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【コラム】米金融政策、大統領の貿易戦争に歯止めを-前NY連銀総裁

トランプ米大統領が中国に仕掛けた貿易戦争は、企業と消費者の信頼感を損ない続け、景気見通しを悪化させている。現在進行中の人災は米金融政策当局にジレンマを与えた。景気刺激措置を講じることによって被害を抑制するべきか、あるいはこのやり方に同調することを拒否するべきか。健全な経済を究極的に目指すのであれば、米当局は後者のアプローチを真剣に考えるべきだ。

  米金融政策当局は通常、管轄外で起きた事象には関与せず、物価の安定と最大限の雇用という責務追求のために必要な調整を行う。金融政策上の行動が他の分野、例えば政府支出や貿易政策などの決定にどう影響するのかについては、ほとんど重視しないものだ。例えば、財政投入による刺激措置を議会に促す目的で利下げを控えたりはしない。

Key Speakers At Bank Of England Markets Forum 2018

ダドリー前NY連銀総裁

Photographer: Simon Dawson/Bloomberg

  このように米金融政策当局は政治から距離を置くことによって、独立性を維持しやすくなっている。従って、一般的な通念としては、トランプ氏の対中貿易戦争が米経済の見通しを悪化させれば、米当局はそれに応じて金融政策を調整するべきだ。この場合は利下げということになる。しかしながら、米当局の金融緩和が貿易戦争をさらにエスカレートさせ、リセッション(景気後退)のリスクを高める方向に大統領を促すのなら、話は違ってくる。その場合、打撃を和らげようとする当局の努力は無駄になるだけでなく、事態を悪化させる可能性さえある。

  パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長はこの問題を認識しているように思われる。ジャクソンホールで先週開かれた年次シンポジウムで、金融政策は「貿易の完結したルールブックを提供」できないと指摘した。これは貿易戦争を暗に指しており、米金融政策当局の手段はそうしたダメージ緩和に適していないことを警告したものと考えられる。

  とはいえ、米金融政策当局にはさらに行動する余地がたっぷりある。貿易政策について選択を誤り続ける政府を救済する考えはないと、当局者が明確に述べることもあり得るだろう。つまりトランプ氏がとった行動の結果は、同氏の責任だと極めて明確にすることだ。

  こうした強硬アプローチは次の3点で米金融政策当局と米経済に利する。

  • トランプ政権の負担を高めることで、貿易戦争のさらなる激化を抑制
  • 政府の政策から距離を置くことで、米金融当局の独立性をあらためて主張
  • 金利が過去の基準に照らしてすでに非常に低い現在、さらなる利下げを回避することによって極めて必要とされる政策手段を温存

  米当局者らが政治に関与しない姿勢を続けたいのは理解できるし、支持する。しかしトランプ氏がパウエル議長と米当局を攻撃し続けることで、その姿勢では持たなくなった。中央銀行の当局者には選択肢がある。トランプ政権がこのまま、貿易戦争のエスカレートという破滅的な道を歩むのを容認するのか、あるいはその場合に選挙敗北を含めたリスクを負うのは米金融当局ではなく、大統領自身だという、明確なシグナルを発信するかだ。

  選挙そのものが米金融政策当局の管轄に入るとの主張さえ聞かれる。詰まるところ、トランプ氏の再選は米国と世界の経済、さらには米金融当局の独立性および雇用・インフレの責務達成能力への脅威となり得ることは否めない。金融政策の目標が可能な限り最良の長期経済であるならば、当局者らは自分らの決定が2020年の政治的結果にどう影響するかを考えるべきだ。
(ダドリー氏は2018年までニューヨーク連銀総裁を務め、現在はプリンストン大学の教授。 このコラムの内容は同氏自身の見解で、必ずしもブルームバーグ編集部やブルームバーグLP、オーナーの意見を反映したものではない)
  

原題:The Fed Shouldn’t Encourage Trump’s Trade War: Bill Dudley(抜粋)

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