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【コラム】中国の人質外交許すな、未来暗くする悲しい戦術-ブランズ

  • 中国当局から不評を買えば拘束されるリスクで企業には出張懸念も
  • 中国は自らの首も絞めている-海外との人材の交流に影響広がる

中国の台頭が世界にどんな意味を持つかという議論は、しばしば抽象的なものに終始する。「国際秩序」や「地政学的競争」、「パワーバランス」といった言葉が用いられ、人々にどう影響するのか見えないことも多い。

  だがカナダの元外交官マイケル・コブリグ氏がすでに2カ月近く中国で不当に拘束されている事実は、強権的な独裁勢力の台頭がまさに深刻な影響を人々に与えることを思い起こさせるほか、同国と世界のつながりや理解を深めようと懸命に取り組んできた外国人を習近平国家主席が遠ざけつつあるリスクの証左でもある。

  コブリグ氏は中国語に堪能で、外交官として香港や北京に赴任した。2016年以降は非政府組織(NGO)の国際危機グループ(ICG)で中国を担当し、同国の米朝外交における役割や南スーダン内戦への関与、軍のグローバル展開といった幅広い問題を扱っていた。

  昨年12月の拘束理由はコブリグ氏がNGO関連法に抵触したというのが中国側の言い分だが、実際は政府による地政学的脅しにしか見えない。対イラン制裁違反だと主張する米国の要請を受けた華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)の孟晩舟最高財務責任者(CFO)のカナダでの逮捕後の拘束というタイミングと、中国共産党を代弁する環球時報など新聞の論調が、カナダ政府に対する報復だと明確にしている(報道によれば、関連性ははっきりしないものの、孟CFO逮捕以降に中国当局はカナダ人13人を拘束している)。中国はまた、覚醒剤密輸の罪に問われ懲役刑が下されていたカナダ人の裁判をやり直し、死刑判決を言い渡した。

  コブリグ氏拘束は、独裁政権が非人道的に振る舞うのは常という点をあらためて示すものだが、中国の力が増すにつれ、同国政府の手の届く場所にいる外国人は当局から不評を買えばリスクにさらされることがはっきり警告された。

  一方、コブリグ氏のような外国人を拘束する中国は自らの首も絞めている。国外との最も重要なつながりを弱める恐れがあるためだ。ここ数年、中国はこうした人材を遠ざける驚くべき才能を発揮している。フーバー研究所は昨年遅く公表したリポートで、中国の台頭を抑えようとする海外の民主政治に対する操作を図る戦略の一環として、米政治に影響を与えようと試みる中国の取り組みを詳細に描いた。「個人と団体に圧力を与えるため威圧的もしくは腐敗を招く手法を活用し、それにより米市民・政治生活の機能に干渉」するのが中国の作戦だとリポートは論じた

  コブリグ氏拘束は中国にとって逆効果だ。カナダは中国では「法の恣意(しい)的執行リスクがあるため、警戒を高める」よう今年1月半ばに国民に呼び掛け、米国務省も同様の警告を出した。経済界首脳の間には中国出張への懸念が広がる。何より米中で影響力のある外交政策担当者による長年の協議の妨げにもなっている。ワシントンにある多くのシンクタンクの仲間からは職場で中国出張が制限されていると聞く。何年も定期的に中国を訪れてきた人々が、今は中国を訪れたくないと言うが、それも納得がいく。

  海外から投資や技術を依然として必要とする国にとって、出張リスクを企業経営者に気にされるのはプラスにならないし、欧米諸国から誤解され不当な扱いを受けているとの主張を繰り返す国が重要なコミュニケーション経路を狭めても恩恵にあずかることはない。

  09-12年にカナダの駐中国大使を務めたデービッド・マルロニー氏は「NGOとジャーナリスト、外交官は全て、中国をより広い世界と結び付ける役割を担っている」とし、そうした人々を介したつながりを絶てば、「中国は孤立し、理解されず、重要な構想や対話から切り離されてしまう」と警告する。

  コブリグ氏の拘束は、世界の民主主義国家に行動を呼び掛けるものだろう。と同時に、自国の未来にとって極めて重要なつながりや交流を中国がいかに弱めているかを示す悲しい例でもある。

  (ハル・ブランズ氏は米ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院の「ヘンリー・キッシンジャー・ディスティングイッシュトプロフェッサー」で、戦略予算評価センターの上級研究員です。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Don’t Let China Take the Western World Hostage: Hal Brands(抜粋)

    This column does not necessarily reflect the opinion of the editorial board or Bloomberg LP and its owners.

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