「衝突」象徴する希望の星-中国の強権統治「輸出」に欧米は警戒感

  • チベットに続き新疆ウイグル自治区を統治する陳全国氏
  • 国連は最大100万人が「再教育収容所」で拘束されていると指摘

台頭する中国と欧米との「衝突」を象徴する人物を1人挙げるとすれば、中国共産党の新疆ウイグル自治区委員会書記を務める陳全国氏がふさわしい。

  陳氏がトップとして統治する同自治区では少数民族のウイグル族らイスラム教徒に対する弾圧が続いている。国連は最大100万人が「再教育収容所」で拘束されていると指摘。同自治区の全人口の約1割に当たる人数だ。

陳全国氏(共産党大会で、2017年10月19日)

写真家:Ng Han Guan / AP写真

  欧州連合(EU)はこうした大規模な宗教弾圧を非難。米議会では超党派グループが陳氏ら中国高官への制裁措置を求めており、貿易戦争ですでに緊張関係にある米中両国が一段と対立を深める恐れもある。マルコ・ルビオ上院議員(共和、フロリダ州)は新疆ウイグル自治区からの報道や報告に触れ、「身の毛もよだつ映画のよう」だと断じた。

新疆ウイグル自治区のカシュガル

フォトグラファー:Kevin Frayer / Getty Images

  だが中国では陳氏(62)は希望の星だ。陳氏は昨年、25人しかいない党中央委員会政治局員の1人となった。2023年には7人から成る常務委員会入り、つまり「チャイナ7」の1人になるかもしれない。

  中国が独裁支配の新しいモデルケースを試すため新疆ウイグル自治区を利用しており、そうした統治方法を周辺地域に輸出するのではないかとの懸念が欧米の各国政府に広がる中で、陳氏の昇進は単なる個人的な出世物語にとどまらない。

カシュガルにある習主席を描いた看板

フォトグラファー:Kevin Frayer / Bloomberg

  党総書記でもある習近平国家主席は、50年までに中国を世界の超大国とすることを目指している。貿易のみならず、サイバーセキュリティーやアジア太平洋地域での主導権争いにまで広がる米中間の対立において、新たな火だねとなるリスクをはらむのが新疆ウイグルを巡る問題だ。
 
  ラトローブ大学(オーストラリア・メルボルン)のジェームズ・リーボールド上級講師は「価値観の衝突だ」と指摘。その上で「中国による極めて高圧的な統治形態の最も新しい手法が、陳氏による統治下の新疆ウイグル自治区で行われている政策だ。一部の欧米諸国はこうした政策が中国の世界における立場やリベラルな西側との関係に対して大きな結果を招き得ると認識し始めている」と述べる。

チベットの村-中国国旗が掲げられている

フォトグラファー:Wang He / Getty Images

  父親が毛沢東時代から有力者だった習主席とは異なり、高名な親族関係のない陳氏はたたき上げでのし上がってきた。大きく頭角を現したのは11年、チベット自治区の党委書記に任命された時だ。胡錦濤前国家主席も中国を率いることになる10年ほど前まで務めていた名誉ある役職で、外国の外交官やジャーナリストが同自治区に入るためには今でも許可が必要だ。

  陳氏がトップに就いた当時のチベットは、中国政府による支配に反対する暴動で揺れていた。陳氏は社会的安定が「第一の責任」だとし、党の幹部をチベットの村に住まわせ、仏教寺院にも党員を送り込んだ。チベットの仏教は「社会主義文明」に適応しなければならないと陳氏は主張。寺院に中国国旗や党指導者の写真などを掲げるよう命じた。

全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の代表-習主席を描いたバッジを身につけている(2016年3月3日)

写真家:Andy Wong / AP

  リーボールド講師と研究者のエイドリアン・ゼンツ氏がまとめた調査によれば、チベット自治区政府は11-16年に警察関連の仕事1万2313件について求人広告を掲載。その前の5年間の4倍余りだ。国営メディアによると、陳氏は15年までにチベットの村々に約10万人の党幹部を常駐させ、1700を超える寺院内に党組織を設けた。

  その陳氏が今監督する新疆ウイグル自治区には、約1000万人のウイグル族が住む。北京主導の統治への反発も強く、09年からテロや暴動が増加。習政権になっても中央政府が手を焼いていた同自治区はまた、習主席肝いりの広域経済圏構想「一帯一路」の要衝だ。アジアから欧州やアフリカに至る現代版シルクロード関係国のインフラ整備に、中国は総額1000億ドル(約11兆3900億円)余りを投じることを約束している。

カシュガルの夜市をパトロールする警官

フォトグラファー:Johannes Eisele / AFP via Getty Images

  習主席は国内のテロを取り締まり社会不安を抑えるため16年8月に陳氏を新疆ウイグル自治区のトップに据えた。そして陳氏はチベットでの成功をここでも再現しようと直ちに行動を起こした。チベットで磨いた手法を用い、新疆ウイグル自治区の治安当局に訓練を施した。

  加えて大規模な再教育収容所だ。ポンペオ米国務長官が激しく批判するなど、欧米では非難が巻き起こっている。新疆ウイグル自治区の報道担当部門にファクスで収容所について問い合わせしたが、今のところ返答はない。

少数民族ウイグル族らイスラム教徒、最大100万人が「再教育収容所」で拘束されていると報じられている

Source: Bloomberg)

  チベットと新疆ウイグルという2つ自治区の党委書記に就いたのは陳氏のみだと中国メディアは伝える。

  米ジョージタウン大学外交大学院のジェームズ・ミルウォード教授は、厳しい治安対策と再教育という陳氏の二重戦略は「人々から民族性を排除して押さえつける」ことを目的に練り上げられたと分析。要職への抜てきや党内での昇進、それに資金力を備えた責務が陳氏に課せられていることを踏まえれば「習主席からの極めて大きな後押しがあるのは明らかだ」と同教授は話している。

原題:The Architect of China’s Muslim Camps Is a Rising Star Under Xi(抜粋)

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