Photographer: Bloomberg Creative Photos/Bloomberg

社債市場のタブー検証:募残急増3割-「公然の秘密」に要規制の声

更新日時
  • 9月は48案件中、少なくとも14件が募残-JAL、JTやホンダF
  • 上期の募残は14%-日銀会合後の長期金利上昇で比率が増加
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日本の社債市場でタブー視されている新発債の売れ残りの比率が、ここにきて3割近くに上昇したことがブルームバーグの取材で明らかになった。

  新発債は9月に計48案件が登場、うち少なくとも14件、29%が募残になった。上期(4-9月)は計304案件で42件、14%だった。ブルームバーグが機関投資家、引受会社や発行体への延べ470回超の取材を基に集計した。売れ残りや募残は、新発債への投資需要を引受会社が集めきれずに自身で抱えた状態。手数料の一部を利回りに加えて投資家に売る(割引販売)などで対応する。市場では公然の秘密だ。

2018年度上期の募残比率

7月末の金利上昇後に募残急増

ブルームバーグ: 募残比率(件数ベース)=募残案件数/起債案件数

  9月の募残急増は7月末の日本銀行会合が背景。社債の条件決定の基準となる長期金利(国債利回り)の変動幅が広がり、既発債の含み損や金利の先行き懸念を含めて投資家が様子見に転じたり投資選別色を強めた。8月前半にいったん停止した新発債の条件決定が9月にかけて集中して投資需要が不足した。募残は市場では公には存在しないとされており、実際の情報を得られるかどうかが運用格差に結びつく。

  ある引受関係者は、新発債の売れ残るのは日常茶飯事で1割台はどちらかというと少ない方だったと明かす。同時に、実際に統計を取ったことはないが3割近く残ったと言われてもそれほど驚きはしないと述べた。

  複数の関係者によると9月は日本航空(JAL)や日本たばこ産業(JT)、ホンダファイナンス、出光興産、Jパワーなどが売れ残った。各主幹事は売れ残りを否定し、JAL広報部の松崎里子・主任は「主幹事証券会社からは、発行額を超える十分な申込みがあったとの報告を受けている」と電子メールで回答した。そのほかの企業も同様の見解を示した。

  上期の社債引き受けランキングは順にみずほ証券、野村証券、大和証券、SMBC日興証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券だった。各証券の広報担当者も募残についてコメントを差し控えるとした。

極秘扱い

  新発債の発行条件は、企業が指名した引受会社が投資家への需要調査に基づき決める。発行体が想定する利率の範囲内で希望調達額を満たす投資需要が集まらないケースは引受会社が在庫として保有する。発行体に販売能力がないと思われるリスクを回避したい引受会社は、発行体には需要を水増しして報告をするため実態は通常表面化しない。

  こうした募残情報は市場で極秘扱いされ、株式のような取引所がない社債では相対取引で投資家に割引価格されることもある。社債は公募だが情報の透明性が高くない日本では、限られた投資家だけが実態を知らされ割安に購入することができる。結果として定価で購入した投資家との間で不公平が生じる。

  実際には売れ残っていた社債を定価で上期に購入したある地方金融機関の運用担当者は、引受会社からはすべて完売していると聞いていたと語った。同時に、地方で資金運用していると市場動向を知る唯一の情報源が引受会社で、たとえだまされてもそれを問いただすことはできない、と複雑な胸中を吐露した。

一歩

  新発債の不透明性を関係者はすでに認識している。日本証券業協会は2010年のリポート「社債市場の活性化に向けて」に割引販売の存在を記した。日証協主催で2017年11月に開催された「社債の価格情報インフラの整備等に関するワーキング・グループ」(WG)議事録によると、募残銘柄を売却する場合として「多少スプレッドなどを無視した価格で取引する場合も実際あり得る」と参加者が発言している。

  この中で日証協は社債取引で「売買の別」を10月から開示し始めた。新発債が証券会社の「売り」で初めて取引された場合、証券会社(引受会社)が在庫を売却した場合があり、募残だった可能性がある。ある投資家は、社債市場にとって大きな一歩で今後の取引にも重要な情報開示が始まった、と語った。開示対象を現在のAA格以上からA格まで拡大できるかが今後の焦点だとしている。

  実は日証協は昨年のWGでこの対象拡大を、市場への影響などを懸念する証券会社の反対で見送った。このWGは毎年11月に開催されており、今年も対象銘柄の拡大について話し合いが行われる見込みだ。

透明性

  新発債の発行条件の透明性確保に向けて、機関投資家の需要を発行体と引受会社で共有する「POT方式」を欧米同様に採用する動きも広がっている。サムライ債やハイブリッド債(劣後債)ではすでに定着、今年度最大の2500億円のファーストリテイリング、商船三井や日本郵船のグリーンボンド(環境債)やマクロミルのデビュー債といった小型案件でも発行条件の適正水準を求めて導入が広がっている。

  英語の入れ物を意味するPOTは、社債の条件決定に際して注文の詳細を主幹事証券と発行体が共有する。手続きが透明で、募残の要因となるカラ需要や注文の重複を回避して正確な需給の均衡点を見いだせる。主幹事業務の簡素化も可能だ。同時に引受会社にとっては、顧客を他社に開示することになりかねない。日本独自のリテンション方式は投資家情報を伏せて手続きをする。

  複数の金融庁幹部はブルームバーグの2月の取材でPOTについて、適正価格での発行や透明性を高める可能性があり、拡大を期待していると述べた。同時に採用は民間の判断で金融庁が促進するようなことはないと付け加えた。

  日本銀行の黒田東彦総裁はインドネシア・バリ島でのブルームバーグのインタビューで、金融緩和の出口戦略開始の準備が整ったことを示唆する最初の兆候は、国債利回りに表れるだろうと述べた。現行の低金利政策を継続するとも強調したが、黒田総裁が将来の出口政策について明確に述べるのは異例だ。すでに日銀は「ステルステーパリング」(隠れた緩和縮小)をしているとの声が市場の一部には根強い。

  こうした市場環境の下、ある運用担当者は、投資家は完売を装った情報を基に取引を強いられて上場企業でさえ自社債の売れ行きを知らされない状況は異常としか言えないと指摘した。株式と対照的に社債は透明性の点で取り残されてきた市場で、正確な実態報告や共有を強いる環境作りや最終的には規制が必要なのかもしれないと語った。

  ある引受関係者は、「持続可能な開発目標(SDGs)」が注目される中、社債市場も社会機能の一部として発行側や引き受け側、投資家が活用しやすい場所になるように、まず全ての人たちが真実と向き合って議論を重ねる必要があるのではないだろうかと述べた。

(末尾に関係者コメントを追加して更新します.)
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