妊娠は罪か、負い目感じる日本女性-職場復帰阻む

  • 転職後に妊娠判明、やむなく退職し自ら起業した女性も
  • 出産退職は年間約20万人、6360億の所得損失-第一生命経済研究所

「やってしまった。仕事のプロとして、いけないことなんじゃないか」-。ファンド運営会社に勤務していた渡部雪絵さん(38)は転職から1年もたたないタイミングで妊娠したことが分かった。当時は30代前半で「仕事を絶対続けていきたい」と思っていたが、退職を余儀なくされた。

  渡部さんは2013年8月に第一子を出産したが、直面したのは以前と同様の仕事への再就職が難しいという社会の現実だ。大学卒業後、大手銀行や証券会社などで積み重ねた金融でのキャリアを離れ、自ら起業を決意。働く女性のためにと、オリジナルのワンピースを販売する会社「アユワ」を15年に立ち上げた。

渡部雪絵さんと5歳の長男

Photographer: Noriko Hayashi/Bloomberg

  15歳から64歳までの女性就業率は今年8月、過去最高の70%まで上昇。結婚・出産期に当たる20代、30代女性の就業率が低下するM字カーブはフラット化が進んでいる。しかし、出産を終えた女性の職場復帰は受け入れる側の会社の体制をはじめ幾つもの壁に阻まれ、女性活躍を推進する安倍政権に課題を突き付けている。

  第一生命経済研究所は、17年に出産した母親の2割にあたる年間約20万人が退職したと推定している。6360億円の所得が失われ、生産力低下など企業損失は1兆1700億円に及ぶという。熊野英生首席エコノミストは労働力不足が深刻化する中で「大きな矛盾だ」と話す。

  渡部さんは妊娠・出産で「自分自身の意思と反してやめざるをえなかったのが当時はすごくショックだった」と振り返る。今は子育てをしながら希望する仕事ができるような、母親に「寄り添う」制度が早く整うよう願っているという。

待機児童ゼロ

横浜市の保育園

Photographer: Kazuhiro Nogi/AFP/Getty Images

  政府は女性の社会進出を後押しする目玉施策として20年度末までに「待機児童ゼロ」の目標を掲げている。この1年で保育の受け皿が約11万人分確保され、待機児童数は1万9895人(4月1日時点)と10年ぶりに2万人を割った。しかし、女性の労働参加が進むにつれ、申込者数は前年から6万人以上も増加しており、達成の見通しは立っていない。

  エコノミストの熊野氏は、政府が待機児童を解消しないまま昨年10月の衆院選前に幼児教育無償化へと政策の重点を変えたと指摘。安倍晋三政権の子育て政策が「ぶれていることが問題だ」という。その上で、「問題の根本は女性が出産退職しなくてもよい環境を整えること」であり、女性のニーズに合った育休制度や保育施設の整備こそ急務だとした。

社会通念

ニュージーランドのアーダン首相

Photographer: Don Emmert/AFP/Getty Images

  一方、埼玉県内で3人の子どもを育てているニュージーランド出身のテレビパーソナリティー、ジェシカ・ゲリティーさん(38)は、日本では母親が働いていると子どもがかわいそうと言われる、と社会通念の差に違和感を示す。母国のアーダン首相は6月に出産し、6週間の育休から復職。先月、米ニューヨークで開かれた国連本部の会合に生後3カ月の娘を連れて参加し、話題をさらった。

  働く女性が増えても、日本人の意識には妻が家事や子育てを一手に担う旧来の家族像が根強く残る。内閣府の男女共同参画白書によると、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだ」という考え方に関して、「賛成」「どちらかといえば賛成」と答えた人は男性が44.7%、女性が37%(16年調査)と双方で依然4割程度を占めている。

  渡部さんも仕事を失った後、同じ金融業界で働いてきた同世代の男性から妊娠した女性は一度退職するのが当たり前と言われた経験がある。仕事への意欲は理解されず、キャリアを奪われた悔しさに共感してくれる人は少なかったという。

  経済協力開発機構(OECD)東京センターによると、女性の負担は1日平均326分。同69分の男性の約5倍と男女差は韓国に並んで大きく、その分、働く時間が削られる結果となっている。多くの企業がフレックスタイムや在宅勤務を採用しているが、コンサルティング会社、カレイディストの代表取締役、塚原月子氏は、「機能していない」と指摘する。

  塚原氏によると、ある大手企業では、従業員がコアタイムの午前10時から午後4時まで会社での勤務を義務付けられており、日中に子どもの学校行事が入った場合は半休を取得しなければならないという。別の会社では事前申請が必要なため、柔軟な対応が難しい場合もある。

外国人家政婦

  家事支援サービスも費用が高額で手軽に利用できない。在日米商工会議所の名誉会長でコスモ・ピーアールの佐藤玖美社長によると、外国人労働者を幅広く受け入れているシンガポールや香港では週6日勤務で5ー6万円程度だが、日本では20-25万円と約4倍に上る。同氏は日本では家政婦を雇うことはぜいたくと思われており、アジアの先進都市と比べても選択肢が少ないと指摘する。

  日本で外国人家政婦を雇用できるのは、外交官や高年収の企業幹部、研究者など「高度人材」として認められた外国人に限られている。しかし、女性活躍の支援策の一環として15年に成立した改正国家戦略特区法で外国人の家事代行サービスが解禁され、東京や神奈川、大阪など一部自治体で始まった。政府に働き掛けを行ってきた佐藤氏は「働く母親は、来週や明日ではなく、今日、助けが必要だ」と語った。

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