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パナソニック、「一蓮托生」のテスラに社運賭けるかー101年目の試練

  • 津賀社長はテスラ向け追加投資に苦悩-プラズマ失敗で経営危機も
  • 長期低迷経て松下幸之助の精神に回帰、「お客様大事」で事業再構築

創業100年を迎えたパナソニックの津賀一宏社長の目下の大きな悩みは米電気自動車(EV)メーカー、テスラとの今後の関係だ。両社が進める車載向け電池の生産は軌道に乗り始め、「一蓮托生」になりつつあるが、追加投資には慎重な姿勢を崩さない。

  両社は、米ネバダ州の砂漠に巨大なリチウムイオン電池工場「ギガファクトリー」を共同運営する。テスラは大衆への普及を狙った「モデル3」の生産ペースが当初は上がらず、テスラに電池を独占供給するパナソニックも「生産地獄」に振り回された。現在は軌道に乗り、津賀氏もギガファクトリー事業の早期黒字化を期待できるまでになった。

Panasonic President Kazuhiro Tsuga Says Gigafactory Profit in Sight as Tesla Ramps Output

津賀社長

Photographer: Akio Kon/Bloomberg

  テスラのイーロン・マスク最高経営責任者は既に先を見据え、上海でモデル3の生産を年末までに始めることを明らかにしたほか、巨大電池工場を中国や欧州などで建設する意向も示している。しかし、津賀社長はインタビューで追加投資についてはテスラと協議中として明言を避けた。その背景にはプラズマテレビへの大型投資失敗などで経営危機に陥った過去の経験がある。

  パナソニックは2000年代以降プラズマに注力し、兵庫県に工場を次々と建設。6000億円をつぎ込んだ投資競争の果てに韓国勢の液晶に敗れ、13年にプラズマTVの生産を終了した。そのつけは2期連続の巨額赤字やリストラとしてあらわれた。1990年にも米映画会社を61億ドル(当時のレートで約7900億円)で買収したもののシナジーを出せず、結局全株を手放した。

Tour Of Tesla Motors Inc.'s Gigafactory With Remarks By Chief Executive Officer Elon Musk And Co-Founder Jeffrey Straubel

ネバダ州の「ギガファクトリー」

Photographer: Troy Harvey/Bloomberg

  テレビ事業では画質や音響などで他社との競争にのめり込む中で「われわれの感覚とお客さまの意識がずれていた」と反省し、12年の社長就任以来、顧客がより明確な企業向け事業の強化へかじを切ったという。

パナソニック株は長期低迷続く

  戦後の家電ブームで急成長したパナソニックはこうした投資の失敗もあり、間もなく終わる平成の30年間にほとんど成長できなかった。前期(2018年3月期)の営業利益は3805億円と1990年3月期の8割ほどの水準だ。

  同じ日本を代表する企業でもいち早く海外展開を本格化させてパナソニックに売上高で3倍以上、時価総額で8倍以上の差をつけたトヨタ自動車や、ゲームや金融事業など次の収益の柱を育てて前期に7349億円の過去最高益を出したソニーとは対照的だ。

  一橋大大学院経営管理研究科の楠木建教授は、「家電の王様」だった過去の成功体験が技術や品質に対する過信を生み、顧客にとって意味のある価値を提供できなかったと指摘する。

  「われわれは先のみえない領域に入っていった」。津賀社長は過去20年間ほどで急激に普及したコンピューターと従来の家電を「同じようなものとして競争した」ことも低迷の背景にあったと振り返る。パナソニックはこの分野に弱く、一時はテレビでデジタル領域に挑戦したものの「しょせんコンピューターとは比べものにならないような世界」だったと総括した。

幸之助側近が語る

  パナソニック創業者の松下幸之助は大阪・船場の丁稚奉公から身を起こし、1918年に妻らと3人で電気器具の製造を始めた。世界恐慌や戦争など激動の時代を乗り越え、現在でグループ社員27万人を擁する日本を代表する大企業の礎を築いた。

Konosuke Matsushita file photos

インタビューに答える松下幸之助氏(1972年)

Source: Panasonic Corp.

  幸之助の秘書などを23年務めた江口克彦氏は、幸之助について人間にとって役に立つかどうかという価値観を「究極のものさし」として持つ一方、時代の変化や地域の事情に応じて臨機応変に事業方針を変える人物だったと語る。

  津賀社長は創業100年の節目を迎え、その幸之助が説いた「お客様大事」という言葉に立ち返り、会社を「創業者の考えておられた姿にもう一度戻そう」との思いを強くしているという。次の100年に向けたイメージを「くらしアップデート」という言葉で表現。家電やテレビなどの枠にとらわれず生活のさまざまな場で人々に快適さや利便性を提供できるような事業展開を目指すという。

  早稲田大学大学院経営管理研究科の入山章栄准教授は、グローバル企業にとっては会社が何のために生まれたのかということが重要で「創業者の原点に戻るというのは大賛成」だという。津賀社長は今後もその考えをわかりやすい言葉で社員に伝え続ける責務があると述べた。

EV普及なるか

  自動車業界ではEVや自動運転のブームなどで先の見えない競争が始まっている。次の100年に向けて歩み始めたパナソニックの成功のカギを握るのも、テスラなど車載向け電池の需要動向だ。

  津賀社長はパナソニックにとってEVの普及は「過去投資してきた電池の事業をやっと大きな規模に拡大するチャンス」と意気込む。一方、自身も車好きでガソリン車を否定するつもりはなく、電池の充電時間や高コストなどEVの本質的な問題もいまだ解決されていないとも指摘。将来のEV需要を見定めきれないでいる。

Elon Musk Breaks Ground at Tesla's First Gigafactory Outside the U.S.

上海の施設に展示された「Model 3」

Photographer: Qilai Shen/Bloomberg

  テスラとの関係も既に単なるサプライヤーではなく「ア・パート・オブ・テスラ(テスラの一部)」という認識でいる。だからこそ、「相当大きな商売になりつつあり、われわれの事業リスクはどんどん大きくなってくる」のも事実だ。テスラの広報担当者からはコメントを得られていない。

  津賀社長は、テスラ向けの電池供給のボリュームは巨大であり、テスラに問題があった場合には「簡単に他の売り先を見つけることはできない」という。

  テスラにとって唯一の電池供給メーカーという現在の状況がベストかどうかも含め、パナソニックにとって「どういう形でお役立ちするのがいいかを考える」ことが今後の課題だとした。

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