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【インサイト】金融不均衡で下方リスク、需給ギャップ2.1%下押しも

日本銀行の長期にわたる金融緩和が経済にもたらすリスク(副作用)については、抽象的な話がほとんどだ。ここでは副作用を数字で表したい。具体的には、最近の国際通貨基金(IMF)や日銀のリポートで用いられた分析手法である「GDP at Risk」を応用して、金融不均衡の増加が楽観シナリオと悲観シナリオの下で、1年後と3年後の経済成長にどのように影響するのかを推計し、金融拡大がもたらす功罪を示していく。

  分析からの示唆:現在の小幅な金融不均衡の拡大は短期的な経済成長を下支えするが、中期的には危機時の景気後退を大きくする傾向がある。金融不均衡の度合いを示す金融ギャップにまだ赤信号はともっていないが、金融ギャップを構成する一部の指標は赤信号点滅に近づいている。日銀が力強い緩和を継続する期間が長くなればなるほど、リスクは大きくなる。

日本のGDPギャップは金融ギャップを後追いする

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  日銀は「GDP at Risk」手法を用いて、金融セクターと実体経済の連携を最新の金融システムリポートで総合的に検討した。この分析では、金融不均衡の増加が先行き3年間といったやや長い目でみると、バランスシートの調整圧力をため込むことで下方リスクを高める方向に作用するとしている。

  ブルームバーグ・エコノミクスによる同手法を応用した分析では、金融ギャップを構成する14種の金融指標の中で、家計の借り入れ、企業債務、株価と不動産の価格の過熱が、景気循環後退局面に入った際の需給ギャップ-つまり日本全体の企業の設備や人員の過不足(経済の活動水準)を表し物価変動圧力の目安となる-の調整を大きくする主要な要因であることが示されている。

  「GDP at Risk」の持つ意義を、目標を達成する可能性を最大化する中央銀行は政策に対してリスク管理アプローチを講じていると指摘した米連邦準備制度理事会(FRB)のグリーンスパン元議長の言葉を引用して指摘したい。「政策担当者は、最も可能性の高い経済の先行きだけでなく、あり得る先行きについての結果の配分も考慮する必要がある」。つまり、優れた中央銀行とは政策を講じた際の平均的な結果だけでなく、うまくいったケースに得られる利益と悪い状況に陥ったケースによる損失を勘案して政策を決めるべきだと示唆している。

  ではこの「GDP at Risk」を用いて、幅広い金融不均衡が、上位5%の楽観シナリオと下位5%の悲観シナリオの場合に、1年後と3年後の需給ギャップをどのように変えるかをブルームバーグ・エコノミクスのモデルを用いて分析した。直観的に言えば、現在の大規模な金融緩和から経済がどのくらい利益を得ているのか、仮にテールリスクが実現すれば、その反動で経済にどのようなことが起こるのかを分析している。結果は次の通りだ。

「GDP at Risk」は金融不均衡のコストを示す

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  • 景気の先行きの上位5%最善シナリオでは、金融ギャップの1ポイントの増加が、1年後の需給ギャップを0.1%ポイント増加させ、3年後には1.1%ポイント増加させる傾向がある。
  • 下位5%の最悪シナリオでは、金融ギャップの1ポイントの増加は、1年前には1.1 %ポイントの需給ギャップを増加させる一方、3年後には3.8%ポイント減少させる傾向がある。
  • この影響を2018年第2四半期の金融ギャップ値0.6ポイントを用いて計算すると、最善シナリオでは3年後に需給ギャップを0.6%ポイント拡大させる一方で、最悪シナリオでは2.1%ポイント低下させる。
  • つまり、金融不均衡の拡大による景気の上振れが限定的である一方、下振れリスクは大きくなっている。同時点での需給ギャップが+1.9%であることから、最悪シナリオ時には需給ギャップを一気にマイナスに陥らせるリスクがあるといえる。

  最善シナリオと最悪シナリオの両方で、家計借入金、企業信用、株価、地価などの金融活動指数の4つの指数は、これらを含む14種の指数の総合指数である金融ギャップと同様の結果を示した。

  この分析は1年後、3年後の需給ギャップを分位点回帰分析を用いて推計している。説明変数は、日銀の金融システムリポートと同様に、金融ギャップ、米国の金融環境指数(海外の金融環境の代理変数、米シカゴ連銀が推計)、前四半期の需給ギャップを用いている。サンプル期間は1983年第2四半期(2Q、または利用可能な最も古いデータ)から2018年2Qである。ただし、これらの説明変数も推計値であり、結果は幅を持ってみる必要がある。

  もちろん、経済の見通しが楽観的であればこうした最悪のシナリオは全くの杞憂(きゆう)だ。しかし、日銀行の直近の展望リポートで示されている政策委員による経済成長率とインフレのドットチャートの評価では、リスクは下方に偏っている。ブルームバーグ・エコノミクスでは、財政刺激策が景気を下支えしつつも、米国と中国の貿易戦争のリスクと10月の消費税引き上げが予定される中、19年の景気は減速するとみている。

  成長の懸念に対処するために金融政策を使用し、インフレを促進することは、金融安定性とのトレードオフに直面させる。元FRB議長のイエレン氏は、金融政策は金融の安定性を促進する手段として大きな限界に直面していると指摘している。 14年7月2日の講演では、金融緩和はリスクを取ることに強力な効果があるとする一方で、「しかし、そのようなリスクを取りすぎると、金融システムの脆弱(ぜいじゃく)性を高めることになる」と述べている。

平たん化するイールドカーブが地方銀行の収益を左右する

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  金融環境は依然として日銀が問題ないと判断する域内にあるように見える。それでも、金融の不均衡は徐々に拡大しており、現行の景気の先行きパスでは、ショックに対する経済の脆弱性が増す可能性があるとわれわれは考えている。地方銀行の収益の低下は不適当なリスクを取ることを後押しするかもしれない。日本の金融不均衡が大きくなればなるほど、将来の不況が深刻化する可能性がある。

原文の英文記事はこちらをクリック
JAPAN INSIGHT: Growing Financial Imbalances Put GDP at Risk (1)

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