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【コラム】私の知る鴻海会長、北京に好都合な総統にはならず-Culpan

  • 郭台銘氏は「平和、安定、経済、未来」が自身の中核的価値だと発言
  • 郭氏の決断が良いことか、投資家も慎重な見方をすべきかもしれない

米アップルの「iPhone(アイフォーン)」の受託生産を手掛ける台湾の鴻海精密工業を20年近く取材して分かったことがある。同社会長の郭台銘(テリー・ゴウ)氏は現実主義者だ。税制など政策に関して定期的に意見を述べる一方で、政治は政治家に任せてきた。フォックスコンとも呼ばれる鴻海が、中国で大規模な生産設備や労働力を抱えてうまくやっていくには、争わないことが台湾人実業家にできる最善の策だ。

  その郭氏が、台湾海峡の平和を維持するために野党・国民党から総統選挙出馬を目指すと表明した。中国政府は郭氏のような人物が台湾総統になれば好都合だと考えているかもしれない。だが、そんな期待は持たない方が賢明だ。

  出馬宣言で郭氏は「平和、安定、経済、未来」が自身の中核的価値だと語った。これこそ中台統一を迫る中国指導者が台湾のリーダーから聞きたかった言葉だ。台湾の明確な特徴である民主主義や人権、言論の自由に直接触れなかった郭氏は、台湾がどの道を歩むべきかについて中国側の路線に歩調を合わせる意向があることをほのめかしているようにもみえる。

  郭氏の算段を理解するにはまず、国民党を知ることが重要だ。改革を試みているものの、正式名称はいまだに中国国民党だ。中国大陸での国共内戦に敗れた同党が台湾を統治し始める前から台湾に住んでいた人々、いわゆる「本省人」の支持拡大を目指しているが、心のよりどころは今も中国大陸だ。郭氏は中国本土で100万人を雇用している。中国との取引をまとめるのに同氏に勝る人物はいるだろうか。

  長年の取材を通して気付いた郭氏のもう1つの重要な特徴は、人々をその気にさせる才覚だ。中国の地方当局者からトランプ米大統領に至るまで政治家相手の交渉に長(た)け、優遇税制や労働力確保、環境規制を巡る駆け引きでほぼ常に自分のやりたいようにやってきた。

  例えば米ウィスコンシン州では、地元政治家が工場を誘致しようと、鴻海から多数の要求を受け入れ、3日間のうちに極めて重要な環境関連の許可6件を付与した。住民の半分以上が工場は環境に悪影響があると懸念していたことが世論調査で示されていたにもかかわらずだ。同州では昨年の知事選で当時のスコット・ウォーカー知事が敗れ、反鴻海のムードの中で勝利したトニー・エバーズ現知事は、1万3000人の雇用創出という郭氏の約束は守られないとみて再協議の意向を示すが、郭氏にそのつもりはないだろう。

  ビジネスマンの郭氏にとって、最高の取引をまとめたいとの願望の前に民主主義が優先されることはないのかもしれない。同氏が望む「ディール」はしかし、必ずしも中国政府の想定に沿ったものとはならないだろう。

  「郭総統」に慎重な見方をすべきなのは中国の指導者だけではない。郭政権誕生なら鴻海に有利との思惑から、当初はさまざまな関連企業の株価が上昇した。ただ郭氏が40年かけて築き上げた企業帝国には後継者育成計画がない。今でも現場で陣頭指揮を執り続ける郭氏を「一体誰が引き継ぐのか」という私の問いに、これまでのところ誰も納得できる答えを出してくれていない。

  郭氏が事業から身を引けば、方向性を失った鴻海がふらつく恐れは十分にある。同社の極めて重要な顧客であるアップルは今、自社事業で難題を抱えており、郭氏が気を散らすべき時期でもないだろう。郭氏の決断が良いことかどうかは、投資家にも北京の指導者にも分からない。

  (Tim Culpan=高燦鳴=氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストでテクノロジーを担当しています。以前はブルームバーグ・ニュースでテクノロジーの取材をしていました。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:The Terry Gou I Know Won’t Be China’s Man in Taipei: Tim Culpan(抜粋)

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