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「変われない日本」、参院選で占う選択的夫婦別姓の行方

更新日時
  • 制度導入へ民法改正訴える野党、自民党は慎重、旧姓利用の拡大推進
  • 個人より集団や制度を重視-世論調査では夫婦別姓の賛成が増加傾向

参院選で選択的夫婦別姓制度の導入が争点の一つとなっている。制度導入に向けた民法改正を訴える野党に対し、自民党は慎重姿勢を示しており、実現への道のりは平たんではない。

  3日に開かれた党首討論で、選択的夫婦別姓導入の賛否を問われた際、賛成で挙手しなかったのは安倍晋三首相だけだった。先月30日に行われたネット党首討論会では、同制度の必要性を問われ、「経済成長とは関わりがない」として明言を避けた。

Party Leaders Debate Ahead Of Upper House Election

党首討論で挙手しなかった安倍首相(中央)

  自民党の青山繁晴参院議員は16日のインタビューで姓の在り方はその国の「伝統」に由来するとし、夫婦別姓制度の導入について「伝統を大事にする場合は、少なくとも法制度化することはない」と否定的な見解を示した。「女性の姓に合わせる場合も日本に結構ある」とし、現行の民法が「女性差別というのは誤解」と語った。

  一方で、立憲民主党の大河原雅子衆院議員は与党でも選択的夫婦別姓は「当たり前」だと考える議員は少なくないとみる。最高裁は15年、夫婦別姓を認めない民法の規定は合憲としながらも、制度の在り方は国会で判断されるべきだと指摘しており、大河原氏は選択的夫婦別姓は「自然に出てくるニーズ」と実現に意欲を示した。

  自民党内では野田聖子前総務相が導入に前向きな考えを以前から示しているほか、公明党も参院選公約で「実現に向けて議論を進める」と明記している。

  政府答弁書によると、法律で夫婦同姓を義務付けている国は日本だけだ。毎年、約60万組が結婚する日本では、男性側の姓にそろえるケースが96%を占める。世界では選択的夫婦別姓が主流となっており、国や州によっては、ハイフンで夫婦の姓をつなぐ「結合氏」や、全く新しい姓にすることもできる。 

自分が消される

  羽賀美樹さん (29)は、2年前に結婚した際、思い入れのある自身の名字を手放した。夫の石澤和也さん(33)が改姓を拒んだためで、区役所で夫の姓を書いた時の違和感は今でも覚えているという。結婚後も仕事が忙しかったが、半休を使って身分証明書などの改姓手続きを何度もするたびに「自分が消されたような感覚」を味わい、「夫は何もしなくていいのに、不公平」だと感じた。手続きに奔走する妻の姿をみた石澤さんは今、ともに夫婦別姓の実現に向けた運動に参加している。

A couple for Surname Story

羽賀美樹さんと夫の石澤和也さん

  夫婦別姓訴訟弁護団の野口敏彦弁護士は、「個人よりも、集団や制度を重視」した現行の夫婦同姓制度は個人の生き方が多様化した社会の実態に合っていないと指摘。「変われない日本」の象徴と位置付ける。夫婦別姓を求める声は増えており、内閣府が昨年発表した世論調査では、選択的夫婦別姓の導入に向けた民法改正に賛成と回答した人は、5年前と比べて7%上昇し42.5%と、反対の29.3%を上回った。 

30代の半数以上が賛成

  法制審議会(法相の諮問機関)は1996年、「選択的夫婦別氏制度」を含む正式な法案を用意したが、保守派の議員の反対により、国会への提出は見送られた経緯がある。同制度に対する代表的な反対意見として、家族の一体性の喪失や、子供への好ましくない影響などが挙げられた。

  メルボルン大学アジア研究所の豊田悦子上級講師は、夫婦別姓が実現しない理由の一つとして、賛成派と反対派の「イデオロギーのぶつけ合い」があるとし、望まない改姓から生まれるアイデンティティーの喪失、仕事上での不都合について実質的な議論がされていないと分析する。内閣府に設置された男女共同参画局に民法や家族法の専門家が少ないため、関係者が問題を十分に理解していない点も指摘した。

   政府が先月発表した「女性活躍加速のための重点方針2019」では、選択的夫婦別姓の導入について、「国会における議論の動向に注視しながら、引き続き検討を行う」との表現にとどめている。

旧姓利用の拡大

  「女性活躍推進」を掲げる安倍政権が進めているのは旧姓利用の拡大だ。今年11月から、本人からの届け出がある場合、住民票やマイナンバーカードに旧姓を併記し、旧姓で預金口座を開設したり、ローンを組んだりすることが可能となる。総務省はシステム改修のため、17年度補正予算で100億円を計上した。

  しかし、旧姓利用の拡大では、不十分だとする声は多い。01年に結婚し、妻の姓「西端」に改姓したサイボウズの青野慶久社長(48)は、夫婦別姓を選択できない戸籍法は憲法に違反すると国を提訴している。法的担保がない氏を使うことや、二つの氏の使い分けは、会社を経営する上で「非常に不安定な状況」だと訴える。

  書類の署名では、旧姓が使えないことも多い。国内外の氏のルールを法務担当者と確認する必要があり、手間がかかる。サイボウズの株式所有者名が戸籍上の「西端」であり、日々の仕事では通称の「青野」を名乗ることで、株式を持っていないと投資家に勘違いされたこともある。

  夫婦別姓を実現するために、事実婚やペーパー離婚を決断する例も少なくない。団体職員の小泉祐里さん(50)と研究者の田中浩さん(60)は、籍を入れずに26年間ともに過ごし、一人息子を育ててきた。法律婚を望んでいたが、お互いに姓を変えたくなかったため、仕方なく事実婚を選んだ。

  共同親権や相続権などは事実婚では認められていない。こうした法律上の不利益に加えて、事実婚に対する社会的な容認度が低いことで苦労もあったという。田中さんはあらゆる場面で「姓は違うけど夫婦、親子だよ」と周囲に説明するストレスを感じてきたという。

  市民団体「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」は、昨年8月から法制化を求める陳情活動を行い、東京都議はじめ多くの地方議会で請願や陳情が採択され、22議会から国へ意見書が送られた。4件の訴訟も始まった。野口弁護士は別姓の選択肢を求める議論は「15年の最高裁判決時を上回るくらいに盛り上がっている」と感じている。

  小泉さんと田中さんは、今も法制化を求める思いは変わっていないと話す。2人が提出した意見書は茨城県取手市と牛久市で採択された。「次の世代には自由な選択ができる社会を残したい」と1日でも早い選択的夫婦別姓の実現を願っている。

(7段落目に詳細を加えるとともに、17段落目に市民団体の動きを追加して更新します)
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