株急落でも進まぬ円高、背後にフローの変化か-貿易赤字や直接投資

  • 貿易赤字で年率7兆円程度のドル不足と三菱モルガンは試算
  • 「安全通貨としての円買い」は鳴りを潜めているだけ-みずほ銀
Photographer: Akio Kon/Bloomberg
Photographer: Akio Kon/Bloomberg

世界の株式市場が急減な調整局面を迎えている中、通常であればリスク回避の手段として買われる傾向のある円の上昇の鈍さが対ドルで際立っている。一部のアナリストは、日本の貿易収支の悪化や日本企業による対外直接投資の拡大など資金フローの変化が背景にあると分析する。

  今月10日に米ダウ工業株30種平均は800ドル以上急落、翌11日に日経平均株価が900円の大幅安となった局面で、ドル・円相場は約1カ月ぶりに112円台を割り込んだが、111円台の滞空時間は短かった。さらに先週は米主要株価指数が年初来の上げを失ったが、ドル・円は一時的に111円台前半まで円高に振れただけだった。

  「株がここまで売られている割に、ドル・円は底堅いという印象」。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作チーフ為替ストラテジストは、日本の輸入企業や直接投資に伴う円売り、年末に向けた米企業のレパトリエーション(自国への資金回帰)のドル買いがドル・円を支えている可能性があると分析。「こうしたフローがなければ、ドル・円は104-105円に行っていたかもしれない」と語る。

  日本の貿易収支は原油高による輸入増で、9月に季節調整済みで3カ月連続の赤字となった。植野氏は、年率換算で7兆円程度のドルがネットで不足していると試算。「輸入企業のドル買いは貿易黒字だった春に比べると相当強くなっており、米株が上がろうが下がろうが出てくる」と話す。

  また、近年は日本企業による海外M&A(合併・買収)の活発化で、直接投資に伴う円売りフローの存在感が増している。財務省の国際収支統計によると、直接投資は2013年から毎年10兆円を超えており、17年までの5年間の年平均は14兆9000億円とその前の5年平均の倍近くに拡大した。今年は8月までの合計が9兆6000億円となっている。

  JPモルガン・チェース銀行の佐々木融市場調査本部長は今年の直接投資について「12兆-13兆円は軽くいく」と予想。「証券投資や投機と違い、直接投資は市場環境に関係なく契約したら円は売るわけで、しかも一回の規模が大きい。アンワインド(解消)もない」と指摘する。

  昨年12月成立の米税制改革法では、米企業の海外留保利益の本国送金を促すレパトリ減税が実施された。国連は2月発表のリポートで、同法により約2兆ドルのレパトリが発生する可能性があると試算。三菱モルガンの植野氏は、「感謝祭からクリスマスにかけて米企業のレパトリが一番強くなる時期。特に今年はトランプ減税の影響で、例年より戻ってくる可能性はある」と語る。
  
  みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケットエコノミストはリポートで、短期的には「そもそも利上げすると宣言している通貨(ドル)を積極的に売れない」という事情もあると分析。裏を返せば、米金融当局により「次の一手が利上げではないと示唆されるタイミングこそが相場のターニングポイントになる」とし、「『安全資産としての円買い』は来るべき状況に備え、鳴りを潜めているだけ」と指摘している。

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