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【コラム】中国のパラドックス、脅せば敵を増やすだけ-マクレガー

  • 対立する国を自分たちの犬小屋に引き入れようとする中国
  • 犬小屋は見かけほど大きくないが、逃げ出すには痛みを伴う恐れも

今後10年の貿易を左右しかねない米中通商交渉の行方に世界の目がくぎ付けだ。技術移転や知的財産、クラウドコンピューティング、そして金融・ハイテク産業でより大きな足掛かりを得ようとする米国の取り組みなど21世紀経済の主戦場を取り巻く問題が議題として取り上げられている。

  だが世界貿易の未来を知りたいなら、ありふれた商品取引を巡りオーストラリアとカナダを今悩ませている問題を見た方が示唆に富むかもしれない。両国の重要輸出品の一部を中国が避けているのだ。豪州は昨年8月、第5世代(5G)移動通信ネットワークでの華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)の通信機器の使用を認めないと決め、カナダ当局は同年12月に華為の孟晩舟最高財務責任者(CFO)を米国の要請に基づき逮捕した。

  中国の港湾は環境問題だとする曖昧な理由で豪州産の一般炭受け入れを拒否。中国はまた先月、害虫混入があるとし一部カナダ企業からのキャノーラ(菜種)輸入を禁止した。豪州とカナダで、中国が政治的動機に基づき輸入規制を講じたと考えていない政府当局者・財界人を見つけるのは難しい。いずれのケースでも中国側もわざわざそのことを否定しようともしていない。

  ここに中国のパラドックスがある。政治でぶつかれば、あからさまに経済的支配力に訴える中国政府の意思が示されている。だが、それこそが市場において中国の力に「てこの原理」が働かない要因となっている。

  最近数カ月、中国は多くの国に対して政治問題を巡り経済的締め付けを図った。公式発表もしくは国営メディアによれば、中国政府は豪州とカナダに加え、ニュージーランドやドイツ、スペインなどに対して、華為の5G排除を続けたらどうなるかについて警告。南シナ海に空母を派遣した英国をけん制し、トルコ政府に対しては中国がイスラム教徒のウイグル族を「再教育収容所」に送り込んでいることに抗議し続ければ、経済・商業関係が打撃を受けるだろうとより露骨な警告を発した。

  外交問題の対立を巡り経済面から脅しをかけるのは中国の常とう手段だ。2010年にノーベル平和賞が中国の反体制活動家、劉暁波氏に授与されることが決まると、中国はノルウェーからのサケ輸入を止めた。オランダのハーグにある常設仲裁裁判所が16年に南シナ海での領有権を巡り中国の主張を退けると、勝訴したフィリピンの対中マンゴー輸出が滞った。

  最大級の制裁は同じ年の韓国に対するものだ。米軍の「高高度防衛ミサイル(THAAD)」配備に韓国が合意すると、中国政府は韓国への旅行を制限し、中国国内で事業をしている韓国企業を攻撃し始めた。中韓両政府は17年遅く、この問題で関係を正常に戻したが、中国は一部の非公式な韓国渡航規制を残している。

  中国は今、幾つかの理由で通商手段を使った攻撃の対象を選別している。対米貿易戦争を抱える中国だが、それ以外の面で米国とは対立は望んでいない。国内経済の低迷が大きな自制要因になっているほか、中国政府の制裁は製造業のコスト負担増などの形で国内に跳ね返ってくるの常だ。

  ドイツのマース外相は昨年、日本を訪れた際の講演で「多国間自由貿易主義者の同盟」との言葉を用いた。そうした陣営の国々が主権国家の決定を中国が罰しようとしていると見なせば、対中強硬派が力を増すばかりということになる。

  中国は対立する国を飼いならして自分たちの犬小屋に入れようとするが、その犬小屋は見かけほど大きくなく、心配するほど多くの国は入らないだろう。だが、いったんその犬小屋に入れられてしまえば、逃げ出すのに時間がかかり痛みを伴う恐れはある。

  (リチャード・マクレガー氏はシドニーにあるローウィー研究所の上級研究員です。英紙フィナンシャル・タイムズの北京と上海、ワシントンの支局長を務め、日米中の問題に関する著作を執筆しています。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:China’s Doghouse Is Smaller Than It Looks: Richard McGregor(抜粋)

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