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元商社マンが選んだ「自分で意思決定する人生」、舞台は宇宙-衛星支援

更新日時
  • JAXAのISSきぼう利用の事業化公募、2件連続で選定される
  • 約5年後を目標に上場も視野、宇宙ビジネスが日本を代表する産業に

「自分で意思決定をして生きていきたい」。そんな思いに突き動かされ約11年勤務した三井物産を退社してから6年。永崎将利氏(39)は「宇宙の総合商社」を旗印にアジア初の人工衛星打ち上げ支援ベンチャー、スペースBD(東京都中央区)を率いている。

  2017年の事業立ち上げから1年足らずで、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が初めて民間開放した国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟からの超小型衛星(50キログラム級以下)放出サービス事業者に公募で選定された。衛星放出を希望する業者との仲介や技術サポートを担う。今年3月には船外実験装置の利用を推進する民間事業者にも選ばれた

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永崎将利氏

Photographer: Kentaro Takahashi/Bloomberg

  高い専門性と信頼性が求められる宇宙ビジネスの世界で、設立間もないベンチャー企業が2件連続でJAXAの公募で選定されたことから注目を集めた。

  15カ国で運用するISSは24年までの継続が決まり、民間への移行が進められている。きぼうはISSで唯一、超小型衛星の軌道投入機能を持ち、200機以上の放出実績がある。衛星の開発・打ち上げコストの低下で商用のほか一般の人が趣味で開発する市民衛星など超小型衛星の打ち上げニーズは拡大している。

  調査会社ユーロコンサルが18年にまとめた「小型衛星市場予測」によると、世界の50キロ以下の衛星打ち上げ数は18-27年に2858機と、その前の10年間と比較して約3倍に増える見通しだ。

  スペースBDはこのほか、ロケット内の空いた空間に衛星を相乗りさせるロケット打ち上げ会社と衛星関連会社とのマッチングも行う。こうしたサービスの世界市場は現在、米ナノラックスなど欧米の約6社が占有。日本のロケットを取り扱い、この市場の一角に食い込むことを目指す。

原点は鉄鋼貿易

  永崎氏の原点は、商社マン時代に2年間携わった鉄鋼貿易だ。ものづくりの現場でエンジニアの徹底した姿を目の当たりにし、「出来上がった製品を自分たちが売らせてもらっている、売ると喜んでもらえる」というメーカーと商社の役割分担が力を発揮し、日本の鉄鋼業界が世界を席巻する後押しをしてきたことを肌で感じた。

  しかし当時、商社のビジネスモデルは貿易から資源を中心とした事業投資へと移り、永崎氏もブラジルやオーストラリアで鉄鉱石事業に従事、現地の合弁会社の管理を担当した。中核事業だったため、意思決定は多くの階層を経て上層部へと上がっていく。自分でできることは限られていた。意思決定者になれるかもしれない数十年後を待つより「マーケットに出てフルスイングした方が面白いことができるのでは」と考えた。    

  退社後、教育事業会社設立を経て17年に宇宙ビジネスへとかじを切ったのは、ベンチャー投資家の赤浦徹氏から、宇宙業界では「海外で次々と話を付けられるような昔かたぎの商社マンが求められている」と聞いたからだ。

  売り上げの大部分を占めるJAXAの2事業では、精力的に契約先を開拓し既に国内外の大学や企業と計15機以上の契約を締結した。

  このほか、衛星打ち上げ計画の策定や宇宙機器の輸出入サービス、安全審査のための書類作りなど衛星打ち上げに必要なサービスを提供し、ユーザーが衛星開発に注力できる環境を整えている。

  教育事業を手掛けた経験を生かし、宇宙飛行士の訓練ノウハウを活用した教育プログラムもJAXAや通信教育の「Z会」を展開する増進会ホールディングスと共に開発中で、20年度中の商品化を目指す。

アイデアマン

  民間主導の宇宙ビジネス会議を主催する一般社団法人SPACETIDEの最高執行責任者(COO)、佐藤将史氏は、衛星打ち上げのためのロケットを選ぶ際に日程や費用、延期の際の条件などを各国固有の事情を知った上で交渉し、相手先企業と信頼関係を築くのは非常に難しいため、衛星打ち上げ支援サービスの需要は増えると予想する。

  同サービスの世界市場で競合していくのは容易ではないとした上で、「宇宙ビジネスでは、ロケット・衛星などの製造・打ち上げ技術だけではなく、背景にミッションを進めていくためのプロセスや取り組みが詰まっている」と指摘。「それらを分解し異業種ビジネスにつなげるアイデアマンやビジネスマンが求められている」とし、豪州やアジアで宇宙機関の設立が相次ぐ中、企業や人材の育成支援なども必要になるとの見通しを示す。

  現在、スペースBDの社員は元商社マン4人を含む16人で、3年後に3倍に増やす方針だ。約5年後を目標に上場も視野に入れる。

  「宇宙の総合商社」という言葉には、宇宙に関連したサービスをどんどんビジネス化していくという決意が込められている。「かつての自動車や鉄鋼のように、宇宙ビジネスが日本を代表する産業になるよう押し上げたい。それが成し遂げられた暁には、今の宇宙産業の隆盛があるのはあの時スペースBDがあったからと言ってもらえるようになるのが夢」と語った。

●永崎将利(ながさき・まさとし)1980年生まれ。福岡県出身。早稲田大学教育学部卒。三井物産で人事や鉄鋼貿易、資源投資の部門で勤務し2013年に退社。約1年間、貯蓄を取り崩しながら各界の人々に会いに行き、ビジネスアイデアを模索。14年に教育事業のナガサキ・アンド・カンパニーを設立し17年にスペースBDに社名を変更。趣味は中学時代から続けているテニスと、お酒。  

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