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MUFGの法務トップ、「リスク取る」経営を後押し-初の外部登用

  • 最高法務責任者に就任したのは大手弁護士事務所出身の森浩志氏
  • 世界各国の規制への対応は限界、企業カルチャー醸成が結果的に近道

「人生でもう一度、死に物狂いで勉強してみよう」。東京大学、米デューク大学ロースクールを経て大手弁護士事務所でキャリアを築いてきた森浩志氏は今年1月、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の法務部門トップへの転身を決意した。厳しい金融情勢は覚悟の上だったが、仕事を始めた今、弁護士業務の枠を超えた取り組みが必要だと痛感している。

  森氏(54)は、MUFGが6月に採用したチーフ・リーガル・オフィサー(CLO=最高法務責任者)。世界各地の法務部門を統括し、国境を越えた案件の経営決断を担う責任者でもある。これまでは、弁護士としてリスク分析をして助言すれば顧客企業が方針を決めていたが、現在は経営会議メンバーとして頭取や最高財務責任者らと頻繁に対話し、「経営のど真ん中で決断する立場」となった。

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MUFGの法務トップを務める森氏

Photographer: Yuki Hagiwara/Bloomberg

  経営に携わり始めると、人口減少やマイナス金利、フィンテック台頭など金融情勢の厳しさは想像以上だった。数カ月たつ頃には、リスクを抑えて法律の枠内に収めるとの従来の考え方では「縮小均衡にしかならない」と実感。「むしろ、どうリスクを取って企業価値を上げるか」という攻めの姿勢を示すことが役割だと捉えるようになった。

  グローバル化に伴い、企業が直面する法務リスクは多様化している。経済産業省の報告書では、ルールの捉え方や視点を変えることで新しい市場獲得につなげるなど、リーガルリスクを「チャンス」に変える戦略的な法務機能の必要性を指摘しており、日本企業にCLO制度の導入を求めている。一定規模以上の法人で企業内弁護士を抱える割合は米国の約7割に対し、日本は約17%にとどまる。

  「内部の人だけでは、どうしてもよくなれない部分があったんじゃないかな」。森氏は自身が招かれた背景をこう推察する。組織内で内側に向けて割く労力が大きいためか、スピード感がないと感じており、「中にいる人には持てないマインドを提供するのが僕のバリューであり、僕への期待だと思っている」と語った。

  CLO設置は製造業の一部で進み始めているが、金融業界では法務部門トップの約半数が法務経験者ではなく他部門出身者が務めているのが現状。MUFGは2015 年にCLO職を設置し、これまで社内から登用していたが今回初めて外部弁護士を充てた。三井住友フィナンシャルグループみずほフィナンシャルグループともにCLOは置いていない。

規制対応は限界

  新たな考えを持ち込もうという森氏の姿勢は、世界的な課題となっている金融規制への対応でも同じだ。MUFGを初めとするグローバル金融機関は、世界主要国が自国の市場構造を勘案して定める規制の矛盾や重複に苦慮してきた。中間持ち株会社設置や自己資本積み増しを求める地域では組織改編を含むコスト負担が生じている。

  規制対応は法務部門の役割でもあるが、「新規制全てに対応していくのは限界」との見方を示す。MUFGのグループ従業員は国内外で約18万人。新規制が導入される都度、全従業員対象のシステム対応やモニタリングをするのではコストが増大するだけだという。

  「最後は企業カルチャーの醸成だ」。森氏がこう言い切る背景には、かつて、社外取締役として目の当たりにした食品会社カゴメの企業変革がある。寺田直行社長は当時、従業員に生き方を問いかけることで意識改革を進め、生産性を向上させ成果を上げた。従業員の働き方やコンプライアンスの浸透度合いが劇的に変わったという。

  新規制に対しても顧客本位の業務運営のような分野を中心に「モニタリングをして押さえつける発想ではなく」、コンプライアンスを浸透させることで対応することが「遠回りだけど一番近道」との考えを示した。

  MUFGの20年度の規制・制度対応費用は17年度実績比で約350億円増加する見込みで、構造改革によるコスト削減努力の足かせにもなっている。過去には決済取引を含む内部管理体制等が不十分として米当局から複数回指摘を受けた。

  就任5カ月を迎えた現在、グループ内の銀行や信託銀行、証券の現場に自ら足を運んで社員に意識改革の必要性を訴え続けており、「この1年はスピード感を持ってやっていく」と抱負を語った。

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