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【コラム】中国はソ連と違う、それでも米国は冷戦から学べ-ブランズ

  • 中国はイデオロギーの面でも自由主義社会に戦いを挑んでいる
  • 米国が同盟・パートナーシップをいかにうまく形成するかが重要

世界が激変する時代に為政者は、不確実な未来を把握しようと過去との類似を探すことが多い。深刻化しつつある米中対立は「新たな冷戦」かという議論を考えてみればよい。わずか3年前、オバマ米大統領(当時)は自信に満ちた強い中国より、弱く破綻しそうな中国の方が米国にとって厄介だと認識していたが、その後の急速な米中関係悪化が現在のようなアナロジーを招いている。

  21世紀に競い合う米中関係は、1945年から数十年続いた米ソの主導権争いに似るとロバート・カプラン氏らアナリストは指摘する。だが冷戦に例えるアナロジーには欠陥があり、危険ですらあるとみる向きは、中国の脅威を誤解すれば米国は過度に対決的な政策に向かうと警告する。それでも、冷戦アナロジーを単純に却下するのは賢明ではないだろう。当時の対立が中国への対応に有用な視点を与えてくれるためだ。

  まず、このアナロジーの誤解を招く点に目を向けよう。今の中国は、旧ソ連のようにイデオロギー的に資本主義社会の破壊にコミットした革命国家ではない。逆に、アジア太平洋地域の米同盟国全ての主要貿易相手となるほど、世界経済に深く組み込まれている。また、現在の世界の力学は冷戦時ほど二極化していない。米中はむしろ、19世紀終わりから20世紀初めにかけて経済的に深く結び付きながらも熾烈(しれつ)なライバル関係にあった英国とドイツに似ている。

  米国は旧ソ連に対するのと同じ方法で、世界とつながる中国を封じ込めることはできない。それでも、冷戦時代にソ連の活動を抑制したように中国の有害な影響を抑える必要はある。そこに米ソ冷戦の歴史が、一定の有益な思考法を提供してくれる。

  冷戦への例えは、多次元の問題には多次元の対応が必要であることを示す。旧ソ連を強い脅威とさせたのは、世界のパワーバランスに重要な分野への軍事的脅威に、自由主義へのイデオロギー的脅威が絡み合ったことだ。このため、米国と同盟国は軍事的対応のみならず、マーシャルプランや外交努力を通じて西欧社会の民主主義を強化し、共産主義で世界の政治・経済の問題解決はできないという政策を打ち出した。

  現在、中国の問題は主に地政学と経済に関するものだと見なされ、同国が米国に代わりアジア太平洋だけでなく世界をリードする国になることを目指している証拠は増えている。しかし、中国はイデオロギー面でも戦いに挑み、中国型の資本主義が米国型のリベラル民主主義より優れていると主張。カンボジアやジンバブエなど専制色の強い国家を支援し、アジア太平洋域外でも民主主義の機能を損ね、国内ではハイテクを駆使した警察国家を構築しようとしている。

  このため、いかなる対中戦略にも、圧力にさらされる民主主義を強化しリベラルな政治制度が機能すると主張することで、イデオロギーのバランスおよび力の均衡を盤石にすることが求められる。トランプ政権の政策声明、特に国家安全保障戦略(NSS)はこの点、良いスタートを切ったが、トランプ大統領自身は対中戦略でのこうした側面にほとんど関心を示していない。

  冷戦の歴史は、米国には世代を超えて持続し得る勝利の理論が必要だということも再認識させる。米外交官ジョージ・ケナンの封じ込め政策に価値があるのは、クレムリン体制が軟化ないし崩壊するまで米国が達成すべき点とその実施方法を明確にしたことだ。どの米政権でも反復できるシンプルな戦略であると同時に政治的、地政学的環境が変わっても採用できる柔軟性を備えた戦略だった。

  米国は今、そうしたコンセプトを探していることを自覚している。台頭する中国を抑える取り組みは失敗で、より競争的なアプローチが必要だとのコンセンサスがある。米国の長期的な戦略目標はまだ明確化されていない。体制を変更させるのか、中国の地政学・イデオロギー的影響のさらなる拡大を阻止するのか、それとも米中の緊張を解く包括的な取引を結ぶのか。

  冷戦というアナロジーが突き付けるのは、中国との競争で最も決定的な要因は米国が同盟やパートナーシップを結ぶ国といかにうまく付き合うかという点だ。こうした関係は、旧ソ連との対立でトルーマン政権のアチソン国務長官が重視した環境に欠かせなかった。米国は世界の重要かつダイナミックな国々を取り込み、共産主義の世界が自由主義社会のまとまった力を超えることは決してできないことを確実にした。

  今後数年も、同盟とパートナーシップは同様に極めて重要な役割を担うだろう。米国が中国の周辺国・地域としっかり結び付いていれば、中国政府が地政学的に影響力のある地域を支配することは非常に困難になるだろう。米国が欧州とアジア太平洋地域を中心に民主主義国家との団結を維持すれば、中国が経済とイデオロギー、地政学的に及ぼす脅威への対応がずっと容易になる。

  だが米政府が自らの行動でこうした関係を壊すようなことがあれば、米国の孤立が進み、競争力は低下する。冷戦は米中対立の完璧なアナロジーではないかもしれないが、それでも米国の政策を担う人々はその教訓を肝に銘じるだろう。

  (ハル・ブランズ氏は米ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院の「ヘンリー・キッシンジャー・ディスティングイッシュトプロフェッサー」で、戦略予算評価センターの上級研究員です。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません) 

原題:Cold Warriors Hold the Key to Handling China: Hal Brands(抜粋)

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