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【コラム】「もう一つの事実」が根拠の冷戦勃発は真っ平-ローチ

  • 中国に関し取材受けるがインタビューは一般的に誤った前提で始まる
  • 米国側の論拠はエピソードの積み重ね-ハードエビエンスない

繰り返し語られる内容が現実の出来事として捉えられる。勃発しつつある経済冷戦で米国が中国を標的に主張する内容がまさにそうだ。米政界では今、中国が同国に進出する米企業に重要技術の移転を強い、ハッキングおよび知的財産(IP)窃盗に従事しているとみるのが当然のようになっている。

  他の多くのベテラン中国ウオッチャー同様、私もこの数カ月間、中国についてかなり多くの取材を受けてきたが、一般的にインタビューは誤った前提で始まり、誘導尋問がそれに続く。「中国が米知財を毎年、巨額の規模で盗んでいることは誰もが知っていますが、この最大の経済的脅威に今こそ米国は立ち上がるべき時期ではないか」-。

  「誰もが」いったい何を正確に知っているというのだろうか。こうした主張の根拠は、デニス・ブレア元国家情報長官とユタ州知事を務め今は駐ロシア米大使に就いているジョン・ハンツマン氏が共同で統括した「IPコミッション報告書」にある。知財窃盗で米経済に年間2250億-6000億ドル(約24兆5000億-65兆4000億円)のコストが生じているとの2017年時点での極めて幅のある推定値だ。うち80-90%が企業秘密の窃盗で、残りがハードウエアとソフトウエアの偽造・海賊版という。

  だが企業秘密窃盗の試算を支える確かなデータはない。同報告書がこの点で当てにしたのが会計事務所プライスウォーターハウスクーパース(PwC)と「責任ある企業と貿易のためのセンター(CREATe)」による14年の調査であり、それもまた疑わしい「代理モデリング」に頼っている。

  米国の対中関税戦争を正当化するのに用いられ昨年3月公表された、いわゆる「通商法301条報告」の中で米通商代表部(USTR)が中国に対し主張した内容を支える際も同様に疑わしいアプローチが用いられた。

  中国本土での合弁設立には技術移転強制が伴うとのUSTRの主張の核心について、人材や戦略、基本ソフトなどのほか、生産技術の共有が「強いられる」と立証する「ハードエビデンス」はないとUSTR自体が認めている。182ページに及ぶ報告書の19ページ目に「移転政策・慣行はより暗黙的なものとなっており、しばしば口頭での指示を通じて『密室』で行われる」と記している。

  「中国製造2025」といった産業政策については、中国が人工知能(AI)など最先端ビジネスを支配しようとする、類を見ない不公正な取り組みだとされるが、日本ドイツが長く推し進めた同様の産業政策や、米国自らが国防総省を中心とする研究開発プログラムを通じ促進した政策についてはほとんど言及がない。米中2国間の巨大な貿易不均衡を経済の観点から真剣に分析しようという努力も見受けられない。

  中国は完璧には程遠く、検証可能な経済犯罪については責任を負う必要がある。だが米国が中国に対して展開する主張の論拠は、真剣な検証に耐えることのできないあやふやな証拠やエピソードの積み重ねだ。貿易戦争が今や冷戦に転じようとする中で、米国の現政権はそのような「もう一つの事実」に頼るのをやめるのが賢明だろう。

  (スティーブン・ローチ氏はモルガン・スタンレー・アジアの会長を退いた後、現在は米エール大学で上級講師を務める。「アメリカと中国 もたれ合う大国」などの著書がある。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:China’s a Tough Rival, But Is It Really Cheating?: Stephen Roach(抜粋)

    This column does not necessarily reflect the opinion of the editorial board or Bloomberg LP and its owners.

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