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【コラム】プライバシー喪失や恒久監視、中国社会は支持-ミンター

  • 国外で不気味なデジタル刑務所と揶揄される「社会信用システム」
  • 年齢や教育水準が高めで比較的豊かな都市生活者が最も強く支持

政府にイノベーション(技術革新)はできないと誰が言ったのか。中国のある地方都市では最近、当局の信用ブラックリストに載る人物が500メートル以内にいる場合、その人物を特定し居場所をスマートフォン上の地図に表示するシステムを地元の裁判所が導入した。

  スターバックスで隣に座っている人物が裁判所が命じた罰金支払いを済ませていないかもしれないと思うなら、このシステムでピンポイント確認し、ソーシャルメディアを介してその情報を拡散することもできる。その気になれば当局への通報も可能だ。

  身も凍るようなおぞましいシステムだが、かなり支持を得るかもしれない。既にデジタルとオフラインで行動記録を収集・統合・配布する官民のシステムがさまざまある中国だ。社会信用システムのネットワークは国外では不気味なデジタル刑務所と揶揄(やゆ)されるが、国内では著しく欠如する「信頼」を生み出す手段と見なされる。そのためなら、恒久監視とプライバシー喪失は大した代償ではないとの認識だ。

  多くの途上国に見られるように、中国では経済成長ペースに消費者・企業間の信頼醸成が追い付いていない。例えば化学物質が混入した国産粉ミルクで乳児が死亡、多数に健康被害が及んだ不祥事から10年経た今でも、赤ちゃんを持つ親は国産品を避けるなど、中国食品メーカーに対する不信はまん延している。

  その上、中国は偽造・模造品の世界中心地だ。アリババ・グループ・ホールディングやテンセント・ホールディングス(騰訊)など超有名企業が絡んでも偽物販売はなくならず、中国の電子商取引に関する信頼を全般的に損ねている。企業に対してだけでなく、出会い系サイトでの詐欺を含め、個人や家計を狙った犯罪が連日報じられ、全体的に疑心暗鬼が広がっているのが中国社会だ。

  政府は長い間、こうした状況を社会問題以上のものとして捉えてきた。中国がずっと目指してきた「消費基盤」の経済を築くには消費者の信用力が必要だとし、「信頼には報い、信頼できなければ罰する」メカニズムを備えた「社会信用システム」を構築するロードマップを2014年に投入。最も基本的な形は企業による個人の財務データ収集だが、政府の関心はそれよりはるかに広い。例えば旅行・観光当局は「野蛮」な旅行者に関する情報を集め公開し、そうした人物を旅客機や鉄道に搭乗させないように利用している。

  中国で稼働している社会信用システムは現在40を超える。一部は民間だ。アリババ傘下の「セサミ・クレジット(芝麻信用)」は顧客の支払い履歴やオンライン利用での時間や金額といったデータを収集、個人に点数を付け、そのスコアをクレジットなどサービス提供に利用する。政府が運営するシステムは裁判所判断に基づく債務不履行者のリストなどで、そのようなリストに掲載されれば、高級ホテル宿泊や子どもを教育費が高い学校に入学させることなどが制限される。 

  それでも国民から怒りを買うどころか、こうしたシステムは中国で人気を博している。2200人余りを対象に実施された18年の調査によれば、80%が商業用の社会信用システムに参加。ただ、政府のシステムに組み込まれていると認識していたのはわずか7%だった。さらに驚くべきは、80%がこうしたシステムをある程度もしくは強く認めると回答したことだ。しかも、年齢が高めで教育水準も高く比較的豊かな都市生活者が強い支持を示した。一般的にはプライバシー保護などに「リベラル」な価値観を持つとされる人々だ。

  普段の生活が隅々まで記録される意味合いを多くの国民が深く考えたことがないということはあり得るが、調査参加者の76%が「市民同士の相互不信」が中国社会の問題だと回答した。社会信用システムはそうした信頼ギャップを埋める手段と見なされている。

  もちろん、誰もが受け入れるわけではないだろう。反体制的といったような、さまざまな基準に照らして個人を点数付けし罰するような包括的テクノロジーに数々の社会信用システムを中国政府がいずれ統合できた際、国民は気付くのかもしれない。たとえ独裁政権に慣れてしまった人でも、スコアや格付けに支配される人生を送りたい人はいまい。

  (アダム・ミンター氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Why Big Brother Doesn’t Really Bother Most Chinese: Adam Minter(抜粋)

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