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渋沢栄一ならメタボの資本主義に危機感、民間力向上を-玄孫語る

更新日時
  • 民間力を高めることが国力を生む、サステイナブルな社会構築すべき
  • 日銀ETF買いは株式市場に悪影響、栄一氏なら即刻中止求め激怒

日本の資本主義はぜい肉が多くなった-。2024年に登場する新1万円紙幣の顔は、現在ならこう言葉を投げかけるかもしれない。渋沢栄一氏の4代後の玄孫にあたり、同氏の研究家としても知られるコモンズ投信の渋沢健会長に聞いた。

--渋沢栄一氏が新紙幣の顔として選ばれた印象は
  「驚いた。元号が変わった後のタイミングで、今までなかった経済人が紙幣の顔になる。海外でも経済人はあまり見たことがない。元号と同じく新紙幣も長い準備期間があったと考えられることから、新しい時代へのメッセージがかなりあると考えたくなる」

--なぜこのタイミングでの採用となったと考えられるのか
  「資本主義は現在、格差やブラック企業、ショートターミズム(市場の短期主義)といった様々な問題点があるとされる。その中であえて500社程度の会社を作り資本主義の原点を象徴する人物を顔にした。紙幣が出るのは東京オリンピックが終わって大阪万博の前の年。大阪万博はサステイナブルな社会作りが大きなテーマになっている。それは栄一が1916年に出版した『論語と算盤(そろばん)』と基本的に同じメッセージだ」

Commons Asset Management Inc. Chairman Ken Shibusawa Portrait

渋沢健会長

Photographer: Shoko Takayasu/Bloomberg

--サステイナブルな社会とは
  「論語と算盤が出版されたのは、日本が先進国に追いつく明治時代を経て、1912年に元号が大正に変わった新たな時代意識が広がったころ。事業・経済の繁栄には算盤が必要だが、それだけを見つめているとどこかでつまづく。仮に1個人だけ大富豪になっても社会多数が貧困に陥るような事業であったら、いくら富を積んでもその幸福は継続されないと説いている。論語も必要で、正しい道理の富でなければ永続しない」

--栄一氏はなぜ多くの企業の立ち上げに関われたのか
  「シリアルアントレプレナー(連続起業家)でベンチャーキャピタリストだった。現在のみずほフィナンシャルグループなど立ち上げた会社に長居することなく、軌道に乗れば次にバトンタッチして立ち上げに徹していた。より多くの人々が会社の出資者になって応援し、より多くの人々が利益を受けられる立場で考えていた。東京証券取引所を作ったのもエグジットが目的ではなく、あくまで手段として。国力を高めることがライフワークのため、社会として必要であればいかに小さい事業でも心から楽しんだ」

--国力を高める方法とは
  「栄一の思想は国力を高めるということではあったが、それは官が全て行うのではなく、民間力を高めることだと考えていた。当時の日本で国力を高めるということは軍艦などを買うことだったが、国の財源も結局は民間が稼いだもの。民間が稼げなれば国力もない。ただし目先の稼ぎだけを考えていたら持続性はないため、論語という道徳も必要だと。倫理的資本主義とも言われる」

--栄一氏が今の日本をみたらどう感じるか
  「栄一なら日本の資本主義はぜい肉が多くなった、ワークアウトが必要と言うだろう。自ら成長が求められる時代に日本企業は会社の中での価値やスキルを作り、忖度(そんたく)できる人が出世する。しかしそういう人と市場価値とは違う。自ら工夫しなければならない時代に、終身雇用や年功序列が福祉制度化してメタボ状態となっている。大企業では30-40代は危機感を持っている。経営トップも同じ危機感を持っているが、この10年状況は変わっていない」

--具体的には
  「例えば最も採用が多かったバブル入社で50代になったミドルマネジメント世代が、粘土層となっていると指摘する企業経営者もいる。今の路線でもう少し頑張ると役員など上のポストになれるため、下から新しいことを提案してもチャレンジせず、上からの指示も下に行かないという大企業病だ。そうした層が定年退職を迎える2020年以降ではなく、今から若い世代や女性に力を与えるべき。年功序列や正社員は40歳までにし、後は年俸制にする。さらに定年延長も止めるべきだ。栄一は成果主義で、機会平等の中で自立することが大切だと言っていた。まずは霞が関の官僚から始めると良い」

Japan Banknotes Just Got a Redesign, And Some Stocks Are Surging

新1万円紙幣の顔は渋沢栄一氏

Photographer: Toru Hanai/Bloomberg

--米国では新たな巨大IT企業が次々と誕生する中、日本では新陳代謝に欠けがちだが
  「新しいことにチャレンジすることは悪ではなく、皆が応援すべきこと。前例がない、組織として通らない、誰が責任をとるのか、という3つの言葉を日本企業が禁止すれば、日本の国内総生産(GDP)は5割上がると思う」

--現在の株式市場について栄一氏はどう考えるか
  「日銀という政府が金融政策の一環としてETF(上場投資信託)購入を行い、間接的に日本の民間会社の株主になっている。資本市場を壊しに入っている。栄一なら激怒して絶対に許さなかった。日銀としてもこのままではいけないと個々人が思いながらも、全体としては続けなければならないモードに入っているのだろう。このままでは20、21年にはGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)以上に民間会社の間接的な株主になる。GPIFを自然現象のクジラだとすると、日銀はシン・ゴジラのような怪物だ」

(「粘土層となっている」の部分を伝聞表現にあらためます.)
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