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【コラム】「パウエル・プット」に市場はもう期待するな

  • パウエル議長率いる当局者には引き締めが不十分となる方が心配
  • 今週末に予定される米中首脳会談の結果にも注目する必要
パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長

パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長

Photographer: Bloomberg

パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長

Photographer: Bloomberg

米連邦準備制度と株式市場は現在、緊張した関係にある。双方とも自分たちこそ事態を仕切っていると信じたがっている。そして米感謝祭が近づくにつれて、金融当局が市場の要望に応じる形で、利上げ停止の態勢に入ることを示唆するのではないかとの臆測が広がっていた。

  米金融当局はいつも、「何かが壊れてしまうまで引き締めを続けて」しまうため、株式市場のためにはあまりにも急ペースで引き締め過ぎることのないよう思いとどまらせなければならないという考えが定着してきた。こうして、「パウエル・プット」の行使価格を算定しようと多大な努力が払われた。

Federal Reserve Board Holds Open Meeting

パウエルFRB議長

Photographer: Andrew Harrer/Bloomberg

  もっと平易な表現を用いるなら、これはどの程度株価が下げたら、経済全般への副次的ダメージの危険があまりにも大きくなるので利下げに踏み切らなければならないと、パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長やその同僚の当局者が感じ始めるかを探るというものだ。

  こうした思考方法の多くに誤りがあると私は考える。まず、過度の損失から投資家を守るような形で当局が金融政策を運営することを意味する「プット」の考えはアラン・グリーンスパン氏がFRB議長だった時代にさかのぼる。そして、当時は侮辱的な意味合いが込められていた。株式市場について当局の任務を定めたものは皆無で、物価安定と完全雇用の実現という主要任務に影響を及ぼす諸要素の1つとして株価に注意を払うこと以外はなかったためだ。

  だが1998年以降、米金融当局はS&P500種株価指数の水準だけに基づいてフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を動かしてきたようにも受け止められる。「グリーンスパン・プット」という隠語が用いられるようになった2000年代半ばには、以下のようなチャートがトレーディングルームで普及していた。

After LTCM, the Fed Funds rate appeared to follow the stock market

  それは偶然の一致だったのかもしれない。あるいは景気悪化が理由で株価は下落していたのかもしれない。しかし、株安に対応して米金融当局が利下げし、相場回復が危ぶまれないようになってから利上げを再開したように見えたのは確かだ。

  この政策は98年のヘッジファンド、ロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)の救済に端を発する。景気サイクルから判断すれば利上げしていて当然な局面だったが、クレジット市場が凍り付いたのを受けて、定例の連邦公開市場委員会(FOMC)以外のタイミングも含め、当局は利下げを行った。

  一連の利下げはドット・コム・バブルの熱狂の最終章をもたらし、いったんバブルが崩壊すると、株価急落が深刻なリセッション(景気後退)につながるのではないかとの懸念から、グリーンスパン氏率いる当局は積極的な利下げを実施し、2001年9月11日の米同時テロを受けて利下げの動きには拍車が掛かった。

  当局はその後、再び利上げに転じたが、それは年8回にわたって各0.25ポイントずつと、完全に予測可能なもので、市場へのインパクトは最小限なものにとどまった。そうした中で、長期債利回りは比較的低水準で推移し、株価は上昇した。ただ、08年に金融危機が起こると、ベン・バーナンキ議長(当時)率いる当局は積極利下げで応戦した。

  この時期には2つの歴史的な資産バブルの生成があり、その崩壊が深刻な結果を招いたため、金融当局の「プット」はマイナスの評価を受けることになった。当局者は現在、こうした経緯を十分認識しており、当局がもう一度「プット」を用いて株価の下支えを図ろうとするのではないかと投資家が想定するのは賢明でないと私には思われる。当局者はむしろ、繰り返してはならない明らかな間違いとして当時のことを見なしている公算が大きい。

  「グリーンスパン・プット」自体、米金融当局には新しい現象だった。LTCM経営危機までに至るS&P500種とFF金利誘導目標のチャートを見てほしい。当時はグリーンスパン氏が議長を務めていた。

From 1987 until 1998, stocks and the Fed Funds rate seemed unrelated

  LTCM危機の前と後では共通点はない。グリーンスパン氏が議長に就いて初めのころは、インフレファイターとして名高い前任者のポール・ボルカー氏の路線をそのまま継承する人物だと見なされていた。94年には、当局の積極的な利上げが債券市場の弱気相場につながり、メキシコ通貨危機の背景となった一方、米国では株式市場と経済が90年代を通じてブームを謳歌(おうか)する地盤が整えられた。グリーンスパン氏は96年末に「根拠なき熱狂」という有名な表現を用いて株式市場におけるリスクに警告を発し、資産バブルの可能性を食い止めるために1回の利上げを行った。

  少なくとも現時点までについて歴史が証明するところでは、この時期のグリーンスパン氏の政策運営の方が、その後の同氏の政策よりも望ましいと考えられ、こうした考え方が現在の金融当局者の選択にも影響を及ぼす可能性がある。

  次に「バーナンキ・プット」と呼ぶべき、当局によるもう1つの市場支援の形態をチャートと共に見てほしい。

Traders believed the Fed's balance sheet was driven by share prices

  リーマン・ブラザーズ・ホールディングスの経営破綻を受け、政策金利は既に実質ゼロに引き下げられたものの、違った形の「プット」が講じられていたと投資家は確信している。それは連邦準備制度のバランスシートを通じたものであり、相場が下げれば当局は債券購入によって金融市場に直接資金を注入し、量的緩和(QE)として知られる政策で当局のバランスシート上の資産を拡大していくものだった。当局が購入をやめて相場が下落すれば、購入を再開する形を取った。

  当局が現局面で市場下支えのために再びバランスシートの活用に動くと期待するのはやはり賢明ではない。バーナンキ氏とその後任のイエレン氏は自分の任期中にバランスシート拡大に対処しなければならないとの決意をもって臨んだ。バーナンキ氏は退任までの時期に債券購入の段階的縮小に着手し、イエレン氏の場合もバランスシートの漸進的縮小のプロセスを始動させた。

  現在、パウエル議長も大きなバランスシートを望まないという立場を共有しているように見受けられる。現在進行中の量的引き締めのプログラムを終了する話は見られない。何か大きな出来事でもない限り、債券利回りに上昇圧力として作用する着実なバランスシート圧縮の動きは予見可能な将来にわたって自動操縦の形で続けられるだろう。

  もちろん、市場動向が経済的な影響をもたらし、金融当局の行動を促す事態もあるだろう。中国経済の問題が16年に世界的な成長を巡る懸念を引き起こした際には、イエレン議長(当時)は予想に反して12月まで利上げを先送りした。しかし、ここでも過去の教訓を注意深く見つめる必要がある。

  失業率の推移を見ながら、金融当局の2つの責務を考えてみよう。

Would the Fed be as ready to relent now as in the first half of 2016?

  インフレ率は16年初めの段階で当局目標の2%を大きく下回っていたが、現在は目標に到達している。また、失業率は16年初頭に5%と、完全雇用が達成されていないという論拠は今よりもあったが、現在は1960年代以来の低水準に改善。端的に言えば、利上げしない理由は3年前よりも大幅に弱まったことになる。

  中国が重大な経済的危機に陥る状況は容易に想像でき、そうなれば米金融当局も政策変更を余儀なくされるかもしれない。これこそまさに、今週末に開催される20カ国・地域(G20)首脳会議と、それに合わせて予定されているトランプ米大統領と中国の習近平国家主席との首脳会談が注視される理由だろう。米中首脳がそれぞれの語調を和らげることで合意したとの兆候が見られれば、米金融当局は誰にも増して楽な立場に置かれることになる。

  金融政策を巡る連邦準備制度のアプローチとしては、過去何十年にもわたってパンチボウルの取り扱いに例えられてきた。故ウィリアム・マクチェスニー・マーティン氏はFRB議長だった55年、当局は宴もたけなわとなったちょうどそのときに、パーティー会場からパンチボウルを片付けさせるお目付役の立場にあると説明した。場が盛り上がった時点でそれを台無しにするのと、何かが壊れるまで容赦なく引き締めるのは別の話だ。金融当局は過去2つの景気サイクルで、資産バブルの行き過ぎを容認することで別の種類の間違いを犯した。

  引き締め過ぎて何かを壊したと非難される時期があったとすればそれは1990年で、結果的に緩やかなリセッションを招いた。それより前の時期はボルカー氏の議長時代であり、同氏はたとえリセッションを招来させることになっても積極的に利上げすることでインフレを根絶した揺るぎない決意に今でも称賛を浴びている。

  パウエル議長ら当局者は、引き締めが行き過ぎる事態もそれが少な過ぎる事態も容易に生じ得ることを認識しており、いずれの事態も回避するよう努めるだろう。だが、利上げし過ぎるリスクよりも十分に利上げしないリスクの方を一段と心配するものと考えられる。

  これら全てを念頭に置きながら、今週以降は金融当局者から多くの発言を聞くことになる。クラリダ副議長が27日に講演し、28日にはパウエル議長がニューヨークのエコノミック・クラブで講演する。29日には11月7、8両日のFOMC議事要旨が公表され、30日はニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁がグループ・オブ・サーティー(G30)のイベントで講演する。

  パウエル議長は12月第1週に議会証言に臨み、その段階までに、今年最後となるFOMCを同月18、19両日に控えて当局者の意図に関する疑念は全面的に解消され、19日には利上げのクリスマスプレゼントが発表されるのはほぼ確実だろう。パンチボウルは片付けられてクリスマスパーティーも興ざめに終わるという運びだ。

  (ジョン・オーサーズ氏は市場をカバーするシニアエディターです。ブルームバーグに移籍前は英紙フィナンシャル・タイムズに29年在勤し、Lex Columnの責任者やチーフ市場コメンテーターを務めました。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Markets Should No Longer Count on the Fed ’Put’: John Authers(抜粋)

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