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経済学のリベラル派を標的にする習政権、マクロ政策への批判封じる

  • 中国語ウェブサイトが閉鎖された天則経済研究所、生き残り図る
  • 盛洪所長は昨年11月、国務院により出国を禁止された

中国で自由市場経済を最も強く主張しているシンクタンク、天則経済研究所(ユニルール)の北京オフィスに1人の下級役人が、うるさいとの近所の苦情を伝えにやって来たのは昨年夏だ。スタッフたちの活発な議論について言っているのかもしれないが、奇妙な主張だった。だが、何カ月にもわたり定期的に誰かが来ては嫌がらせをしていたことから、スタッフに驚きはなかった。

  所長の盛洪氏(64)はそうした役人の訪問に備え、スタッフにあらかじめ対応を指示していた。その場にいた盛氏の同僚チアン・ハオ氏は同研究所として正式に謝罪すると伝え、役人は帰っていった。説得はうまくいったようだったが、その日の午後、今度はオフィスの家主が建設作業員らと共にやって来た。そして信じられないことが起きた。作業員はオフィスの扉を溶接し、スタッフを中に閉じ込めてしまった。チアン氏らは証拠写真を撮り、警察を呼んだ。警官の説得もあり外に出ることができたスタッフだが、翌日オフィスに戻ると扉は再び固定されていた。その数日後には外に2台の監視カメラが設置された。

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盛洪氏

Photographer: Gilles Sabrié for Bloomberg Businessweek

  天則は現在90歳になるエコノミスト、茅于軾氏の発案だ。最近まで非政府系のシンクタンクとしては中国で最大級の影響力があった。1970年代後半に当時の中国最高指導者だった鄧小平氏が始めた改革開放政策に沿って、茅氏は本土内で規制緩和や民営化といった自由主義的な考えを広げ、尊敬を集めた。

  だが2000年代半ば、胡錦濤国家主席(当時)は国策批判の抑制に動いた。それでもスタッフは最大30人を抱えていた。11年なると天則は、低金利融資や安価な土地譲渡など優遇策がなければ事実上全ての国有企業で利益が出ないとのリポートを公表。幅広く読まれたこのリポートは政府当局者を激怒させた。茅氏は同年、「毛沢東を人間の形に戻そう」と題した論文を発表し、建国の父は「子どもっぽく」、「国を破壊する能力は誰よりも高かった」などと主張した。

  鄧小平時代には、政策当局とのやりとりを通じ、統計に基づくリアリティーチェックを提供する知的コミュニティーが生まれていたが、12年の習近平共産党総書記就任後すぐに政府に異論を唱える市民社会に対する取り締まりが始まった。天則もその対象となり、中国語のウェブサイトとソーシャルメディアのアカウントが閉鎖された。

 

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ケイトー研究所から「ミルトン・フリードマン自由賞」を授与される茅于軾氏(2012年5月)

Photographer: Jonathan Ernst/Reuters

  中国政府は1980年には経済的自由主義を強く唱えるシカゴ学派のリーダー、ミルトン・フリードマン氏を北京に招いており、80年代の中国は知的興奮が味わえる場所だった。そうした環境の中で、茅氏と盛氏は中国社会科学院(CASS)で出会った。博士課程の学生だった盛氏は茅氏に共鳴。鄧小平氏が広東省を訪れ経済改革を訴えた「南方講話」の翌年に当たる1993年、2人は天則をコンサルティング会社として設立した。利潤追求を狙ったというより、中国では非政府組織(NGO)の地位は常に不確かで、法人化した方が当局からの干渉を受けくいためだった。

  盛氏はその後の天則の発展を振り返りながら、「計画経済が市場経済に移行するのを目の当たりにした類いまれな機会だった」と話す。だが昨年11月、米ハーバード大学での中国の改革開放40周年に関するシンポジウムに招かれ北京の空港からボストン行きの旅客機に乗ろうとした盛氏は、出国審査で足止めされた。戸惑う盛氏に出入国審査官が告げたのは、国務院が出国禁止を命じたということだった。つまり盛氏は国家安全保障を脅かす人物と見なされたのだ。

  天則のスタッフは減り、しかも「茶会」と称して警察や情報機関からしばしば呼び出しを受けるが、それでも天則は生き残りを図る。天則を全面禁止にすれば国際的な批判を招く公算が大きく、習国家主席の政権でさえ限界がある。ワシントンのケイトー研究所から2012年に「ミルトン・フリードマン自由賞」を授与された芽氏は北京の自宅でインタビューに答え、「国は自由であればあるほど裕福になる。裕福な国に自由でない国はない」と中国語で述べ、「共産主義思想は悲劇であり、災難だ」と断じた。 

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茅于軾氏(北京の自宅で)

Photographer: Adam Dean/Bloomberg

  習主席は16年、報道機関の主な役割は共産党に仕えることだとの方針を掲げた。17年の法律でNGOは公的スポンサーを見つけなければ閉鎖されると定められ、多くのNGOが活動をやめた。米カリフォルニア大学サンディエゴ校で中国の銀行業・財政政策について教えるビクター・シー(史宗瀚)氏は、中国のマクロ経済政策について「批判しようとする若手のエコノミストは今ほとんどいない」と語る。私的な会話では「まだ議論はあるが、そうした意見を学術論文で誰も発表しないだろう」と言う。

  怖いのは、共産党が伝える経済情勢を投資家は基本的に信じるしかない状況の中で、危機が到来するまで、見えないゆがみが積み上がっている可能性があることだ。中国経済の危機は世界の危機にもなり得る。

(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)

原題:China’s Latest Crackdown Target Is Liberal Economists(抜粋)

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