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宇宙ごみ掃除、人工衛星急増で商機に-30代女性GMのエンジニア魂

  • 背景にビッグデータ時代の到来、実証衛星は2020年の打ち上げ目指す
  • 世界中のエンジニアから履歴書、全体の社員数は2年以内に100人へ

宇宙空間には、ロケットや衛星の破片などのごみ(デブリ)が散乱している。ビッグデータ時代を迎え人工衛星の打ち上げが増える中、デブリも急増しているものの、回収する技術はまだ実用化されていない。

  宇宙デブリ除去技術の開発を専門とするベンチャーとしては世界唯一のアストロスケールは、デブリを除去する実証衛星「エルサディー」を2020年初頭に打ち上げることを目指している。年内に米国にオフィスを開設予定で、現在約60人の社員数は2年以内に100人に増える見通しだ。

  アストロスケールの資金調達額は昨年12月に累計1億300万ドル(約114億円)に達した。主要投資会社であるINCJの勝又幹英社長は「技術力や国内外の政府、国際機関、企業を巻き込んだビジネス推進力を高く評価している」とコメント。新たな産業やサービスの創出に向け政府が国内宇宙産業の市場規模を30年代に2兆4000億円に倍増させる目標を掲げる中で、投資家やエンジニアの注目を集めている。

Astroscale Japan Unit GM Miki Ito Interview

伊藤美樹・ゼネラルマネジャー

Photographer: Shoko Takayasu/Bloomberg

  開発を指揮する日本法人ゼネラルマネジャー(GM)の伊藤美樹氏(36)は「背景には、衛星サービス会社が1社だけで数百、数千の衛星を打ち上げ、地球全土を覆うコンステレーションと呼ばれる計画が相次ぐ現状がある」と説明する。

  この計画により衛星ブロードバンドサービスを通じてこれまでインターネット接続が整備されていなかった地域で接続が可能になり、地球観測サービスでは衛星で撮影・収集した膨大なデータが農漁業や都市開発などさまざまな産業で活用される見込みだ。

  しかし、宇宙で衛星が壊れたら簡単に修理できない。「その時に当社のサービスが必要になる。自動車のロードサービスのような役割だ」と伊藤氏は語る。実証衛星は捕獲機と宇宙ごみを模擬した小型人工衛星から成り、ごみを磁石で捕獲し大気圏に突入して燃やす仕組み。昨年10月にロシアの宇宙関連企業グラブコスモスと打ち上げ契約を締結した。

  米国で11年にスペースシャトル計画が終了し、民間企業による宇宙ビジネスへの参入が促されたことで衛星の小型化や量産、製造コストの低下が進んだ。調査会社ユーロコンサルが18年にまとめた「小型衛星市場予測」によると、500キログラム以下の衛星の打ち上げ数は商業用だけで18-27年に5683機と08-17年と比較して10倍超に増える見通しだ。

既に潜在顧客と協議

  1950年代には宇宙ごみはゼロだった。現在は直径1センチメートル以上のデブリが約75万個あり、秒速約8キロメートルで地球を周回している。大量衛星時代を前に、安全な運用を望む衛星関連企業にサービスを提供するという宇宙ごみ除去のビジネスモデルが明確になり始めた。アストロスケールは実証実験終了後をにらみ、既に欧米の潜在顧客企業数社と事業計画について協議している。

Space Debris Image

「宇宙ごみ」のイメージ

Source: Toshiya Hanada/Kyushu University

  伊藤氏は日本大学大学院で航空宇宙工学の修士課程を修了後、内閣府最先端研究開発支援プログラムで超小型衛星「ほどよし」の開発に携わった。

  ずっと抱いていた「多様な業界が宇宙を利用すれば技術革新は格段に進み、ホテルやコロニーの建設も夢ではなくなるはず」との思いが、民間主導の宇宙ビジネスを目指すアストロスケールの方針と合致し、15年に日本法人の社長に就任。現在はGMとして生産工場の仕組み作りや日本拠点の組織運用を統括している。

  創業者の岡田光信氏(45)は、「長期的なミッションに取り組むには安定感がとても大事。ハッピーで自信に満ちた人でなければならない」と伊藤氏起用の理由を説明する。エンジニアでもあり、社員が開発の過程で直面する問題を理解し、どんな支援をすればいいかを判断できるのも強みだ。

  アストロスケールは、大蔵省(現財務省)勤務後、IT企業を経営した経歴を持つ岡田氏が13年にシンガポールで創業し、15年に日本、17年に英国で子会社を開設。今月1日には拠点を東京に移し、本社機能を持つアストロスケールホールディングスを設立した。宇宙関連学会で注目を集め、今では世界中のエンジニアから毎日履歴書が届く。

有望な市場

  最高経営責任者(CEO)の岡田氏は今後の資金調達について「どうすれば経営上最適な状態で目標を実現できるかがポイント」とし、上場や他社との協力も選択肢だが、長期的なビジネス継続を重視したいと語る。

Astroscale Japan Unit GM Miki Ito Interview

スペースデブリ除去衛星の実証機 「 ELSA-d(エルサディー)」

Photographer: Shoko Takayasu/Bloomberg

  宇宙ごみの除去に関しては国連で07年に低減ガイドラインが採択されたものの拘束力はない。国内では昨年11月に施行された宇宙活動法に宇宙空間の有害な汚染を防止するよう規定されているが、具体策については内閣府で検討中だ。デブリ低減に向け、衛星サービス会社が不要になったり破損したりした衛星を除去することが各国で義務付けられれば、デブリ除去の事業化は加速する。

  デブリ処理事業を行うベンチャーが資金調達から利益を生み出していく段階に入ると、市場ニーズの探索・創出やルール作り、サプライチェーンを構築する提携先や関連企業との関係が鍵になると、野村総合研究所の上級コンサルタント、佐藤将史氏は指摘する。アストロスケールについて、「ルール作りに向けて問題意識を持ち、社会や業界に働き掛け、日本だけでなく世界を視野に入れて活動している」と話す。

  宇宙コンサルタント会社サテライト・ビジネス・ネットワークの葛岡成樹社長は「宇宙ビジネスの中でもデブリ除去を含む軌道上サービス分野は特に有望だ。衛星の燃料補給や修理など軌道上でさまざまなサービスが可能になると期待されているが、デブリ除去はその第一歩になる」との見方を示した。

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