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リーマン対応の日銀の社債購入、抜け出せぬ呪縛ーゾンビ温存も

更新日時
  • 社債スプレッド沈静化し、オペは「もう不要」と前日銀理事の門間氏
  • 異次元緩和導入時点で「継続に疑問」と前審議委員の木内氏

10年前のリーマンショック時に途絶えかけた企業の資金調達への緊急対応策として、日本銀行が始めた社債購入(オペ)。危機は数年前に収まり、社債オペは歴史的使命を終えたが、日銀はこの措置を止められず、副作用を懸念する声が出ている。

Wall Street Aristocracy Got $1.2 Trillion in Secret Loans at Lowest Rates

破綻した米リーマン・ブラザーズ・ホールディングス

Photographer: Jeremy Bales/Bloomberg

  「あの時の企業の危機感は本当にすごかった」。リーマンショック当時、日銀審議委員を務めた須田美矢子氏は、こう振り返る。ショックは日本にも伝播、信用収縮を招き、金融機関の貸し出し姿勢が厳しくなった。2008年末当時は大企業でさえも銀行に融資を依頼すると「だめだと言われた」といった情報が日銀調査統計局から同氏の耳に入ってきたという。

  社債市場でも資金の出し手は萎縮し、発行企業の信用力を表すスプレッド(国債に対する上乗せ金利)は急拡大。一部の企業は起債が困難になった。日本企業のスプレッドの動向を示す野村BPI指数は09年に過去最高値を記録。同年3月に始まった日銀の社債買いオペはスプレッドを押し下げ、起債を容易にする狙いがあった。

金融危機や震災で過去には急上昇

  危機から10年。日・米・欧など主要国では中央銀行が超金融緩和策を取ったり、政府が積極的な財政出動に出たこともあり、金融危機は沈静化に向かった。急拡大していた社債スプレッドは日銀による買い取り(10年にいったん中断)の効果もあって、東日本大震災が発生した11年を除くと、リーマンショック以前の水準にまで落ち着いている。前日銀理事の門間一夫氏(みずほ総研エグゼクティブエコノミスト)は、社債オペについて「今の日本経済にはもう必要ないのではないか」と話す。

  それでも日銀は社債オペの縮小や廃止には動けないようだ。そうした動きは出口政策と取られかねない中で、複数の日銀当局者らは、市場へのインパクトを懸念して社債買いオペの政策変更は適切ではないと考えているという。須田氏は社債金利が押し下げられたことで、本来なら市場退出を迫られるような「ゾンビ企業」でも存続できると指摘、社債オペの継続には弊害があるとみている。

  日銀は19日の政策決定会合で、金融政策の現状維持を決定。社債購入についても、残高約3.2兆円の目標を維持した。

変質

  前日銀審議委員の木内登英氏(野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト)は社債オペについて、09年の導入当時は「企業の資金調達を助けて経済を正常化させるという意味で意義はあった」と認めるものの、自身の任期当時(12ー17年)には既に不要になっていたのではないかと振り返る。

BOJ Headquarters and Governor Haruhiko Kuroda News Conference as Bank Holds Interest Rates

日銀の黒田東彦総裁

Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  黒田東彦総裁は13年4月の異次元緩和策の中で、社債オペの継続を打ち出した。木内氏は異次元緩和自体には賛成したが、社債購入については「その時点でリスクプレミアムはすでに正常化したのではないかと、継続には疑問を感じていた」という。

  前日銀理事の門間氏は、異次元緩和はインフレ期待を醸し出す「イメージ戦略だった」として、「とにかくバーンとやればいいというのが大きなメッセージであり、社債やコマーシャルペーパー(CP)の買い入れが必要なのかどうか、詰めた議論はされなかったのではないか」と話す。安倍晋三政権下でデフレ脱却に向け「やれることは何でもやると言っているのに、そのときやっていることを止めるのはおかしい、というノリだった」と述懐する。

副作用

  日銀は16年1月にマイナス金利政策の導入を決め、社債オペもマイナス金利で買い取る状態が続いている。新発社債の利率はゼロ%近辺まで低下し、金融機関は競争上、貸出金利を一段と引き下げる必要が出てくる可能性があるとして、マイナス金利での社債買い取り中止を求め始めた。

  マイナス金利での買い取りは、「日銀が市場よりも割高で買わされている」ことを意味すると木内氏は指摘。日銀が国庫に納める剰余金が減るという形で「最終的に国民負担につながる」と言う。須田氏は、日銀が買い取ってくれるという安心感から、社債投資家も「リスクに関する感覚が鈍くなる」と話す。

  門間氏はこう振り返る。「あくまでも臨時、異例の措置として始めたのに、その後10年近くも続くとは思っていなかった」。

(第6段落で、本日の日銀会合の結果を追加しました.)
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