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【コラム】1941年の対日制裁も連想、米中対立激化-ギブニー

  • トランプ大統領はゼロサム思考でナショナリズムかきたてる
  • 中国主席は「新長征」と発言-致命的な偶発事故は現実にあり得る

中国と米国が戦略を巡って対立し、これを過去にあった対立に類推させるアナロジーが流行している。アテネ対スパルタ、大英帝国対ドイツ帝国、米国対ソ連などだ。そしてトランプ政権が華為技術(ファーウェイ)に事実上の禁輸措置を課したことで、フランクリン・ルーズベルト政権が1941年7月に決めた在米日本資産凍結も思い起こされる。

  米国は再び、アジアの大国に対峙(たいじ)している。この大国は地政学上の立場を主張、欧米依存から脱却するとともに、国益のため国際ルールの書き換えを目指している。ナショナリズムをあおり、国内で反対派の抑圧を続けている。こうした中国の行動を米国は経済をてこに変えさせようとし、軍事的展開も強化している。

  もちろん2010年代は1930年代とは違う。中国は隣国を侵略していないし、第2次世界大戦前の日米と比べ、米中の経済的な結び付きははるかに強い。米中が共に核の超大国であるという事実は、武力衝突の恐ろしさを計り知れないほど高めている。

  ファーウェイという民間企業への禁輸措置が21世紀の真珠湾攻撃への発火点になると言いたいわけではない。それでも米国の対中戦略は、戦前の対日制裁と同じ危険性の多くを連想させる。日米双方には一定の柔軟性があり、平和はまだ可能だったが、在米資産凍結とそれに続く対日石油禁輸という制裁が日本の政治家に極めて大きなプレッシャーを与えた。時間的な余裕がなくなり、反米色の強い政治家を勢いづかせた。

  「アメリカの対日戦略」を執筆した歴史学者のジョナサン・アトリー氏は「もし日本との対立が1942年の春まで先送りされていたら、永遠に回避されたかもしれない」と分析する。それまでに米国の軍事力がはるかに強大となり、欧州でドイツが勝利する可能性が低下していたためだ。日本側が米ワシントンの日本大使館に宛てた1941年8月の公電には、全面禁輸が強硬派に「強い論拠を与え」、計画推進に利用されたと記されている。

  米国は正常な貿易再開の条件として、日独伊3国同盟からの離脱とインドシナと中国大陸からの撤兵を日本に突き付けたが不調に終わり、むしろ日米双方の当局者の大半が相手国に対し極めて偏った見方をするようになった。そうならなかった1人が、真珠湾攻撃を指揮しハーバード大学で学んだ経歴もある山本五十六海軍大将だったのは皮肉だ。

  今の中国と向き合うトランプ大統領は、意識して世界を破壊しかねない賭けに出ているわけではない。2020年の米大統領選挙に向け、どんな形であれ、通商交渉での勝利には満足するだろう。トランプ政権はファーウェイと中国政府との関係を国家安全保障上の深刻な脅威として挙げたが、全てを取引と捉えがちなトランプ大統領には、自らの評判と政治面での優位を高めるための一つの交渉材料にすぎない公算は大きい。

  グローバルな力と影響力の競争において、こうした議論は危険な展開を見せ得る。トランプ大統領のナショナリズムをかきたてる言葉遣いやゼロサム思考、中国人学生ビザ(査証)全面禁止案などは米中両国で強硬派を鼓舞することになる。中国では習近平国家主席が、国共内戦時の紅軍(共産党軍)の大移動「長征」を引き合いに出し、「新長征」参加を国民に呼び掛けた。ルーズベルト政権で国務次官補として対日制裁の立案に関わり、後に国務長官となったディーン・アチソン氏のような強硬派のボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)もトランプ政権内にいる。政策を巡る致命的な偶発事故は現実にあり得るのだ。

  アチソン氏は回顧録で、「われわれに攻撃すれば母国は大惨事に至ると考えることのできる理性的な日本人はいなかった」と主張し、対日制裁に関する自身の厳しい対応を正当化している。日米は、対日禁輸措置のわずか数カ月後に開戦した。米中が平和的共存を見いだそうともがく今、こうした歴史は顧みるに値する。

  (ジェームズ・ギブニー氏はブルームバーグ・オピニオンで国際問題に関する論説を執筆しています。アトランティック誌やニューヨーク・タイムズ紙、スミソニアン誌、フォーリン・ポリシー誌、ニュー・リパブリック誌で編集者をしていた経歴もあります。また米国務省の仕事で1989-97年にインドと日本、ワシントンで勤務しました。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Japan’s Path to War and Trump’s Huawei Ban: James Gibney(抜粋)

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