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アルツハイマー病の血液検査、根治治療薬ない今はもろ刃の剣

  • 島津製作所のほか、ロシュやクオンテリクスなどが取り組む
  • アルツハイマー病診断・治療市場は24年に111億ドルに達する見通し

ノーベル賞受賞者で島津製作所(本社・京都府)シニアフェローの田中耕一氏(59)が同僚らと共に約10年にわたる研究の成果として開発したアルツハイマー病発症に関連する物質を検出する血液検査は、もろ刃の剣だ。

  記憶力などが低下する認知症の一種であるアルツハイマー病の根治治療薬がない中、発症リスクのある人々を特定しても認知症の緩和にはつながらず、不安が強まる可能性がある。ただ、この患者の身体的負担を小さくする低侵襲の検査は、研究に参加する最適な患者の特定や、治療薬開発の迅速化に役立つだろう。世界のアルツハイマー病患者は2050年までに約1億5200万人に達すると予想されている。

Shimadzu Corp.'s Nobel-winning Researcher Koichi Tanaka Interview

田中耕一氏

Photographer: Shoko Takayasu/Bloomberg

  田中氏はインタビューで、治療薬がないため血液検査の利用については「気を付けないといけない」と話す。開発した血液検査がいつか日常的に利用されることを望んでいるが、それは現時点では製薬会社と研究施設に委ねられていると述べた。

  アルツハイマー病の明確な兆候が発見されてから100年以上が経過し、スイスのロシュ・ホールディングや米イーライリリーエーザイなどが多額の資金を研究に投じているが、依然として病気を根治する治療薬は開発されていない。

  医学の飛躍的な進歩がなければ、世界の認知症に関連するコストは30年までに約2倍の2兆ドル(約221兆円)に膨らむと予想されている。

  アルツハイマー病の原因については議論されているが、深刻な認知症機能障害を発症した患者に効く治療薬はないだろうというのが大半の科学者の見解だ。

「ネイチャー」で発表

  田中氏はアルツハイマー病治療薬の開発について、「うまくいかなかった原因はいろいろあるが、症状が出た人に投与するしか方法がなく、症状が出た後では遅い」と説明する。

  昨年1月に科学誌「ネイチャー」に発表された研究では、田中氏らは、島津製作所の質量分析研究所で発見された新たなバイオマーカーを使って少量の血液からアミロイドベータを検出し、向こう数十年間に認知症が進む可能性が高い人々を特定することができるとしている。

  これまでは、アルツハイマー病発症のかなり前に起こる脳の変化を確実に発見する方法は、高額な磁気共鳴画像装置(MRI)や陽電子放出断層撮影(PET)による検査、そして脊柱に針を刺して骨髄液を採取し アルツハイマー病の発症に関連する物質を計測する身体的な負担の大きい侵襲的な方法しかなかった。

  田中氏は、われわれの発見がいかに常識を覆すものだったかというのは言えると思うと述べ、ネイチャーで研究報告をした後、あちこちから論文が出て競争が激しい状態が始まっていると指摘。「私たちがその口火を切った立場でありながらも、追われる者の弱さもある」語る。

  ロシュやスペインのアラクロン・バイオテク、米クオンテリクスなど世界で10数社が、アルツハイマー病などの神経変性疾患について、血液を利用した診断方法の開発に取り組んでいる。      

  オースティン・ホスピタル(メルボルン)の神経科医、クリストファー・ロウ氏は「これらの血液検査は、患者を特定し臨床試験の準備をするのに非常に重要で、迅速化とコスト低下につながる」と指摘。「希望が持てるし、大きな影響がある」と語る。

  リサーチアンドマーケッツ・ドットコムの3月の発表によると、世界のアルツハイマー病の診断・治療市場は24年に111億ドルと、昨年の75億ドルから拡大する見通しだ。

原題:A Blood Test Can Predict Dementia. Trouble Is, There’s No Cure(抜粋)

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