日本農業の存続待ったなし、救世主は外国人労働者かAIロボットか

  • 農業分野の外国人労働者、24年までに最大3万6500人受け入れ方針
  • パナソニックはトマトの自動収穫ロボット、クボタは自走トラクター

農家の高齢化と後継者難による深刻な人手不足で存続の危機が叫ばれる日本農業。政府が今月決定した外国人労働者の受け入れ拡大が働き手確保の決め手となるのか、あるいは人工知能(AI)を備えたロボット導入が新たな未来を切り開くのか、日本農業の救世主を探すために残された時間は多くない。

  千葉県旭市でミニトマトのハウス栽培を営む角崎康滋さん(67)は、農繁期のみ雇っていた近所のパートタイマーが高齢化で集まらなくなった約10年前、中国人の技能実習生を初めて受け入れた。通年雇用に耐えうる経営にするために規模を拡大し、耕地面積は当時に比べ2.5倍超となる8000平方メートル、ハウスは2棟から5棟に増やした。

ミニトマトをパック詰めにするベトナム人労働者(千葉県の農場で)

Photographer: Takaaki Iwabu/Bloomberg

  今ではベトナムから5人の技能実習生を雇い、ミニトマトの作付けから手入れ、収穫、パック詰めを行っている。農業経営の規模を拡大して効率化や価格低減を図るという国の政策の下、人手不足を補う外国人労働力は欠かせず、農家にとって「一度外国人労働力を使い始めたら、使わずにはいられない状況」と言う。

  高齢化による離農が進み、農家の数が急速に減少する一方、離農者を引き継ぐ農家の大規模化が進んでおり、その働き手として外国人労働者は過去5年で1.7倍の3万人近くに膨らんだ。政府が来年度から新たな在留資格による外国人労働力の受け入れを決めた14業種中、初年度の受け入れ枠は農業が最も多い7300人。5年累計では13万人の人手不足が続き、2024年までに最大3万6500人の受け入れを見込む。

利害一致

  今のところ、人手不足を外国人労働力で補う日本の政策は、途上国から出稼ぎに来る技能実習生と利害が一致する。角崎さんの農場で働くベトナム人のトラン・ティ・ミーさん(29)は、娘の養育費と家を建てる資金を稼ぐために2016年2月に来日。午前7時半から午後4時半まで休憩を除く1日7時間、月170時間働き、収穫量が冬場の3倍になる春先から夏場にかけては、25%の割増賃金で残業もこなす。

トマトを収穫するベトナム人のトラン・ティ・ミーさん

Photographer: Takaaki Iwabu/Bloomberg

  千葉県の最低賃金である時給895円でも、住居費や光熱費などを差し引いた手取り額は月12万円-18万円で、母国のレストランで働いていた頃の月給3万円に比べ、数倍も稼げる。ベトナムで生活した場合に10-15年かかるマイホーム資金は、夫の出稼ぎ分も含めると、3年でめどがついた。来年2月に実習期間を終えて帰国するミーさんは、出稼ぎを続けるならば、「生活にも慣れた日本が一番いい」と語る。

  ただ低成長が続く日本と急速に発展する途上国の経済格差は今後縮まる方向にあり、外国人労働者にとって日本で働くメリットがあり続けるとは限らない。国際通貨基金(IMF)によると、今後40年で人口減少の見込まれる日本の実質国内総生産(GDP)は25%以上減少する可能性がある。

10年で限界に

  農林中金総合研究所の石田一喜研究員は、近隣諸国の給与水準が上がる中、国内でも給与水準の低い農業分野では、「外国人労働力を入れて国内の農業生産を維持しようという発想は、10年くらいの延命措置にしかならない」と指摘する。この猶予期間に、ロボットの導入など技術革新や賃金上昇など労働環境改善が進まなければ、再び深刻な人手不足に悩まされることになると予想する。

収穫したミニトマトをトラックに運ぶ角崎さん

Photographer: Takaaki Iwabu/Bloomberg

  人手不足に対応するため、政府はロボットや情報通信技術(ICT)を活用して省力化を実現するスマート農業を推進。15年に研究会を立ち上げ、16年にロードマップをまとめた。ここで示された農作業や除草作業を行うトラクターなどの自動化を進めるとの目標は、実現に近づきつつある。

国内スマート農業の市場予測

2024年度には17年度比3倍の387億円に拡大へ

出所:矢野経済研究所(18年度は見込み、19年度以降は予測)

  矢野経済研究所の試算によると、国内のスマート農業市場規模は17年度の128億9000万円から24年度には3倍の387億円まで拡大する。クボタが開発した自動走行トラクターなどの無人運転を実現するシステムの登場が見込まれるほか、ドローンを利用した農薬散布やモニタリングサービスなども拡大し、市場全体をけん引するとしている。

スマート化の課題

  スマート農業の導入では水田が先行、野菜や果樹などは遅れているが、パナソニックは収穫率の低さが大きな課題だったトマト収穫ロボットに、発達してきたAIの深層学習による認識技術を取り入れることで実用化に近づけた。20年の発売を目指す。セブンーイレブン・ジャパンは来年1月にリーフレタスの完全制御型の野菜工場を稼働する。安川電機による自動化技術を、種まきから収穫までの全工程で取り入れた。

パナソニックのトマト収穫ロボット

Source: Panasonic

  問題はコストだ。首都圏の台所といわれる全国有数の農業県で規模を拡大してきたトマト農家の角崎さんでも、収穫ロボットの導入には消極的だ。「相当な時間と設備費がかかり、今の段階の機械化は、特に施設園芸の場合は、個人では金銭的に成り立たない」と語る。規模拡大の末に資金繰りに行き詰まった三つ葉農家の事例を引き合いに出し、機械化は20-30年先を見て投資できる企業の参入した農業の姿ではないかと考える。

外国人かロボットか

  日本農業経営大学校の堀口健治校長は、「スマート農業ではできることと、採算が合うということは別」と指摘する。米カリフォルニア州で隣国のメキシコ人がイチゴの収穫を担っている実態を取り上げ、「あれだけ機械化に熱心な米国で機械化ができていない。その方がはるかに安いからだ」と指摘する。日本でも外国人労働力がなければ露地栽培や施設園芸での規模拡大はできない状況で、現状の機械化のレベルでは、「外国人に依存せざるを得ないのははっきりしている」と言う。

トマト農家で働くベトナム人労働者

Photographer: Takaaki Iwabu/Bloomberg

  外国人労働者かAIロボットなのか、あるいはそれらを組み合わせていくことが有効なのか、現時点では見通せない。互いが足を引っ張り合うという恐れを指摘する声もある。

  明治大学の加藤久和教授は、労働力不足の解決策として外国から単純労働力を利用することは、「農家自体が生産性を引き上げる投資をするインセンティブをそいでいるのではないかという見方をする人が多い」とし、その投資によって将来的に進むはずだった機械化による農業の効率化や生産性向上が抑制される可能性を懸念する。

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