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Photographer: Tomohiro Ohsumi

金融政策の日本化は万国共通、日銀の生産性上昇説は誤り-早川元理事

  • 好況時利上げできず後退時に打つ手ないのがジャパニフィケーション
  • 人手不足なのに賃金上がらない最大の理由は生産性下がっているから
The Bank of Japan headquarters is reflected on a telephone booth window in Tokyo, Japan.
Photographer: Tomohiro Ohsumi

日本銀行元理事の早川英男氏は、低成長・低インフレに陥る「ジャパニフィケーション(日本化)」は今や万国共通になりつつあるとした上で、そこから脱却する最大の鍵は生産性上昇だが、発祥地の日本では日銀の主張と裏腹に生産性が一貫して低下傾向にあるとの見方を示した。

  早川氏は2日のインタビューで「成長率が低く物価も低いため、景気拡大局面で金利を上げられず、景気後退局面で打つ手がなくなるのがジャパニフィケーションだ」と指摘。現に日本はこのまま景気後退局面を迎えようとしており、欧州が完全に日本化し、利下げ余地が2%しかない米国もかなり近づいてるとし、「ジャパニフィケーションという病気は万国共通になったという感じがする」と述べた。

ECB President Mario Draghi Announces Rates Decision

欧州中銀(ECB)

Photographer: Jasper Juinen/Bloomberg

  そうした中、日銀は実質賃金の労働生産性からの乖離(かいり)率として算出した実質賃金ギャップの下落に基づき、生産性の向上が物価上昇を阻んでいると主張している。早川氏は「人手不足なのに賃金が上がらない最大の理由は、生産性が下がっているからだ。日銀が言っている話と全然違う」と反論した。

  根拠として挙げるのが全要素生産性(TFP)の低下だ。TFPは技術進歩や生産効率化など経済全体の生産性を示す指標で、経済の実力である潜在成長率は労働投入、資本投入、TFPの3つで決まる。日本は労働投入の先細りは必至で、持続的成長の実現にはTFPの底上げが必須だが、足元で0.10%(日銀推計)とアベノミクス以前の1%前後から一貫して低下傾向にある。

  潜在成長率は足元で0.66%(同)とアベノミクス開始前からほぼ横ばいだ。早川氏は、高齢者や女性の参入で「労働参加率が上がって労働投入が増えたのに、潜在成長率が上がってないのはTFPが下がっているからだ」と指摘。大胆な金融政策を行っても「潜在成長率が上がらないことにはジャパニフィケーションから抜け出せない。日銀の力だけではいかんともし難い」と述べた。

生産性上昇説の根拠

  黒田東彦総裁は昨年10月の会見で、省力化投資やIT投資、サービス業の合理化が「さまざまな形で労働生産性を引き上げ、賃金はある程度上がっても、それが価格に転嫁されにくいという状況も起こっている」と述べた。日銀が生産性上昇の根拠として経済・物価情勢の展望(展望リポート)に掲載したのは、法人企業統計を基にした実質賃金ギャップだ。

  早川氏は「法人企業統計の対象は営利法人だけで、政府部門、個人企業、非営利法人は入っていない。日本全体をカバーするGDPと対象範囲が全く違うため、生産性は圧倒的に過大評価になる」と指摘。生産性の伸びが低い介護が急拡大して生産性を大きく押し下げているが、主に担っているのは非営利の社会福祉法人なので、同統計では「その問題も表れない」と述べた。

  実質賃金についても「企業負担の社会保険料込みで、消費者物価ではなくGDPデフレータで実質化しているため、普通に考える実質賃金よりもうんと高く伸びている」と指摘した。BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは「日銀は労働分配率は結果的に高めに出るGDPで推計しているが、生産性は高めに出る法人企業統計で推計しており、都合の良い方を取っているように見える」としている。

展望リポート

  日銀は25日の金融政策決定会合後に公表する展望リポートで、2021年度までの物価上昇率の見通しを示す。早川氏は「さすがに2%近い数字を置くのは無理だ」とした上で、「方向感として徐々に上がっていくという姿だけは残すだろう。だから現時点では政策発動は必要ないという内容になる」との見方を示した。

  早川氏は1977年に日銀に入行し、チーフエコノミストである調査統計局長や理事を歴任。2013年4月に富士通総研経済研究所に入社、エグゼクティブ・フェローを務める。

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