コンテンツにスキップする

参院選前に「老後2000万円」で与野党攻防、年金で見えぬ本質議論

更新日時
  • 報告書は「豊かな老後のための議論、危機感共有を」-WGメンバー
  • 年金は与党に「鬼門」も、抜本的な改革が必要-土居慶大教授

老後は公的年金以外に2000万円の蓄えが必要との試算を盛り込んだ金融審議会ワーキンググループの報告書が波紋を広げている。夏の参院選を前に国会で与野党の攻防が続いているが、専門家からは資産形成や少子高齢化に対応した年金改革に関する本質的な議論に結び付いていないとの指摘も出ている。
  
  東京都内では16日、政府の報告書への対応に抗議するデモ行進が行われた。ツイッターの呼び掛けなどで集まった参加者は「生活できる年金を払え」などとシュプレヒコールを上げた。千葉県からデモに加わった会社員の茂木晶子さん(31)は、「今から貯蓄しても2000万円なんてたまらないし、私たちの老後には年金もたぶんもらえないだろう」とした上で、「国民の生活を保障するのは政府として当然ではないか」と訴えた。

Rally After Pension Controversy

年金の政府報告書への抗議デモ(都内、16日)

Photographer: Emi Nobuhiro/Bloomberg

  3日に公表された金融審議会の市場ワーキング・グループ報告書では、無職の高齢夫婦の平均収入が約21万円であるのに対し、支出は約26万円で「毎月の赤字額は約5万円」であるため、「30年で約2000万円の取り崩しが必要」と試算した。

  報告書に対しては、10日の参院決算委員会で立憲民主党の蓮舫副代表が、2004年の年金制度改革で政府が掲げた「100年安心」が「うそだったことに国民は怒っている」などと追及。麻生太郎財務相は翌11日、内容が「世間に著しい不安や誤解を与えており、これまでの政府の政策スタンスとも異なる」として、正式な報告書として受け取らない方針を示した。

  安倍晋三首相は18日の参院厚生労働委員会で、年金制度について「政争の対象とするのではなくて冷静な議論が大切だ」と指摘した上で、「公的年金は老後の生活設計の柱であり、国民の皆さまの不安を払拭(ふっしょく)できるよう丁寧に説明していきたい」と語った。

  ワーキンググループのメンバーとして報告書作成に携わったセゾン投信の中野晴啓社長は、2000万円に関する記述は議論の前提として共有した「現状整理」に含まれるものであり、審議会の報告は、その上で何をすべきかを問う提言部分だと指摘。中野氏は、「高齢化が進む中、このままでは貧しい高齢者が増えてしまう。どうすれば少しでも豊かに暮らせるかを考えて真摯(しんし)な思いで議論を積み上げてきた」と振り返り、「思いを込めた報告書をなかったことにされるのは遺憾」と語った。

  報告書では、高齢化社会で資産寿命を延ばすことの重要性や金融サービスのあり方について議論の結果がまとめられている。中野氏は「高齢化社会で、自分の人生プランを見直す必要がある」とした上で、「この危機感を共有してほしいという思いでまとめた報告書」だと強調した。

  急速な少子高齢化が進む日本の年金制度に対しては、すでに世界的に厳しい評価も出ている。米コンサルティング会社マーサーの年金指数ランキング(2018年)では日本は34カ国中29位。総合評価でも、改善がなければ効率性と持続可能性に疑問があるとのD評価(下から2番目)だった。また世界経済フォーラム(WEF)が欧米とオーストラリア、日本などを対象にまとめた報告書でも、老後資金の不足が最も懸念されるのが日本という結果だった。

参院選

  野党側は夏の参院選で争点化を狙う動きを見せており、26日に会期末を迎える国会で安倍政権の対応を批判。立憲民主党の枝野幸男代表は「政府にとって都合の悪いものを隠し、ごまかそうとしている姿勢が争点」と指摘。国民民主党の玉木雄一郎代表も、専門家の議論を経た報告書を「選挙に都合が悪いから受け取らないというのは前代未聞」として参院選で追及する構えだ。

Japan Announces Name of The New Imperial Era

安倍晋三首相

Photographer: Tomohiro Ohsumi/Pool via Bloomberg

  一方、自民党の二階俊博幹事長は「われわれは選挙を控えている。そうした方々に迷惑を及ぼすことのないように、党としてはしっかり注意をしていかないといけない」と語った。FNNによれば、自民党の森山裕国対委員長も「報告書を受け取らないわけですから、論点になりようがない」と参院選の争点とはならないと騒動の鎮静化に躍起だ。

  慶応大学の土居丈朗教授は、第1次安倍政権の07年に年金記録のずさん管理が問題となり参院選で大敗したことから、年金に関する問題を与党は「鬼門」だと感じていると指摘。また参院選を控えた野党にとっては「安倍1強と言われ、他に攻撃材料がなく、この問題に集中している」との見方を示した。

  土居氏は、報告書にある老後に2000万円が必要とする計算方法について資産形成に関する専門家には「なじみのある」ものだったが、多くの国民にはそれが普通ではないという認識のずれがあったと見る。ただ高齢化の中で、日本の年金制度は見直しが必要になっており、与党側は制度の持続性を強調するだけでなく抜本的な改革を進めるべきだと警鐘を鳴らした。

(第5段落に安倍晋三首相の発言を追加して更新します.)
    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中 LEARN MORE