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黒田総裁、視野を広げて経済全体に目配りを-日本総研の翁百合理事長

  • 地域金融機関は地方経済支えており、仲介機能低下なら経済に影響大
  • 出口は金融システム安定や財政健全化で初めて可能、総合的議論必要

日本銀行出身の翁百合日本総合研究所理事長は、日銀は2%の物価目標至上主義から脱し、将来のリスクを最小化するよう、より広い視野で金融システムの安定や地方経済、財政健全化など日本経済全体に目配りしていく必要があるとの見解を示した。

  翁氏は18日のインタビューで、「地域金融機関の業務粗利益に占める資金利益の割合は9割と預貸利ざやに依存する収益構造になっている。低金利による基礎的収益力の低下で自己資本も徐々に圧迫されている」とし、金融システム面で中期的なリスクが潜在的に大きくなっていると指摘。「地域金融機関は地方経済を支えているので、資金仲介が機能しなくなると実体経済にすごく影響が出る」と語った。

TOKYO: Japan Research Institute Chairman Yuri Okina Interview (Stills)

翁・日本総合研究所理事長

Photographer: Noriko Hayashi/Bloomberg

  翁氏は、信用秩序の維持は「日銀法第1条に定められた重要な役割」であり、金融庁だけの仕事ではないと説明。日銀は物価だけでなく「少し広い視野で日本経済全体への目配りが必要だ」と語った。リーマンショック後の金融危機への対応が遅れた反省から、英イングランド銀行内に設置された金融行政委員会(FPC)に倣い、日銀内に信用秩序維持政策を討議する委員会の設置を提案した。

  黒田東彦総裁は昨年9月の会見で、金融機関は「適切な経営管理体制、特にリスク管理体制を整備していくことが必要」としながらも、「これは直接的には金融庁の仕事かもしれない」と言明。日銀としては、考査やモニタリングで金融機関の取り組みを後押しする補助的な役割にとどまるとの立場を明確にしている。

低金利継続か転換点か

  国際決済銀行(BIS)は昨年7月、黒田総裁も出席した2017年6月の年次総会の議論をまとめた報告書「Low for Long or turning point?」(低金利をもっと長く続けるのか、それとも転換点か)を公表した。そこには「過去20年間、社会福祉をより大きく損ねてきたのは物価ではなく、金融危機だった」という討論者の反省の弁が書かれている。

  翁氏は「2%至上主義を再考した方がいいという議論が中央銀行サークルからも出ている」と指摘。地方経済の持続可能性を考えた時、「2%達成がずっと展望できない中で、これがいつまで続くのかという不安を多くの金融関係者は持っている」と語った。その上で、日銀も物価の安定のみならず、「金融システムの安定や社会福祉を考えた上で何が必要か考えていく必要がある」と主張した。

  長期金利の0%誘導が財政に与える副作用にも懸念を示す。「スウェーデンで1980年代に財政健全化が進んだきっかけは長期金利の高騰だった。金融政策で長期金利を抑えているので、市場の警告が遮断されている」と分析。大量の国債購入で流動性が低下し、ボラティリティー(変動率)が上がりやすいことも、「回り回って金融システムの安定性に影響する」との見方を示した。

総合的な出口議論必要

  黒田総裁は14年9月の会見で、政府の財政健全化の努力に市場が疑念を持てば「政府・ 日銀としても対応のしようがないということにもなりかねない」と強い警告を発した。ただ、最近は「財政運営は政府・国会の責任で行われるものであって、中央銀行からどうこう言うことではないのかもしれない」(昨年6月の会見)と述べるなど、財政規律については消極的な発言に終始している。

  出口で金利が上がれば、保有国債の評価損や企業倒産に伴う信用コストが増え、一般会計の4分の1を占める国債費も拡大する。翁氏は「これだけ長く低金利が続いていると、金融システムや財政を健全に保ちながら正常化するのはとても難しい」と指摘。出口は単に技術的な問題ではなく、「金融システム安定や財政健全化ができて初めて可能になるので、総合的に議論が必要だ」と語った。

  翁氏は1984年に慶大大学院修士課程修了後、日銀入行。92年に日本総研に移り、2018年から理事長。1990年代半ばの住専問題を議論した金融システム安定化委員会委員、金融審議会委員などを歴任。2011年に京都大学博士(経済学)。

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