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【コラム】ハーバード大学の経済学入門、主役交代へ-ノア・スミス

relates to 【コラム】ハーバード大学の経済学入門、主役交代へ-ノア・スミス
Photographer: Scott Eisen/Bloomberg
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まるまる1世代にわたり、経済学の常識と言えば米ハーバード大学のグレゴリー・マンキュー教授が定義するものだった。マンキュー氏は同大学の入門コースで14年間にわたり教え、ベストセラーの教科書は私も大学院進学に備えて読んだし、学部生向けの自分のマクロ経済学の授業でも使わせてもらった。「経済学入門」について語る場合、おそらく人々の脳裏のどこかにマンキュー氏の名前があるだろう。

  しかし今や、マンキュー氏の時代は終わりつつあるのかもしれない。マンキュー氏はハーバード大での「経済学原理」の講義から退くことになり、この先にはより不透明な時代が広がる。

  マンキュー氏の経済学は主に古典的な考えに基づくものだ。相互利益のための自発的な取引に従事する合理的な主体が主導し、おおむね正しく機能するシステムとして市場を定義する考えは、アダム・スミスやデービッド・リカード、レオン・ワルラス、ウィリアム・ジェボンズといった18、19世紀の経済学者にさかのぼる。そして、マンキュー氏の入門レベルの分析の多くを支える需給関係の理論は、やはり「経済学原理」と名付けられた有名な教科書の著者であるアルフレッド・マーシャルが形式化したものだ。

  だが、マンキュー氏を批判する人々が常に感じるのは政治的な偏向である。マンキュー氏の経済学における第一の基本原理は、経済的効率と平等の間に根本的なトレードオフ(二律背反)があるとする。政府による再分配は経済の最適な機能を妨げるというのが理由だ。経済を損なうような再分配の形式があるのは確かだが、普遍的なトレードオフの概念を支持する証拠はほとんどない。実際、豊かな国々の方が社会保障への支出が多い傾向がある。一方、マンキュー氏のトレードオフの考えは、経済を組織化する一層生産的な方法によって、再分配なしでも格差を減らすことができるかもしれない可能性を無視するものだ。

  これと同様に、政府に対するマンキュー氏の不信感は反射的といえる。マンキュー氏の原理では、市場は「通常の場合、経済活動を組織化するよい方法」であるが、政府の介入が「市場の結果をときどき改善させることができる」とされる。独占力や外部性、公共財、非対称情報など市場の失敗の存在を認めつつも、マンキュー氏の解釈は市場に好意的だ。ただ、こうしたリバタリアンの見解は正確ではない可能性がある。市場の失敗は例外ではなく、標準だとの主張もある。ダロン・アシモグル、ジェームズ・ロビンソン両氏のようなエコノミストは、強力な政府機関は微調整や改善というよりも、国の繁栄にとって根本的なものだと指摘する。

  経済学研究自体はさらなる政府介入を支持する方向に動き、不平等についての懸念も高まってきたが、左派寄りの学生による授業ボイコットにもつながったマンキュー氏のリバタリアン的偏向の結果、経済学研究者を自由放任主義の支持者、企業や富裕層の特権の擁護者とする一般的なイメージが強固となった。

Paying More Attention to the Haves

Share of research papers that mention any variation of the term "Top 1%"*

Source: Henrik Kleven, "Language Trends in Public Economics," July 2018

* Based on percent of National Bureau of Economic Research public economics working papers, 5-year moving average

  他方で、経済学教育に対するマンキュー氏のアプローチには、データよりも理論に頼り過ぎるという、もっと微妙な問題があるかもしれない。マンキュー氏の教科書では、需給関係を至上なものとして、数学モデルと論理が目を引く。しかし、最先端の経済研究の世界においては、実証分析が演繹(えんえき)的な理論構築に取って代わっている。

The Changing Nature of Economic Research

Methodology of articles in top economics journals, as percent of total

Source: Daniel S. Hamermesh, Journal of Economic Literature

  至上とされる需給関係の理論でさえ、データに照らせば大きな欠陥が見つかる。これは特に労働市場に当てはまる。

  別の言い方をすれば、最初に証拠を見た上で、観察結果を説明するために理論を活用とする分野である自然科学のように経済学はなりつつある。理想的には、経済学教育もこうしたシフトに遅れないよう変化するべきだ。物理学専攻の学生が入門クラスで実験コースがあるのと同じように、経済学専攻の学生も最初に統計学的手法を学ぶようにする必要がある。そうすれば、自分たちの学ぶ理論が政治的な理由のためにでっち上げられたものでなく、実際に観察された現実を反映するものだと自信を深めることになるだろう。ビジネスの世界で非常に有益となるであろうデータ分析やプログラミングのスキルも身に付けてもらえる。

  実証研究に重点を置く教材の1つはCOREプロジェクトだ。エコノミストらによるオープンソースの国際的取り組みである同プロジェクトは、マンキュー氏の教科書で示される超然とした見識よりも、経済に関するもっと融合的なビジョンを提供し、実践的なデータ分析に一層重点を置くとともに、教科書が無料であるという利点もある。

  19世紀の古典的理論、データや証拠よりも論理と哲学を重視するスタンス、1970年代のリバタリアン的常識は全て時代遅れと映りつつある。研究の在り方が変われば、それを学生に提示する「顔」も変化しなければならない。その結果、経済学教育は確実性を主張する部分がずっと減るが、不確実性それ自体に見識があるのだ。

(ノア・スミス氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の准教授です。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Economics 101 at Harvard Will Never Be the Same: Noah Smith(抜粋)

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