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「鉄の結束」維持へ限界に挑む、車変革時代に重さのイメージ打破へ

  • 日本製鉄が鉄のみで3割軽量化の車体を設計ー存在感増すアルミ対抗
  • 材料全体で最適な軽量化を提案できる企業が勝者にーコンサルタント

わずか郵便切手1枚分の大きさで象24頭に匹敵する重さにも耐えられる。日本製鉄が最近披露した自動車の車体に使われる最も強くて軽い鋼板だ。自動車産業が大変革期を迎える中、製鉄業の盟主は自動車メーカーとの「鉄の結束」を維持するために、鉄の限界に挑んでいる。

  ヘンリー・フォードが1世紀前に大衆車の量産を始めて以降、自動車の主材料を担ってきた鉄。近年は「重さ」という弱点に焦点が当たる。自動車業界が燃費規制に対応するため、鉄より軽いアルミニウムや樹脂に置き換え、車体軽量化を進めているためだ。米フォード・モーターが2015 年、アルミを全面採用した主力ピックアップトラック「F-150」を投入した際、鉄鋼業界には衝撃が走った。

  それから4年。24日まで横浜市で開催された車関連技術の展覧会では、鉄だけで従来よりも3割軽くした車体が公開された。日本製鉄が開発した軽くて強度の強い超ハイテン(高張力鋼板)を大半で採用したことに加え、車体構造の設計にまで踏み込むことで、アルミ製の車と同等の重量を実現させた。燃費規制が強化される25年前後に商品化される新車を想定して設計したものだ。

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日本製鉄が設計した3割軽量化した車体

Source: Nippon Steel

  「鉄は古い素材とのイメージを持たれているが、決してそうではない。鉄だけでも軽量化できることを示すことは意味がある」。日本製鉄の藤田展弘執行役員は、車体アルミ化への対抗心を示す。長年材料開発を共に手掛けてきた日系自動車メーカーのみならず、他素材の採用が進む欧米の自動車メーカーにも鉄への回帰を促す。

  自動車向けは市場規模が大きく、付加価値も高い。日本製鉄にとって安定的な利益を稼げ、汎用(はんよう)品が中心の中国勢に対して差別化できる事業だと立花証券の入沢健アナリストは指摘する。トヨタ自動車など顧客の厳しい品質基準やコスト要求に応えることで、技術力を向上させ競争力を高めてきたが、他素材にシェアを奪われれば経営への打撃にもつながりかねない。

テスラの量産タイプには鉄採用

  電気自動車(EV)でも軽量化は必至だ。車体が重くなると1回の充電で走ることのできる航続距離が伸びなくなる。エンジンより重い電池を搭載する分、車体を軽くする必要がある。

  NRIアメリカの藤田誠人上級コンサルタントは「鉄から他素材へのシフトは避けられない」と分析。25年までの10年間で鉄の車体材料構成比が重量ベースで70%から62%まで減少する一方、アルミを中心とした非鉄金属の割合は8%から13%に拡大すると予測する。

重い鉄に逆風 

車体材料構成比の推移(重量ベース)

出所:野村総合研究所

  一方、アルミにも課題はある。フォードの宿敵、米ゼネラル・モーターズ(GM) は、重機を使って「F-150」のアルミ製の荷台にブロックを落とし、穴が開いた映像をテレビCMで放映。安さを武器に強度で勝る鉄が巻き返す動きも見られる。米電気自動車メーカー、テスラの高級車モデルの2車種はアルミ製だったが、17年に発売した同社初の量産タイプには鉄が採用された。

  トヨタ自動車の寺師茂樹副社長は4月の会見で「軽量化するならば、なるべくハイテンを使いながら次はアルミ、樹脂を使うという方向に行くのは間違いない」と指摘。軽量化のプロセスはコストと販売価格の兼ね合いで車種ごとに異なるとした上で、「高い車であればあるほど素材の置き換えは進んでいく」との見方を示した。

Nippon Steel Kimitsu Works

君津製作所

Source: Nippon Steel

  燃費規制が段階的に厳格化する中、鉄は軽量化の限界にどう挑むのか。日本製鉄・自動車材料企画室長の江尻満氏は、次なる車体軽量化のターゲットとして「5割」を検討していることを明らかにした。3割軽くした車体は「オール鉄」だが、その先は樹脂などを一部組み合わせることで鉄では不足する特性を補い、さらなる軽量化に取り組む。

  「100年に1度」と言われる車の変革期は素材産業も巻き込む。NRIアメリカの藤田氏は、鉄など特定の素材の中だけに閉じこもっていては競争に勝ち残れないと話す。「鉄、アルミ、樹脂にこだわらず、軽量化に最適な素材は何かを提案できる企業が勝者になっていく」として総合力が鍵を握るとみている。

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