迫る消費増税、過去の苦い経験は今度こそ生かされるか-チャート
野原良明-
駆け込み需要はこれまで目立たないが、日本経済はぜい弱な状況
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増税による影響度についてエコノミストの見方は分かれる

A shopper carries shopping bags in the Ginza district of Tokyo, Japan.
Photographer: Akio Kon/Bloomberg過去の消費増税で味わった苦い経験が教訓として今度こそ生かされることを期待したい。
2014年4月に消費税率が引き上げられ、それをきっかけに4-6月期の国内総生産(GDP、前期比年率)がマイナス7.3%に落ち込むと、増税後の日本経済を過度に楽観視していた政府と日本銀行は恥ずかしい思いをした。そして今回、経済が脆弱(ぜいじゃく)な局面で消費増税が景気の腰を折ることがないよう、安倍政権は可能なあらゆる手を講じてきた。
それでも日本経済の先行きについてエコノミストの見方は割れている。海外需要の落ち込みや貿易戦争が輸出を直撃し、日本の大手メーカーが影響を受ける中、ここ数四半期は個人消費が経済成長を押し上げている。増税に伴う家計所得の減少に海外経済のさらなる減速が重なれば、日本経済はもっとひどい状態になりかねない。
エコノミストの予想中央値では、消費増税後の10-12月期は2.9%のマイナス成長が見込まれている。ただ、予想レンジはマイナス6.2%からプラス2.6%とかなり幅がある。
以下のチャートでは、14年と19年における日本経済の主な相違点を比較した。

14年の増税後、個人消費は悪化し、日本経済は急降下した。消費税が5%から8%に引き上げられる前の1カ月は耐久財の駆け込み需要が膨らみ、消費支出の伸びは比較可能な01年以降で過去最高を記録した。そして、需要の反動減からの回復には想定よりはるかに長い時間を要した。
今回は高額品の駆け込み需要を抑えるため、自動車購入や住宅への税優遇措置などの増税対策を安倍晋三首相はずらりとそろえた。もっとも、9月のぎりぎりまで実際にどれだけ駆け込み需要が出てくるのかはなお読めない。
過去の教訓から家計負担へ配慮
出所:日本銀行 経済・物価情勢の展望(2018年4月)
備考:ネット負担額は減税や減税打ち切りなどの要素を加味した家計負担額
一連の消費増税対策に加え、税率の引き上げが2ポイントと前回より小幅のため、結果として個人の税負担のネット増加額は1997年と2014年の増税時に比べてかなり小さくなると予想されている。
日銀が昨年公表の「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で示した数値は、1997年の消費増税に加えて、所得減税の打ち切りなどによって家計の負担が増し、その後の経済的打撃の一因になったことを表している。安倍首相は同じ失敗を2014年は回避したものの、景気後退を避けられなかったため、19年は家計の負担を取り除くよう努めている。
茂木敏充経済財政・再生相は、食料品などを対象とする軽減税率の導入や、税収の一部を幼児教育無償化などに充てる措置により、今回の消費増税による経済の影響は2兆円程度に抑えられるとみている。さらに、こうした恒久措置に加え、公共事業やキャッシュレス決済へのポイント還元など来年にかけて需要平準化を目的とする時限措置2兆3000億円相当によって負担は軽減され、増税後1年の家計の負担は全体としてほぼゼロになると言う。
駆け込み買いは直前まで続く
出所:総務省 家計調査
駆け込み需要の抑制につながっているとみられる他の主な相違点は、増税後の値引きセールに対する政府の姿勢だ。日銀が2年以内での2%物価目標達成を目指していた2014年当時、企業は消費者への価格転嫁を迫られていた。安倍政権は1997年に人気だった「消費税還元」セールを認めず、その対応が2014年の駆け込み需要を喚起したとみられる。14年の消費増税実施1カ月前の3月の家具・家事用品の消費支出は前年同月比83%増と過去最高の伸びを記録した。
ただ、今回は政府のコミュニケーション戦略がかなり異なっている。日本総合研究所の小方尚子主任研究員は、「今回は企業の自由だという感じはします」と語った。
所得へのインパクト
増税で14年には実質可処分所得が減少
出所:総務省 家計調査
それでも、どんなに政府が駆け込み需要を抑えることができたとしても、増税に伴う価格上昇によってインフレ調整後の可処分所得は圧縮される。つまり、世界経済自体が厳しい状況に陥るかもしれない局面で、消費の減退は避けられず、日本が景気後退入りする可能性は消えないということだ。安倍首相は、今回は軽減税率によって家計の負担が緩和されることを期待しているだろう。
増える働き手
女性と高齢者に支えられ就業者数は増加
出所:総務省 労働力調査
備考:19年の数字は1-7月の平均値
今年の消費支出は、祝日の増加や就業者数の増加なども手伝ってこれまでのところしっかりしている。深刻な労働力不足に対処するため企業が採用に動く中、14年と比較して、特に女性や高齢者を中心に就業者が増えている。農林中金総合研究所の南武志主席研究員は、就業者が増えているため増税に対する「耐性は強くなっている」とみている。
ただ、南氏は今年の賃金下落がいずれ将来の所得や支出の見通しに影響するだろうと警告する。景気が良くない中で消費喚起策として値下げとなると、「それ自体が物価のモメンタムを押し下げてしまうこともある」と指摘した。
消費増税を巡っては、キャッシュレス決済のポイント還元制度が20年夏に終了し、他の増税対策も途切れたときに消費がさらに落ち込む可能性なども問題点として残る。
SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは、消費マインドの低下に言及した上で、「増税後に回復するというよりは節約志向が続く」との見方を示した。
ブルームバーグ・エコノミクスの増島雄樹シニアエコノミスト |
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「最近の統計には若干ノイズがあるが、増税を前に消費者が支出を増やしている幾つかの形跡も見られる。ただ、これまでのところ力強さはないようだ。消費増税後の10-12月期の日本経済は縮小する公算が大きいが、マイナス幅は年率換算で恐らく3%程度と、14年の縮小時の半分に満たないだろう」リポートをご覧になるにはこちらをクリック |
原題:Japan Tries to Learn Lessons From 2014 Sales Tax Blow: Charts(抜粋)