【FRBウオッチ】「何でもやる」と言うは易く「緩和」は難し

  • FRBの債券在庫はなお4兆ドル超、政策金利ののりしろも小幅
  • 政策金利の実質マイナス状態が長期化し、資産価格インフレ加速
Photographer: Andrew Harrer/Bloomberg

米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は8月24日のジャクソンホール・シンポジウムの講演で、1960年代後半から80年代初めにかけての一般物価インフレについて金融政策の責任だと認めた。しかし80年代から現在に至る資産価格インフレへの責任はさらに重いものとなりそうだ。

  グリーンスパン第13代FRB議長は「資産バブルは形成過程では認識できないので、破裂後に最大限の金融緩和で治療する」というバブルの事後処理政策を確立。IT株式バブル崩壊後はフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を1%まで引き下げて、バブルの基盤を温存し、一段と複雑な住宅・金融バブルへとつなげた。

  グリーンスパン議長の後を継いだバーナンキ第14代FRB議長は、大恐慌の研究家だった。巨大バブル崩壊後は「最大限の金融緩和によりデフレ圧力を吸収すべし」という学説を打ち立てていただけに、実戦に臨むに際して運命を感じたという。

  2008年9月15日。リーマン・ショックが発生、米国経済が急速な収縮に向かう中で、バーナンキ議長はゼロ金利政策から量的緩和(QE)と、次々に思い切った措置を導入していった。QEは第3弾まで実施され、株価はそれに乗って水準を上げた。

  バーナンキ議長はゼロ金利やQEなど異例の金融緩和政策で「株式など資産価格が上昇した」と誇らしげに語った。量的緩和の正式名称は「大規模資産購入(Large Scale Asset Purchase)」であり、まさに資産価格の押し上げを狙ったものだった。さらにバーナンキ氏は、資産買い上げだけでなく、その資産を「中央銀行が抱え続けることによって緩和効果を生み出すことができる」と繰り返し指摘していた。

  FRBは債券購入を停止したが、売却はせず償還金の再投資を徐々に減らすことで極めてゆっくりと債券在庫を圧縮していく方針だ。こうした迂遠(うえん)な政策を背景に、FRBの米国債と住宅ローン担保債(MBS)の現保有額は8月22日現在、合計でなお4兆ドル(約445兆円)を超えている。

  さらにゼロ金利の解除が2015年末と出遅れた上、その後の利上げも小幅にとどめているため、政策金利は現時点で1.75ー2.0%と歴史的に低い水準にある。しかもゼロ金利解除と時を同じくしてインフレが加速しため、インフレを差し引いた実質政策金利は再びマイナス幅を広げ始めた。

  1970年代以降、政策金利が74年から77年にかけて実質マイナスに陥り、一般物価の超インフレを誘発。2002年から05年にかけての実質マイナス金利期間は、住宅金融バブルにつながった。08年以降、一時期を除いて今なお続く実質マイナス金利は、株価を中心に資産価格を異常な高水準へと誘った。

  危機が訪れたら「何でもやる」と、パウエル議長は勇ましい姿勢を示しているが、大規模資産購入により今なお4兆ドル超の債券在庫を抱え込み、身動きがとれない状態だ。政策金利も9月に予想通り利上げしたところで、2.00-2.25%にすぎない。利下げへののりしろは小さい。「何でもやる」にしては、残された手段はほとんどない。

(【米FRBウオッチ】の内容は記者個人の見解です) 

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