コンテンツにスキップする

働き過ぎの日本をAIで変える、35歳女性CEOの使命感-上場も視野

  • シナモンは2016年の日本法人設立以来、総額約16億円を調達
  • 「起業した方が輝ける」、女性のロールモデルになることも意識

「日本人は働き過ぎ。人工知能(AI)を使って面倒な仕事を全てなくし、ホワイトカラーの生産性を向上させたい」。コンピューターサイエンス(CS)の研究経験と海外人材の活用を強みに、平野未来氏(35)が最高経営責任者(CEO)を務めるスタートアップ企業シナモンが急成長を遂げている。

  日本、ベトナム、台湾、米国の4カ国に5拠点を構え、2年前に約20人だった従業員は1年に100人のペースで増え現在は約200人。今後も同じペースで増やす予定だ。2016年に日本法人を設立後、野村ホールディングスや住友商事などから総額約16億円を調達。売上高は前期(19年3月期)に前の期比で5倍に増えた。数年内の上場を目指す。

Cinnamon Inc. CEO Miku Hirano Interview

平野未来氏

Photographer: Noriko Hayashi/Bloomberg

  同社の主力製品は、請求書などの非定型文書を読み取るシステム「フラックス・スキャナー」と、業界用語なども正確にテキスト化する音声認識エンジン「ロッサ・ボイス」。トピック抽出や文脈理解、要約などAIならではの高度な処理を組み合わせて提供する。大企業向けにカスタマイズし、顧客は東京海上日動、JCB、明治安田生命など国内だけで約50社に上る。

  昨年からAIを利用した活字・手書き文字の入力自動化に取り組んでいる第一生命保険は、複数社の製品を検討した結果、フラックス・スキャナーの導入を決定した。非定型文書の読み取りには、その文書が何かを判別する、読み取る位置を特定する、特定された場所の文字を読み取るという3段階がある。この製品はいずれの段階でも認識率が最も高かったと、事務企画部課長の岩元慎弥氏は説明する。

  第一生命は、デジタル化を推進しても一定程度、紙の情報は残り続けるとみて、これらの情報をデータ化し、入力して点検する作業にこのシステムを活用し自動化を進める方針だ。  

「数学の天才」を訓練

  シナモンの売り上げのうち9割以上を日本が占めるが、ベトナム、英国にも顧客がいる。昨年秋にはスタートアップ企業の集積地として注目を集める米テキサス州オースティンに営業拠点を設立。将来は中国進出も狙っている。

  AI製品の開発は、主にベトナムの2拠点で働く約100人のAIリサーチャーが担う。同国のトップレベルの大学を卒業した「数学の天才」でCSの知識のある若手を採用。半年間訓練すると開発に携わる人材を育成することができるという。

  日本ではCSを専攻する学生が少なく、理系のトップ層では医学部の人気が高いと平野氏は指摘する。経済産業省が4月に発表した調査結果によると、国内のAI人材を含む先端IT人材は30年に最大55万人不足すると予想されている。

  同社がベトナムや台湾で社員を擁するメリットは大きい。ハイレベルな人材を多く、日本よりも低コストで採用できる上、海外の動向がつかめ「リソース(経営資源)やマーケットの規模が違ってくる」という。

大企業の方がリスク

  平野氏は東京大学大学院在学中の22歳の時に「ネイキッドテクノロジー」を創業。スマートフォンやガラケー(従来型携帯電話)でアプリを開発できるミドルウエアの開発・運営を手掛けた。ミドルウエアは、基本ソフト(OS)とアプリケーションとの仲立ちをするソフトウエア。同社は5年後にミクシィに売却した。

  2社目となるシナモンは12年にシンガポールで創業し、ベトナムと台湾でソーシャルメディアのアプリケーションを開発していた。しかし、事業はうまくいかず、16年には倒産に近い状態に。もともと大学院で研究していたAIが注目され始めたためビジネスに活用できるAI製品開発へとかじを切ることにした。

  この年、米国人経営者と結婚し長男を妊娠。折しも、日本で大手広告代理店の女性新入社員が過労自殺した事件が話題になっていた。自然と子供の将来の働き方に思いをはせた。「私にとっては自分の子供が次世代の代表。子供が働き始める20年後に圧倒的に働き方が変わっている世の中にしたい」。AI事業に「使命感」が吹き込まれた。

  直感で動くタイプ。「なんとかなる」の精神で起業家としてくじけそうになったことはない。大学院生の時にはゴールドマン・サックスでインターンシップを経験。大企業に就職した先輩たちの話を聞くと、若手社員の仕事の大半は事務作業や社内調整で価値を生み出すことに時間を使えていないと思え、「大企業に就職する方がリスクがあると感じた」。

  今後は、非英語圏でAI開発拠点を増やし、人手不足に苦しむ国内中小企業向けAI製品の開発にも取り組む。最近は、大企業で能力を発揮しきれていない女性たちが「起業した方が輝ける」と思えるきっかけに自身がなれればと考えるようになった。

●平野未来(ひらの・みく)1984年生まれ。東京都出身。お茶の水女子大学でCS、東京大学大学院修士課程でAIを研究。在学中にIT人材の発掘・育成を目指す情報処理推進機構の「未踏ソフトウエア創造事業」に二度採択される。2006年にネイキッドテクノロジーを創業し11年にミクシィに売却。12年にシナモンをシンガポールで創業し、16年に日本法人設立。2児の母。趣味はキックボクシング。

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中 LEARN MORE