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日本企業のスタートアップ投資熱再び-JALは80億円規模のVC

  • アイデア獲得やイメージ向上に効果、起業も容易に
  • 企業の投資は群集心理が作用、変革につながると識者

日本航空(JAL)が7000万ドル (約80億円)規模のベンチャーキャピタルファンド(VC)の設立を1月に発表した際、航空会社にスタートアップ(新興企業)の何が分かるのだろうという疑問が生じたのは当然のことだった。

  スタートアップに投資するのはJALだけではない。日本たばこ産業(JT)や旅行大手のJTB、日本郵政などもスタートアップ投資という流行に乗った。1895(明治28)年の創業で、歌舞伎や映画興行を手掛ける松竹もドローン(小型無人機)に特化したファンドに出資した。

  日本は、新規事業を始めるには難しい国だと言われている。だが、アイデアを早めに得たり、テクノロジーに秀でた企業というイメージを高めたりする手段として、多種多様な大企業がスタートアップ投資を行っており、起業も容易になりつつある。

Ispace Inc. Announces A New Funding Round For Its Space Business

JALが出資するアイスペースは月面探査を目指す

Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

  マサチューセッツ工科大学・スローン経営大学院のマイケル・クスマノ教授は、企業のスタートアップ投資には群集心理が働いていると分析し、イノベーション(変革)につながるかもしれないと指摘した。「企業は同じ流行に乗りがちだが、必ずしも悪い流行ではない」と言い、「情報を得るのにはさまざまな方法があるが、投資家になって役員室にいるのが一番だ」と述べた。

  利益が非公表のため、投資を本業としない事業会社が行うコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)が効率的かどうかを判定するのは難しい。しかし、こうした手法はスマートフォン登場のずっと以前から行われてきており、1世紀前の米国では化学メーカーのデュポンが創業間もないゼネラル・モーターズの前身となる会社に出資した。

  事業会社によるスタートアップへの投資ブームは世界的潮流だ。特に日本では、専業ファンドが少ないだけに目立っている。調査会社CBインサイトによると、2018年に世界の事業会社が行った投資は前年に比べ47%増加し、過去最高の530億ドルに達したが、全体のおよそ4分の1にすぎない。日本では、大半の出資を企業のファンドから得ている。

  マサチューセッツ工科大のクスマノ教授は、上場する大企業から資金を得たファンドは株主を気にする出資者の意向に左右されると指摘。「利益が出なくなれば、財務部門の人間は最初にファンドを解消するように求めるだろう」と話した。

  スタートアップ投資のブームは、日本では1990年代後半のITバブル時に起こり、NTTドコモパナソニックを含む商社や通信会社、総合電機メーカーがシリコンバレーにファンドを立ち上げた。ブームは去り、多くは閉鎖か縮小された。800社に投資していた孫正義氏が率いるソフトバンクは、倒産寸前まで追い込まれた。

  多くの企業が加わった最近のブームは2015年ごろにスタート。広告会社の電通は、マーケティングなどを手掛けるスタートアップに投資する100億円のファンドを立ち上げ、駐車場運営のパーク24は車などを扱うテック企業のためのファンドを始めた。日本ベンチャーキャピタル協会の会員数は、当時の6社から49社に増えている。

  JALのファンドの運営を担うトランスリンクキャピタルの大谷俊哉・共同創業者兼マネージング・ディレクターは、「大きく変わったのは、多くの企業にとってITが戦略的に不可欠なものになったことだ」と分析し、「多くの企業が根底から覆されている」と述べた。

  松竹は昨年11月、ドローンに特化した総額37億円のファンドに出資した。空中から時代劇を撮影する手段としてドローン技術に関心があるという。さまざまな目的を持った他の投資家には農業機械メーカー小橋工業(岡山県)やサッカーの元日本代表で、オーストラリアAリーグのメルボルン・ビクトリーの本田圭佑氏が含まれる。

  松竹経営企画部の岡田敦子経営企画室長は、「出資はフィナンシャルのリターンを求めたものでなく、中長期的に私どもの事業へ寄与する可能性を模索する種探し」と話した。

Melbourne Victory Training Session

ドローンファンドに出資する本田圭佑氏

Photographer: Michael Dodge/Getty Images

  出資する企業にとってはどの程度、ファンドを支配するかが問題だ。鎖が短ければファンドは慎重になるが、長すぎれば焦点を失ってしまう。JALの場合、ファンドの投資委員会にも加わらず、運営するトランスリンクキャピタルに決断を委ねた。

  JALは数年にわたり、スタートアップに関わってきた。15年に古着からバイオ燃料を作る会社と提携。以降、米ファンドと出資したほか、情報収集のためのオフィスをシリコンバレーに開き、月面探査を目指す宇宙開発事業会社ispace(アイスペース)に出資した。昨年3月には、スタートアップのコンテストでの入賞者に25万マイルを送った。

  最終的に、JALは自分たちのファンドを設立することを決定。韓国サムスン電子や台湾の鴻海精密工業、日本のソフトバンクグループのベンチャーキャピタルを運営した実績のあるトランスリンクキャピタルを運営先に選んだ。

  JALの事業戦略グループ長、森田健士氏は目標は利益を得て、ビジネス上で提携し、新たな製品のための着眼点を得ることだと指摘。同社の経営陣もスピード感が必要なことやJALの「目利き力」が不足しているのは理解しており、「われわれはプロではないので、やっぱりプロフェッショナルの方が最後に決める」と話した。

原題:Why an Airline and a Kabuki Theater Are Getting Into the VC Fad(抜粋)

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