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残された数少ない有効な手段は何か、日銀追加緩和の選択肢を点検

  • 何やるかは「経済状況だけでなく金融市場の状況による」と黒田総裁
  • マイナス金利の深掘りには賛否両論、欠かせない副作用対策
黒田総裁

黒田総裁

Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg
黒田総裁
Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

米国の利下げ期待が強まる中、日本銀行の追加緩和観測が浮上している。金融市場の関心は、そのタイミングとともに、どのような手段が用いられるかに集まっている。

  黒田東彦総裁は10日、ブルームバーグテレビジョンのインタビューで、日銀にはほとんど手段がないのではないかという懸念を一蹴し、必要ならさらに大規模な緩和を行うことができると述べた。現時点では「日本経済は追加的な対策が必要な状態ではない」としながらも、「2%の物価目標に向けたモメンタムが失われれば追加緩和を行う」と語った。

  同総裁はその中で、緩和手段について、2016年9月の長短金利操作導入時に示した4つの手段を改めて示した上で、どれをどのように組み合わせて使うかは「経済状況だけでなく、特に金融市場の状況による」と説明した。仮に追加緩和が必要になった場合、「最大限、副作用を避けるため、さまざまな金融手段を組み合わせる可能性がある」と述べた。

四つの選択肢

  • マイナス0.1%の短期政策金利の引き下げ
  • 0%程度の長期金利操作目標の引き下げ
  • 指数連動型上場投資信託(ETF)含む資産買い入れの拡大
  • マネタリーベース拡大ペースの加速

マイナス金利の拡大

  円ドル相場は先週前半に1ドル=107円台後半と1月以来の円高水準に上昇した。米国が連続利下げに踏み切り日米金利差が縮小すれば、急速に円高が進む可能性があり、その場合の対応策として有力とみられるのがマイナス金利の深掘りだ。JPモルガン証券の鵜飼博史チーフエコノミストは7日付リポートで、9月に短期政策金利をマイナス0.3%に引き下げると予想した。

Bank of Japan Governor Haruhiko Kuroda Interview

黒田日銀総裁

Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  ただ、マイナス金利の深掘りは金利全般のさらなる押し下げにつながり、金融機関の収益をさらに圧迫するため、否定的な声も多い。日銀は金融システムリポートで、企業の資金需要が現在と同じペースで減った場合、約6割の地銀が10年後に最終赤字になるとの試算を示した。

  東和銀行の吉永國光頭取は6日にブルームバーグに対し、「日銀がさらにマイナス金利を深堀りすると、金融機関は非常に厳しい状況に置かれるところが多くなる」と指摘。 そうなると「地域経済にもお客さまにも大変な問題が生じるため、絶対にやめていただきたいし、できるだけ正常化を早くしてほしい」と語った。

  みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは12日付のリポートで、景気が循環的に下を向いているタイミングで収益環境がさらに悪化すれば、経営基盤が相対的に弱い金融機関を中心とする貸し出し姿勢の慎重化につながり、「金融面から景気の悪化を増幅する恐れがある」と指摘。マイナス金利の深掘りには懐疑的だ。

副作用対策

  劇薬であるマイナス金利の深掘りに踏み切るとすれば、副作用対策も欠かせない。その手段としてエコノミストの間で取り沙汰されているのが、マイナス金利での日銀貸し出しや長期金利目標の年限の短縮だ。

  第一生命経済研究所の藤代宏一主任エコノミストは10日付のリポートで「短期金利引き下げと貸出支援基金を通じたマイナス金利貸し出しを決定すると同時に、10年金利コントロールを放棄し、5年金利コントロールへ移行する可能性があるだろう」とみる。銀行収益圧迫をマイナス金利貸し出しで相殺しつつ、「イールドカーブをスティープ化させ、銀行への副作用を軽減する効果が期待できる」という。

長期金利変動幅の拡大

  日銀は昨年7月、0%目標の長期金利の変動幅をそれまでのプラスマイナス0.1%の2倍程度に拡大した。米国の長期金利低下を受けて長期金利は一時マイナス0.135%と、16年9月に長短金利操作を導入する1カ月前の水準まで低下した。長期金利が一段と低下した場合、日銀がコントロールできるか疑問視する声もある。

  BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは10日付のリポートで「利下げ期待が強まれば、市場は下限をテストしに行きかねない」と指摘。「今後、円高圧力が強まる場合には、それを吸収する意図で、日銀が10年金利の許容レンジをプラスマイナス0.3%まで拡大させる可能性はあり得る」とみる。

  長期金利の目標年限の短縮と変動幅の拡大、いずれも異次元緩和の正常化に向けた手段と受け止める向きが多かったが、こうした措置を追加緩和の枠組みに埋め込めば、経済情勢が好転した際は自然に正常化の方向に歩を進めることが可能となる。

フォワードガイダンスの延長

  日銀は4月、それまで「10月に予定されている消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、現在の極めて低い長短金利の水準を維持する」としていた政策金利のフォワードガイダンス(指針)を「当分の間、少なくとも2020年春ごろまで、現在の極めて低い長短金利の水準を維持する」に明確化した。

  三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美シニアマーケットエコノミストは13日付のリポートで、19、20両日の金融政策決定会合の開催時の外部環境次第で「延長」の可能性ありとみているが、今のところこうした見方は少数派だ。

ETF

  日銀は指数連動型上場投資信託(ETF)を年間約6兆円ペースで購入するとしている方針を、昨年7月に「経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうる」と微修正。それ以降、相場の変動に応じて買い入れペースは変動している。

  雨宮正佳副総裁は1月の講演で、「昨年8月の買い入れペースは年率換算で約2兆円だったが、市場が大きく変動した10月や12月は年率10兆円程度のハイペースとなった。こうしたメリハリのある柔軟な買い入れは、この間の市場の不安定な動きを緩和する効果があった」と述べた。

  株安局面での日銀のETF購入は日銀プットとも呼ばれて相場の下支え役として期待されており、今後も株価が大きく下落すれば日銀は買い入れペースを増やす公算が大きい。ただ、6兆円という目標額自体の引き上げは、のちのちの減額が容易でないためハードルは高そうだ。

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