドアダッシュを収益に貢献した銘柄として位置付けた。

  ソフトバンクの出資先でウィーワークに次いで最も論議を呼ぶのはインドのホテル運営スタートアップ、オヨ・ホテルズアンドホームズだろう。リテシュ・アガルワル氏が6年前に創業した同社は、既存の宿泊施設の家具や備品をリニューアルさせてオヨのブランドを付与。収入の約25%を受け取る。

  ソフトバンクGはオヨを設立間もない時期から支援してきたが、関係者の中には孫氏のアガルワル氏との関係が、ウィーワーク共同創業者アダム・ニューマン氏との関係に似ているとして、懸念する向きもある。

  ビジョンファンドは17年にオヨに2億5000万ドルを投資し、昨年は10億ドルの資金調達を主導した。オヨの評価額は50億ドルに高まった。孫氏はアガルワル氏に中国や米国市場への事業拡大や不動産購入を勧めたという。

  東京のM&A(企業の合併・買収)専門弁護士のスティーブン・ギブンズ氏は、オヨのビジネスモデルがウィーワークに類似していると指摘する。同社のシェアオフィス事業は当初のコンセプトをはるかにしのぐ規模に拡大した。「インドのような場所でオヨの事業は理にかなうが、米国に進出したり不動産を購入したりするのは大きなリスクだ」と同氏は述べた。

  ソフトバンクGとアガルワル氏は10月に追加出資し、オヨの評価額を100億ドルに押し上げた。ウィーワークで評価損が発生したソフトバンクGには明るい側面だったが、アガルワル氏はオヨ株購入で銀行から20億ドルを借り入れていたと、事情に詳しい関係者が明らかにしている。別の関係者によると、孫氏がこのローンの保証人になったという。

  さらに、オヨへの初期投資家に滴滴とグラブが含まれるため、両社の企業価値を押し上げた資金がソフトバンクGの別の投資先であるオヨの評価引き上げに回っているとの疑問が生じる。

  結局、ビジョンファンドはオヨの持ち分評価を企業価値100億ドルに沿って引き上げることはしなかった。直近の資金調達に既存株主以外の参加がなかったことが背景。

  ソフトバンクGによる企業の価値評価を分析しようとするアナリストらは、こうした件で透明性の欠如があるとみて不満を漏らしてきた。同社は特定のスタートアップ企業の評価額を決める基準や損益計算書で利益として計上する会計手法の詳細を説明しない。

  ジェフリーズ・グループのシニアアナリスト、アツール・ゴヤール氏はソフトバンクGについて、「自社の投資の評価方法をほとんど明確にしていない」と述べた。

原題:After WeWork, SoftBank’s Startup Bookkeeping Draws Scrutiny(抜粋)

(インドのオヨについて追加します)
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