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Photographer: Qilai Shen/Bloomberg

【コラム】困るのは米消費者より中国、対中関税は効果的

  • 大統領批判の思いにかられ主張するコメンテーターが多過ぎる
  • 貿易戦争では中国の方が米国より脆弱だと中国人自らが思っている
Tugboats guide the Cosco Spain container ship, operated by Cosco Shipping Holdings Co., at the Yangshan Deepwater Port, operated by Shanghai International Port Group Co. (SIPG), in this aerial photograph taken in Shanghai, China, on Friday, May 10, 2019. The U.S. hiked tariffs on more than $200 billion in goods from China on Friday in the most dramatic step yet of President Donald Trump's push to extract trade concessions, deepening a conflict that has roiled financial markets and cast a shadow over the global economy.
Photographer: Qilai Shen/Bloomberg

米中の通商交渉が進展していない。トランプ米大統領による対中制裁関税が続き、さらに強化されそうな状況を踏まえれば、こうした関税の効果を検証してみる価値はある。よく聞くのは対中関税の敗者は米国の消費者だという主張で、すなわち大統領批判でもあるのだが、現実は中国の方がもっと苦しい立場に恐らく置かれている。

  もちろん、対中関税が米消費者に値上げの形で跳ね返っているとの調査報告はあり、この結論について争うつもりはない。問題は、こうした調査・分析が長期の視点で必要なあらゆる変数を十分考慮しているかどうかだ。

  米政府の関税が対象としているのは、中国から米産業界が調達する原材料や部材、製品などだ。これが米企業のコストを押し上げ、直ちに消費者向け価格に転嫁されることは容易に理解できるし、この側面が調査で取り上げられている。だが、中国から永遠にこのような供給が続くわけではない。関税が残るなら、なおさらだ。数年以内に例えば、賃金が中国より安いベトナムなどから同じ商品がより安価に提供されるだろう。つまり、米消費者が被るコスト高は一時的ということだ。

  一方で、中国が失った対米ビジネスを取り戻すのは難しい。その上、中期的な調整で中国の主要な競争相手がより良い輸出国になる効果もある。最終的な長期見通しを現段階で出すのは不可能だが、米国ではなく、中国にとっての負担の方が大きいとの見方はかなり説得力がある。

  中国にとってのリスクは他にもある。米市場へのアクセスが難しくなれば、中国は欧州に目を向けたくなるだろう。欧州連合(EU)が保護主義的な措置を強化するか分からないが、その可能性がゼロではないことを中国は考える必要がある。

  価格競争の激しい利幅の薄い市場では、損失を出さないために関税引き上げ分は消費者に負担を求めざるを得ないが、収益性の高いブランド製品は事情が異なる。例えば、米国がメルセデス・ベンツに対する関税を引き上げても、市場での強い立場を維持したいメルセデスは最終製品価格に転嫁せず、利益を削ってでも関税によるコストの一部を引き受ける決断を恐らくするだろう。

  中国の産業政策が目指しているのは、こうした付加価値製品の競争力向上だ。関税はそうした中国企業の利益を抑制するとともに、中国製品のスケールメリットを阻止することになる。関税による先制攻撃は、まだ数値で効果が示されなくても、中国経済の未来に打撃を与える。

  米国との貿易戦争がなぜ中国に不利益になるかを示す、もっと大きな理由もある。貿易協定の重要なポイントに当たるものだ。米中間の貿易協定は中国に対し、外国勢が監視や知的財産窃取、法的に不当な扱いを受けることなく投資できる国としてお付きを与えるものだ。だが、そのような認定見通しは現在なく、米企業に限らず多国籍企業の多くも対中投資意欲を低下させる。企業の中国進出が減れば、賃金は伸び悩み技術移転も進まないことになる。

  幾度となく中国を訪れて分かったのは、貿易戦争では中国の方が米国よりずっと脆弱(ぜいじゃく)だと中国人自らが思っていることだ。そうした考えは基本的に正解だろう。

  最後に言いたいことがある。ここで論じたいのは、トランプ大統領の対中政策が正しいかどうかではない。基礎的な経済学に忠実になろうとしているだけだ。貿易戦争のコストを負担するのはとにかく米国民だとの議論を耳にしたら、疑ってほしい。関税などでトランプ大統領が完全に間違った政策を採用しているとの強い思いから、主張を展開するコメンテーターが多過ぎる。経済をより公正な目でしっかり分析すれば、中国も貿易戦争で大きな敗者であることが示される。トランプ大統領の脅しが中国に対する本物の圧力となって、ある程度の効果を発揮しているのは確かだ。  

  (タイラー・コーエン氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。ジョージ・メイソン大学の経済学教授で、ブログ「Marginal Revolution(限界革命)」を執筆しています。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:China Loses More From a Trade War With the U.S.: Tyler Cowen(抜粋)

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