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再生医療で世界リードへ、脊髄損傷で初の実用化-透明性の確保重要に

  • 二プロと札幌医大が共同開発「ステミラック注」、4月受注開始予定
  • 世界最速の日本の承認制度には海外から懸念の声、学会が声明で反論

各国が研究開発にしのぎを削る中、脊髄損傷を対象とした再生医療製品が世界で初めて日本で実用化される。ニプロと札幌医科大学が共同開発した「ステミラック注」で、4月に受注開始予定。世界最速のスピードを誇る日本の製造販売承認制度の下で先陣を切った形だが、この制度では臨床データの公表など透明性の確保に向けた取り組みの重要性が増している。

  ニプロの資料によると、ステミラック注は、患者の骨髄に含まれ、神経や血管などに分化する能力を持った幹細胞である間葉系幹細胞を体外で約1万倍に増殖させ、患者の静脈から投与する。脊髄損傷に伴う機能障害などの改善が見込まれ、患者自身の細胞を用いるため副作用も起こりにくいとされている。

Nipro Regenerative Medicine R&D Center

再生医療研究開発センター

Source: Nipro Corp.

  治験では受傷後54日以内に投与された患者13人のうち12人で症状の改善が見られ、昨年12月に厚生労働省が「条件および期限付き承認」とした。今後7年を期限に検証が行われ、最終承認されるかどうかが決定する。

  日本では、再生医療で世界をリードすることを目指し2014年に再生医療関連法が施行され、条件および期限付き承認制度が創設された。医薬品は、臨床研究、治験の後、申請、承認、市販というプロセスを経るが、重篤で有効な治療法が少ない疾患の患者を対象とする再生医療製品について、安全性と一定の有効性が推定されれば治験の途中で承認し、市販後に検証していく仕組み。

  10年以上かかっていた承認までの期間は約5-8年短縮され、市販後に有効性とさらなる安全性が検証される。

  ニプロは年間最大100人分を目標に製造し、ピーク時の約9年後には年間の投与患者数249人、販売額は計37億円を想定。価格は約1500万円で保険が適用される。箕浦公人常務取締役は「再生医療は新しい治療であり、確立していないところも多く事業として成り立たせるのは簡単ではないが、将来的に二プログループの事業の柱の一つとなるべく注力していく」とコメントした。

患者は期待

  「安全性の確保は外せないが、治験の最終段階を治療に使っている意味合いがあると思う」。日本せきずい基金の大浜真理事長は、29歳でラグビー競技中に脊髄を損傷し、30年以上にわたって車いす生活を送る。「受傷当時は医者からはっきりと脊髄損傷は治らないと言われた。今のように細胞治療が話題になる時代が来るとは思わなかった」と期待を寄せる。

  二プロによると、ステミラック注の対象となるのは受傷後2週間以内の患者で、採血と骨髄液採取、細胞の培養を経て受傷後54日をめどに投与される。国内に10万人以上いる慢性期の患者を対象とした細胞治療の実現を急いでほしいと大浜氏は語る。

  日本の承認プロセスについては、スピードが速過ぎるとの懸念の声が海外から上がっている。英科学誌「ネイチャー」は今年1月、投与群と非投与群の患者を比較して治療効果を科学的に評価する検証方法(RCT)が実施されていないなどとして、日本はより透明性の高いシステムを導入すべきだと批判した。

  これに対し、日本再生医療学会は3月に声明を発表。承認された治療薬がない疾患の患者に一日でも早く治療を届けるためには新しいアプローチも必要と考えているとし、患者数が少ない疾患では統計的に有効性を確認するための治験参加者数をそろえるのは難しく、莫大(ばくだい)な時間を要するため、必ずしも全ての製品でRCTが必須とは考えていないとの見解を示した。

  承認制度を巡る議論が高まっている背景には、国際的な研究開発競争がある。みずほ証券の野村広之進シニアアナリストは「どこの国も有望なバイオ企業に自国で開発に取り組んでほしいと思っている」と指摘する。米国は、16年に成立した21世紀医療法に基づいて再生医療先端治療指定制度を創設し、審査や承認の迅速化を目指している。

世界の再生医療の市場規模

出所:経済産業省

  経済産業省は、世界の再生医療の市場規模が50年には38兆円、周辺産業を含めると53兆円に成長すると予測。コンサルティング会社フロスト&サリバンによれば、再生医療のうち細胞治療の世界市場は25年に100億ドル(約1兆1000億円)以上と、17年時点の約13億ドルから拡大する見通しで、500社以上が積極的に参加している。

  新たな製品や治療法が世界的な注目を集める再生医療の分野では今後、透明性の確保がますます重要になると、国立医薬品食品衛生研究所の再生・細胞医療製品部の佐藤陽治部長はみている。

  日本再生医療学会は厚労省などの協力の下で昨年3月に運用を開始したデータベースに市販後調査や過去の臨床試験・研究で得られたデータを集約し、有効性の検証に活用することを推奨。既存データと比較することでRCTにより近いレベルの臨床試験が可能になると期待している。こうしたデータを公表し、広く科学的な評価にさらすことが重要と佐藤氏は指摘する。

  また、将来、実用化される再生医療製品が増え、市販後に製造能力が追い付かない場合には、「少なくとも日本のように公的保険を使うのであれば、どの患者に提供するかという点でも公平性と透明性が確保されなければならない」との見方を示した。

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