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社会信用システムで壮大な実験進める中国、暗黒社会到来の前触れか

  • 世界中の独裁国家が採用する可能性もある「社会信用システム」
  • 良い行いなら加点、悪ければ減点-悪い行いの定義示さず
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Illustration: Zipeng Zhu
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中国江蘇省の蘇州市は入り組んだ水路で知られ「東洋のベネチア」とも呼ばれる。700年以上前にマルコ・ポーロも訪れたとされるこの都市は今、国民の行動を追跡するネットワークという壮大なプロジェクトで注目を集める。市民の振る舞いに対して賞罰を与える社会信用システムの実験で、習近平政権が2018年に選んだ12カ所の1つが蘇州だ。
  
  市の花「桂花」がこのシステムの名称だ。配偶者の有無や学歴、社会保障給付などの約20の指標に関するデータが収集される仕組みだが、ペンス米副大統領ら欧米の政治家は英国の作家ジョージ・オーウェルが描いた暗黒社会につながる制度だとこのシステムを激しく批判している。世界中の独裁国家のモデルとなり得るかもしれないからだ。

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蘇州市公共信用情報サービス大庁

写真家:Qilai Shen / Bloomberg

  起業家やボランティア、公務員、それ以外の蘇州市民数十人が桂花についてインタビューに応じてくれたが、このシステムの名称を耳にした人はほとんどいなかった。それでもこの社会信用システムは2020年までに中国全土で法律や規制、基準の策定に使われる予定だ。

  エール大学法学院蔡中曾中国センターのジェレミー・ダウム上級研究員は「監視カメラや顔認証によるモニター能力を大げさに言うのが中国で、同じようにデータ収集・分析能力を誇張して伝えることに関心がある」と指摘し、「不正は把握されると国民に信じこませたいのだ」との見方を示した。

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「桂花」のスコア

写真家:Qilai Shen / Bloomberg

  市中心部に近い茶色と白の3階建ての建物「蘇州市公共信用情報サービス大庁」が桂花というシステムの窓口だ。市民はここを訪れ、自分のスコアについて質問することができる。ある月曜午後に訪れてみると、建物内にほとんど人はいなかった。ジーンズにTシャツを着た女性職員によれば、1日に10人程度が訪れるという。大半が借金返済を終えた中小企業のオーナーで、金融信用のブラックリストから外れたかどうかを確かめに来るのだそうだ。自分の社会信用スコアをチェックするため来る人はほとんど見たことがないと職員は語った。

  社会信用システムの支持者は、米国で多くの個人向け融資の審査に使われる信用スコア「FICO」に近いものだと主張するが、中国の制度は国民を監視するため公共の場所での監視カメラや決済システムなど広範な監視ネットワークを用いており、はるかに厳しいものであることは間違いない。ボランティア活動や期限通りの支払い、ごみの投げ捨てがないなどの良い行いに対しては特典が付与される一方、悪い行いをすれば金融・公共サービスが突然受けられなくなることもあり得る。
  
  蘇州市によれば、桂花は社会保障や民事など20程度の公的部門から個人情報を収集している。スコアは基準の100点から始まり、良い行いをすれば最高200点までポイントが増える。ただ社会信用システムを利用する他の地方当局同様、蘇州市は悪い行いを定義付けてどれだけポイントが減らされるかについてのルールをまだ導入していない。

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道路を横断する歩行者に道を譲らないドライバーは得点が差し引かれる可能性も

写真家:Qilai Shen / Bloomberg

  地元メディアの報道によると、蘇州で監視対象となっている1300万人のうち約8人に1人が昨年8月時点で100点を超えるスコアだった。100点に満たなかったのは4731人だけで、その全員が融資返済を怠ったか、裁判所の判決に従わなかった「不履行者」だった。残る1100万人余りは基準の100点だ。

  それでも罰則という考えは、すでに懸念を広げつつある。隣接する浙江省の義烏市では、歩行者に道を譲らなかったとして交通警官から3点を差し引かれた市民が銀行融資を断られたと語った。システムの乱用・悪用を防ぐチェック・アンド・バランスの機能を確保しながら、どう現行の法制度に組み入れていくかが問題だ。

  新疆ウイグル自治区でイスラム教徒の少数民族ウイグル族を弾圧していると非難されているのが中国だ。同自治区におけるテクノロジーと密告者の使い方は、社会信用システムの展開が進むにつれ、一段と圧政的になり得ることを示唆している。蘇州に住む保険販売員の女性は 「いつも見張られているのではないかと心配し、恐怖の中で生活することになりかねない」と話した。

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蘇州のビジネス街

写真家:Qilai Shen / Bloomberg

  上海市と浙江省、河北省、湖北省、陝西省は地元の信用規定を設けたが、全国的なルールはない。浙江省と上海市はデータ収集に関して、宗教的信条と遺伝、指紋、血液型、病歴を除外する明確な制約を課している。

  中国商務省傘下にある国際貿易経済合作研究院信用研究所の韓家平所長は、「社会信用システムの実験は主に国民に利便性と特典を与えるものであり、地方当局は罰則については慎重になる必要がある」と説明。「どのレベルの政府であっても、過度の罰則や国民のプライバシーや正当な権利を侵害してはならない」と語った。

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桂花の得点が多ければ理論的には図書館から長めに本を借りることができる

写真家:Qilai Shen / Bloomberg

原題:China’s Most Advanced Big Brother Experiment Is Kind of a Mess(抜粋)

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