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「不思議の国」からの脱却いまだ果たせず、日銀ゼロ金利導入から20年

  • 1999年2月12日に速水総裁下で世界初のゼロ金利政策を決定
  • 景気刺激効果は強くなく特に物価には効かなかった-東短・加藤氏

日本銀行が世界初のゼロ金利政策を導入してから今月で20年が経過する。戦後最長の景気拡大局面が続く中でも、日銀は政策決定に関わった当事者が「不思議の国」と呼んだ世界からの脱却をいまだ果たせずにいる。

  日本経済は当時、消費増税、アジア通貨危機、山一証券など金融機関の相次ぐ破綻の影響で景気後退にあえいでいた。バブル後遺症の不良債権問題は深刻で、デフレの鳥羽口に立っていた。日銀は1999年2月12日、速水優総裁の下、0.25%だった無担保コール翌日物金利を「できるだけ低めに推移するよう促す」ことを決定。ゼロ金利政策を2000年8月まで継続した。

  グリーンスパン議長率いる米連邦準備制度理事会(FRB)も1998年、大手ヘッジファンド破綻の影響を食い止めるため利下げを3回実施。それでも金利は4.75%で彼我の差は大きかった。日銀は米IT(情報技術)バブル崩壊を受けて2001年3月から06年3月まで量的緩和政策、08年9月のリーマンショック後の一連の金融緩和策、13年4月の量的・質的金融緩和と、実質的なゼロ金利政策を続けて現在に至る。

2002 Annual World Bank And IMF Meetings

2002年当時の速水優日銀総裁と黒田東彦財務官

Photographer: Alex Wong/Getty Images

  ゼロ金利を決めた金融政策決定会合の議事録によると、元農林水産事務次官の後藤康夫審議委員は「いわば童話の世界のアリスの国のようなワンダーランド(不思議の国)へ本行が足を踏み込むことになる」と不安な胸中を吐露している。

  「デフレ懸念払しょくが展望できるような情勢になるまで」続けるというフォワードガイダンス(政策金利の指針)が初めて導入されたのもこの時だった。01年の量的緩和は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比が「安定的にゼロ%以上となるまで」、13年の量的・質的緩和は2%物価目標を「安定的に持続するため必要な時点まで」続けると約束。解除のハードルは回数を重ねるごとに高くなっている。

  1990年代半ばから日銀をウオッチしている東短リサーチの加藤出チーフエコノミストは、バブル崩壊後、日本経済の実力である潜在成長率が下がり続ける中、日銀は金利をゼロまで押し下げたが、「景気刺激効果は強くなかったし、特に物価に対しては効かなかった」と指摘。潜在成長率を引き上げる構造的な改革抜きに「金融政策だけで頑張っても限界があることが明白になっている」と語る。

1995年から四半世紀

  99年2月の決定会合に執行部の一員として出席した早川英男元理事は、ゼロ金利20周年について「特に思うことはない。日本がゼロ金利に入ったのは95年だ」と言う。バブル経済崩壊後の当時、日米貿易摩擦の激化を受けて、ドル・円相場が1ドル=70円台に突入。日銀は同年9月、公定歩合を史上最低の0.5%に引き下げた。

  日銀にとってこの歳月は、円高との戦いの歴史でもある。長井滋人元国際局長は、86年に日銀に入行して以降の日本経済の歩みを振り返り、「一貫して為替相場の動きに翻弄(ほんろう)されてきた感が強い。金融政策の反応関数の最重要変数も為替相場であり続けてきた」と述懐する。

Japan Tankan Deteriorates For First Time Since Crisis

日本銀行本店

Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

  2013年3月に就任した黒田東彦総裁の下で始めた異次元緩和は4月で7年目に突入する。現在の景気拡大は1月で74カ月と戦後最長を更新したとみられるが、日銀は短期金利をマイナス0.1%、長期金利もゼロ金利に貼り付けており、政策対応余地の確保には程遠い。次の景気後退の際には丸腰での対応を余儀なくされる可能性が高い。

世界的にも超低金利がまん延

  日本だけでなく世界的にも超低金利が長期化している。日本がゼロ金利政策に踏み切った当時は5%近い金利があった米国も、リーマンショック後の08年に実質ゼロ金利政策を実施。足元の利上げ局面ですら、2%を若干上回る水準で早くも打ち止め感が出ている。欧州中央銀行(ECB)に至っては、日銀より大幅なマイナス金利を採用し続けている。

  事務局の一員としてゼロ金利決定に立ち会った門間一夫前理事は、金融緩和そのものに疑問を呈している。潜在成長率と似た概念である中立金利は、貯蓄投資バランスや人口、生産性など実体経済で決まるというのが経済学の一般的な考え方だが、それを「中央銀行が下げてしまったのではないかという議論が最近、国際決済銀行(BIS)で行われている。私は一理あると思っている」と語る。

  中央銀行が低インフレを避けようと金利を低く抑え続ければ、市場金利も下がる。その結果、中立金利も下がっているように見えるが、「実はそれは中央銀行自ら作り出している部分があるのではないか」と門間氏は言う。中立金利が低下すれば、政策対応余地が減って金融政策の効きが悪くなり、バブルなど金融不均衡も生みやすくなる。ゼロ金利20周年で超低金利の弊害に一段と関心が高まる可能性もある。

主要中銀の政策

1999年日銀がゼロ金利政策を実施
2000年日銀がゼロ金利政策を解除
2001年日銀が量的緩和政策を実施
2006年日銀が量的緩和政策を解除
2007年FRBが利下げを開始
2008年日銀が利下げを開始
FRBが量的緩和第一弾(QE1)を実施
2010年FRBがQE2を実施
日銀が包括緩和政策を実施
2012年FRBがQE3を実施
2013年日銀が量的・質的金融緩和を実施
2014年ECBがマイナス金利を実施
FRBが量的緩和の縮小(テーパリング)を開始
2015年ECBがテーパリング開始
FRBが利上げを開始
2016年日銀がマイナス金利を導入、長短金利操作を導入
2018年日銀が長短金利操作を微修正
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