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地上イージス配備に暗雲、日米安保「不公平」でも進まぬ日本防衛

更新日時
  • 負担増求めるトランプ米大統領、日本はミサイル防衛で役割拡大
  • 「他国の標的に」と周辺住民は懸念-参院選で反対派が当選

北朝鮮の弾道ミサイル発射に備え、米国の地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」を国内2カ所に設置する政府の計画に暗雲が漂っている。日米安全保障条約は「不公平」と日本に負担増を促すトランプ米大統領の方針も見据え政府は早期に配備する方針だったが、周辺住民の反発で現時点では立ち往生している。

  イージス・アショアを整備する候補地の一つに選ばれた秋田市の陸上自衛隊新屋演習場。日本海側にある1平方キロメートル以上の平たんな敷地という条件を満たすが、近くには学校や住宅地がある。県庁のある中心部からも3キロ圏内で住民に安全面などへの懸念の声が広がった。

Japan's Ground Self-Defense Force's Araya Maneuver Area

学校や住宅地が隣接する秋田市の陸上自衛隊新屋演習場(写真上部)

  演習場周辺の町内会でつくる新屋勝平地区振興会は昨年、配備反対を決議した。会長を務める佐々木政志さん(69)は配備によって他国から「脅威」と見られることで、有事の際には「ここが標的になる」と不安を募らせる。テロや攻撃の対象になるだけでなく、強力なレーダーが発する電磁波の人体への影響に対する懸念も根強い。

  佐々木さんは、6月の防衛省による住民説明会で居眠りする職員がいたことに不信感を募らせている。新屋演習場から約1キロの自宅に長男夫婦、孫2人も同居しており、将来、生活に影響が出た場合に「じいちゃんたちが賛成したおかげでこんな目に遭っているとは言わせられない」と配備を断固拒否する考えだ。 

  政府は2017年12月、北朝鮮の弾道ミサイルの脅威に対する防衛体制を強化するためイージス・アショア2基の配備を閣議決定。18年6月に新屋演習場と山口県萩市の陸上自衛隊・むつみ演習場を候補地としたものの、選定に関する防衛省の調査報告書に誤りがあり、再調査することが決まった。秋田と同様、山口でも候補地に隣接する阿武町で町民らから配備反対の声が上がるなど地元の理解は得られていない。

  岩屋毅防衛相は先月の会見で、「わが国の総合ミサイル防空体制をつくるために不可欠な装備」と明言。日本全域のミサイル防空体制をつくる観点から「秋田県と山口県に配備することが最も適切だという考え方に変わりはない」と強調した。ただ、イージス・アショア配備時期の見通しはたっておらず、政府は来年度予算でも設置に伴う敷地造成などの計上を見送る方針だ。

トランプ・ショック

  トランプ大統領は北大西洋条約機構(NATO)加盟国に対し、繰り返し負担増を要求。6月にはドイツが国防費支出を増やさなければ駐留米軍を移転させる可能性もあると発言するなど、同盟陣営への圧力を強めている。

  日本との関係では5月の訪日中に行った演説で、米ロッキード・マーチンの最新鋭ステルス戦闘機F35を計147機購入する計画をたたえた一方、6月の記者会見では米国にだけ相手国の防衛義務がある現行の日米安保条約は「不公平だ」との見解を表明し、一層の負担増を促した。

  日米安保に不満を示したトランプ大統領の発言について、小野寺五典前防衛相は中国やロシアの台頭など安全保障環境の変化を受け、同様の警戒感を持つ国々に「少し分担してほしい」ということだ指摘。「日本もそれなりの対応を取るしかない」との考えを示す。

Japan's Ground Self-Defense Force Conducts Live Fire Exercise

陸上自衛隊の総合火力演習

  小野寺氏は、北朝鮮のミサイル技術の向上などを考えると、イージス・アショアの配備は「早い方がいい」としているが、新しい装備品には「反発がある」とも語る。配備先に対しては「心配がないように説明していくしかない」との考えを示した。

  防衛大の武田康裕教授は、日米安保の解体を想定した著書の中で、日本が自主防衛する場合には必要な装備品の調達などで23兆円の負担増が必要と試算しているが、それでも同盟を続けた方が「安全の水準の方がさらに高い」と結論付けている。

  日本の安全確保には同盟維持を前提に議論するのが現実的として、島しょ部やミサイル防衛など自衛隊の任務の分担の拡充を考えることが必要という。ただ、少子高齢化で隊員確保が難しくなっていることが、「最大のネック」とも指摘。現在の自衛隊は「ぎりぎりで運用しており、これよりも任務を増やすと人員的にもっと厳しくなる」ことから、「どういうやり方が必要かというのは頭が痛いところ」とも述べた。 

参院秋田で自民の「敗因」に

  7月の参院選秋田選挙区ではイージス・アショアが選挙結果に影響を及ぼした。現職を擁立した自民党は安倍晋三首相や秋田県出身の菅義偉官房長官が応援に入るなど総力戦を展開したが、野党系の無所属新人に敗北。2010年の選挙から3回連続で得ていた同選挙区での議席を失った。

  秋田魁新報社が選挙期間中に実施した世論調査では新屋演習場への配備に「反対」「どちらかといえば反対」と答えた人が6割を占めており、自民党の鈴木健太県議は、イージス・アショアの配備問題が「皆、やはり敗因の大きな一つと捉えている」と話す。

  当選した寺田静氏は、イージス・アショア購入の理由は日米間の貿易不均衡の解消を求めているトランプ氏への配慮との見方を示す。人口減少に直面し、移住者やUターン促進を目指す秋田県にとって配備の影響は大きく、「県庁所在地にこんなものがある場所に、どうして帰ってきてと言えるだろうか」とも訴えた。

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国内2カ所の候補地の位置

  防衛省の資料では、イージス・アショア1基当たりの導入経費は約1202億円、2基30年間の維持・運用経費の総額は約4389億円と試算している。2020年度予算概算要求で、発射装置の取得や人材育成などに122億円を計上したが、配備地決定が前提となる敷地造成費の計上は見送った。  

  岩屋防衛相は6日の会見で、配備に当たっては「防護範囲が最も重要な考慮の要素」として、「秋田県や山口県がその条件を満たしている」との考えを示した上で、他の国有地が配備候補地になるか「総合的にゼロからもう一度評価したい」と述べた。 

  ただ、新屋地区に暮らす佐々木さんは、沖縄県が反対する中で政府が進めている米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古地区への移設計画を挙げ、「そのような状況にこちらもこれからなるのか」との思いがあるといい、政府は「ここありきで決めつけ、強引にやるのではないか」との不安をのぞかせた。

(第17段落の岩屋防衛相の会見での発言を更新しました)
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