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【コラム】米に再び「赤の恐怖」か、自らの首絞める恐れ-トリベディ

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  • 人材規制により欧中接近や頭脳流出招く可能性
  • 米ハイテク企業はAIなどで中国人研究者を起用できなくなる公算も

人工知能(AI)などテクノロジー分野での中国の躍進に米政府が神経をとがらせ、対策を打ち出しているが、自らの首を絞める恐れもある。米政界にはかつての共産主義排斥「赤の恐怖」に似た動きが広がり始めた。大学は中国側の研究提案に対する審査を強化。会議や交流のために訪米する中国人科学者のビザ(査証)発給は遅れ、ロボットや高度な製造業などをテーマに学ぶ中国人大学院生へのビザの期限は5年から1年に短縮された。

  ヒューストンにあるMDアンダーソンがんセンターは中国系の上級研究者3人を4月に追放。米国立衛生研究所(NIH)が3人に開示・守秘義務規定に違反した可能性があると判断したためだ。ここ数カ月、さまざまなテクノロジー企業の従業員が企業秘密を盗んだとして摘発されている。

Not Welcome

 

  トランプ大統領が輸出管理改革法(ECRA)に昨年署名した後、米ハイテク企業への中国からの投資を制限する新たな政策がまとまり、慎重な取り扱いを要する「新たに出現した基礎を成す」テクノロジーに関する再検証も開始された。このプロセスはほぼ完了しており、商務省の産業安全保障局は強化後の規制をどう順守すればいいのか企業の理解を手助けするセミナーを今後数カ月かけて開催していく。

  新たな輸出規制の詳細はまだ不明だが、従来のようにハードウエアやソフトウエア、アルゴリズムに加え、たとえ米国内でさえ機密もしくは管理された情報の外国人への開示も輸出検証プロセスの必要性を招くことにもなる。もし世界のどこかで米国人と外国人の間でそうした情報のやり取りがあれば、その外国人の国への輸出と見なされることもあり得る。

  要するに、米国のハイテク企業はAIなど一部の極めて重要なテクノロジー絡みで中国人研究者の起用ができなくなりそうなのだ。この分野で最も大きな進歩を生んできた形態の知的協力が、もはや不可能になるかもしれない。

License to Share

 

  海外での留学や就業を経験した中国人を本土に呼び返そうと何年にもわたり取り組む中国政府には、むしろ好都合だろう。そうして母国に戻る中国人は古巣に帰る「海亀」に例えられるが、中国での検閲・官僚主義に絡んだ恐怖や世界最高水準の人々と働きたいとの願いから米国にとどまることを選択する中国人は多い。
 
  もし新たな輸出管理が最も厳格な形で施行されれば、米国での雇用機会が限定される多数の中国人科学者・エンジニアは考えを変える可能性がある。査証手続きが厄介になれば、多くの米企業・大学は中国人応募者を面接するのさえ控えるようになるかもしれない。

  求職する側にとって、常に疑惑の目を向けられ生活するのは心地良くはないだろう。中国系米国人を代表する協会はサイエンス誌への3月の書簡で、人種で特定され目立つことに懸念を表明。米国ではなく欧州、あるいはイスラエルやインドといったハイテク産業が盛んな国で職を探し、帰国を選ぶ中国人が増えるだろう。つまりは米国からの頭脳流出だ。

  マサチューセッツ工科大学(MIT)など米国の機関は研究能力の大きな部分を外国人の学生や学者に頼る。企業や大学が中国側から学ぶ能力と意欲も抑えられることになる。MITは同大のグローバル戦略報告書で、「世界における米国の相対的な経済のウエートは何十年にもわたり低下している一方で、他国が一段と繁栄し、米国外でのグローバルR&D(研究開発)のシェア拡大が起きている」と指摘した。中国と欧州の研究者同士の協力は間違いなく増えるだろう。米国が同盟国に華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)製テクノロジーを拒否するよう説得し切れていないことは、米国の影響力に限界があることの何よりの証左だ。

  1980年代のレーガン政権は米国からのテクノロジーを盗み出そうとする旧ソ連を警戒し、科学協力に障壁を設けた。大学は外国人に扉を閉ざすよう求める圧力にさらされたが、こうした規制は最終的にアイデアとテクノロジーの移転を鈍らせることはできなかった。それどころか、競合国の能力向上に対する米国の目を曇らせてしまった。米政府は再び自らを孤立させる前に、テクノロジーの行方と共にこうした歴史の検証を図ろうとする可能性はある。

  (アンジャニ・トリベディ氏はアジアの工業セクターの企業を担当するブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。以前は米紙ウォールストリート・ジャーナルの仕事をしていました。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:How China Could Win From a Brewing Tech Cold War: Anjani Trivedi(抜粋)

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