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【コラム】マーケットの窮状、やがて実体経済に波及も-エラリアン

欧州や日本、中国、主要産油国を巡る不確実性の中にあっても、米経済に邪魔が入らない限り、恐らく2019-20年に米国がリセッション(景気後退)入りに近づくことさえないだろう。だが現実の経済はそのような状態に置かれていない。

  米経済はこの数週間、政策ミスや市場のアクシデントの可能性に一段と脆弱(ぜいじゃく)となっている。こうした自ら招いた痛手はまだ本格的なものとなっていないが、経済や企業のファンダメンタルズにさらなる脅威をもたらし、いずれも世界的な景気減速の影響を受けやすくなっている。

  米経済には追い風となる多くの要素があり、主なものでも次の3つが挙げられる。

  • 消費支出は堅調な労働市場によって支えられている。11月の雇用統計では、労働市場に新たに参入する労働力を十二分に吸収するだけの雇用が引き続き創出されていることが示された。失業率は3.7%と歴史的な低水準にあり、平均時給は前年比3%を上回る伸びとなった。労働参加率が比較的低水準にあり、求人数が失業者数を上回っているため、職探しを諦めていた労働力が再び労働市場に戻ってくるかもしれない
  • 企業投資も良い環境にある。規制緩和や優遇的な課税措置を背景に、企業は自社株買いや増配ではなく、新規投資に多額の現金保有をどう活用すべきか模索している。人工知能(AI)や機械学習、ビッグデータといった技術革新における最近の進展を応用することによって、生産性を向上させようと多くの企業が熱心に取り組んでいる中で、こうした転換が生じている
  • 民間セクターのこのような成長の展望を政府支出の増大が後押ししている

  こうして、米経済は19年に2.5-3%の成長率を持続させるとともに、次に列挙するマイナスの要因にも抵抗することができる状態にある。

  • 欧州では、成長を支援する政策の実行や地域経済の構造強化が、主要5カ国の政治的不確実性のほか、来年5月に予定されている欧州議会選挙を巡る不透明感によって阻害されている
  • 中国は有効性を失った政策に回帰する傾向があり、経済や金融システムのゆがみが増すリスクがある
  • 日本のアベノミクスの進捗(しんちょく)状況を見ると、成長促進イニシアチブの3本目の矢を実施するのに当たり、社会的・制度的な根深い硬直性を克服できずにいる
  • 産油国が対応を迫られている原油相場の急落は、各国の輸出収入の減少や輸入を含む支出の落ち込みに直ちにつながる可能性がある

  米経済が抱える問題は、他の主要国における一連の課題だけにとどまらない。

  多くの市場参加者は、連邦準備制度と財務省という米国の金融・経済政策の司令塔から発せられるシグナルが時折、混乱して不透明なものになるとして不満を表明しているが、こうした現状に連邦政府機関の一部閉鎖が拍車を掛ける形となっている。

  • 最近のコミュニケーションを踏まえると、連邦準備制度は範囲の狭い国内経済問題に重点を置き過ぎて、一段と広範な政策手段を用いたもっと柔軟な対応の必要性を過小評価している恐れがある
  • ムニューシン財務長官が大手米銀トップに電話をして、銀行システムに十分な流動性があると確認する声明を発表した。信頼拡大を狙った財務省のこうした取り組みは逆に市場に動揺をもたらす結果になってしまった

  市場が既にテクニカル的に不安定な状況に直面し、一部の市場参加者の間でリセッションを憂慮するような言動が広がっている事実がなければ、上記の2つの要因はそれほど心配すべきものではないだろう。

  だが、各国・地域の中央銀行が長期にわたって予測可能な形で潤沢な流動性供給を行い、市場の特性としてボラティリティー(変動性)と脆弱性の源泉を生み出した文脈の下で現状を捉えなければならない。具体的には、それほど楽観的でないファンダメンタルズからは大きくかけ離れた資産価格、パッシブ投資の急速な台頭、過度のリスクテーク、流動性不足に見舞われがちな市場セグメントでの上場投資信託(ETF)などを通じた行き過ぎた流動性の確約などが挙げられる。これに加えて、投資家の間にこれまで見られた押し目買いの傾向が、昨年の場合にように実質的にボラティリティーがゼロのままで大幅な相場上昇を可能にしてきたが、今では機会さえあれば一貫した戻り売りに転じている点が指摘できる。

  対外的なサーキットブレーカーの作動と、低調なファンダメンタルズの対内的な自己消滅の両方か、どちらか一方の事態がない限り、下方へのオーバーシュートのリスクを否定することはできず、いずれの事態も当面想定されない。この結果、マイナス方向の資産効果や家計・企業のセンチメント悪化が組み合わさって、市場の劣悪なテクニカル要因が経済に波及するリスクが増すことになる。

  現時点では、米経済成長を巡る一連の脅威の高まりはまだ、比較的ポジティブな基本シナリオの下でリスク要因のレベルにとどまっている。現状を保つためには、もっと機敏かつグローバルで、変化しつつある基調的な市場心理への理解を深めた政策的発想が求められるだろう。

  (このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Ugly Markets Might Contaminate U.S. Economy: Mohamed A. El-Erian(抜粋)

    This column does not necessarily reflect the opinion of the editorial board or Bloomberg LP and its owners.

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