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父の遺志引き継ぐ安倍首相、北方領土解決へ正念場-政権レガシーに

  • 2島先行返還を視野、中国けん制の戦略的メリットも
  • 「歴史的瞬間、チャンス逃してはならない」-パノフ元駐日大使

安倍晋三首相は1991年4月、旧ソ連の最高指導者として初来日したゴルバチョフ大統領と会談した父の晋太郎元外相に付き添った。平和条約締結を生涯の仕事と見定め、日ソ外交に奔走した父はがんに侵されており、翌5月に生涯を閉じた。

  それから四半世紀。日本の首相となった晋三氏は、2021年までの任期中にロシアとの北方領土問題を解決しようと躍起になっている。日本政府は国後、択捉、歯舞、色丹の4島返還を求めてきたが、交渉は難航。9月の自民党総裁選で「戦後外交の総決算」を掲げ、3選を果たした安倍首相は歯舞、色丹の2島先行返還も視野にロシア側との一致点を探っている。

Soviet President Mikhail Gorbachev Visits Japan

安倍晋太郎元外相とゴルバチョフ大統領(1991年、東京)

Photographer: The Asahi Shimbun via Getty Images

  安倍首相とプーチン大統領は24回の首脳会談を重ねてきた。来年は1月に安倍首相がロシアを訪問、6月には日本で開かれる20カ国・地域(G20)首脳会合に合わせ、プーチン大統領が来日する予定で、それらの機会に開く首脳会談で平和条約締結交渉について議論する見通しだ。

  日ロ関係の専門家であるテンプル大学日本校のジェームズ・ブラウン氏は、「ロシアの立場に変化はない。変わったのは日本だ」と指摘。安倍首相の姿勢について「父親が終生取り組んだ仕事を完結させるとともに、未処理となったままの戦後外交の懸案の一つを最終的に解決した日本の指導者として自身のレガシー(政治的功績)の総仕上げにする決意だ」との見方を示した。

  日本にとってロシアへの接近は外交上、中国や北朝鮮へのけん制になる。ロシアとしても日本と関係を深めれば国際社会での孤立を緩和できる。日本に引き渡した後も日米安全保障条約の適用外にできればなおさらだ。共同通信によると、自民党の萩生田光一幹事長代行は19日の講演で、歯舞群島と色丹島の2島先行返還が中国の覇権主義的な動きへのけん制につながるとの認識を示した。

  プーチン大統領は20日の年末記者会見で、日米安保体制での懸念が解決されなければ北方領土問題で「大きな決断」はできないと述べた。

首脳会談

  11月にシンガポールで行った首脳会談では、1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速することで合意。同宣言は条約締結後に歯舞群島と色丹島を日本に引き渡すことが明記されたが、旧ソ連は60年の日米安保条約改定を受け、態度を硬化。その後、交渉はロシアが継承したが、歯舞、色丹の返還も実現していない。

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安倍首相とプーチン大統領(シンガポール、11月14日)

Photographer: Alexey Druzhinin/AFP via Getty Images

  56年宣言を基礎に対ロ交渉を加速するとの方針は日本国内では、ロシアによる国後、択捉両島の領有権を事実上認める大きな方針転換とも受け止められ、安倍首相への反発も出ている。

  民主党政権で副総理や外相を務めた岡田克也氏は12月、自身のブログでシンガポールでの日ロ首脳合意は「日本の交渉の立場を弱くする不必要かつ重大な譲歩」と批判。立憲民主党の枝野幸男代表は11月29日の記者会見で、「4島とも歴史的にも法的にもわが国固有の領土であるということは明確である。この線だけは絶対に譲ってはいけない」とけん制した

  共同通信が15、16両日に実施した世論調査によると、「2島を先行して返還させ、残りの2島は引き続き協議する」が53.2%と半数以上を占め、「4島すべてを一括返還させる」の28.6%を大幅に上回った。「2島だけの返還でよい」は7.3%だった。自民、公明両党は衆参両院で過半数を占め、野党が反対しても条約の批准は可能だ。

  安倍首相は18日、北方領土の元島民らと会い、北方領土交渉について、「問題に終止符を打つために政府を挙げて交渉を進めていきたい」と語った。北海道根室市の石垣雅敏市長は面会後、「ここが好機と安倍首相が捉えた時の判断は、われわれ近接地域はどんな判断でも受け入れる」と述べた。

JAPAN-RUSSIA-DIPLOMACY-POLITICS-WWII

国後島(2018年10月10日撮影)

  

支持率

  プーチン大統領にもリスクがある。14年のクリミア半島併合後に過去最高に達した支持率は低下傾向にあり、最近では年金支給開始年齢の引き上げを巡って批判を浴びた。ロシアで先月に行われた世論調査で日本に島を引き渡すことに賛成する人はわずか17%だった。

  ロシア下院の共産党の一部議員らは今週、ロシアの「領土保全は交渉のテーマとすべきではない」と主張し、プーチン大統領と安倍首相の会談の詳細開示を要求した。軍の強硬派も動いており、国防省は今週、国後、択捉の新しい兵士用宿舎建設を発表し、日本政府の神経を逆なでする行動に出た。

  モスクワ国際関係大学の日本専門家、アレクサンドル・ルーキン氏はこうした世論の動向は大きな障害にはならないだろうと予想する。ロシアでは「領土問題に関していかなる譲歩にも反対するナショナリストが現れるだろうが、大統領は尊敬される指導者としてこの問題を対処できる」と述べ、「一部の辺境の地は諦めてでも日本とは良好な関係を築く価値があることを人々はおおむね理解するだろう」と語った。

父のライフワーク

  安倍首相は16年12月、地元の山口県長門市でプーチン大統領を招いた首脳会談を前に、晋太郎氏の墓を訪れた。

  外務省によると、その後に行ったタス通信とのインタビューで、安倍首相は旧ソ連との平和条約締結は父親のライフワークだったと指摘。自らも同席した91年のゴルバチョフ氏との会談について「ちょうどその一カ月後に父は他界した。まさに命を削っても日ソのこの課題を解決させたいという執念を見ることができた」と振り返り、「その時私も政治の道に進もう、父の志を受け継ごうという決意をした」と語った。

  ロシアの元外務次官で、駐日大使も務めたアレクサンドル・パノフ氏は平和条約締結は安倍首相の在任中に実現しなければ未来永劫(えいごう)できないだろうとの見方を示す。「ロシアと日本は平和条約に一段と近づいている」と述べ、「いまは歴史的な瞬間だ。このチャンスを逃してはならない」と語った。

  一方、日ロ問題について安倍首相と意見を交わしている鈴木宗男元衆院議員は、来年6月のプーチン大統領訪日に合わせて「平和条約に署名するくらいの思いでやってほしい」と期待感を示した上で、今後の交渉は「スピード感を持って前進していく」との見通しを示した。

原題:Dying Father’s Dream Drives Abe to Seek Peace on Putin’s Terms

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